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らん豚女神と縛りプレイ  作者: ジェームズ・リッチマン
第三章 討つは奴への猜疑心
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緊急袋の中身は全て使いこなせるようになっておこう


「なにこれ」

「なんですこれ」


 俺が取り出したものを見せたところ、二人の反応は同じようなものであった。


「ごみ」


 おいペトル、何いきなりそんな容赦無い毒吐いてくるわけ?

 てかお前も一緒に買った所見てたよな?


「まぁ……確かにぱっと見た感じではよくわからないガラクタかもしれないがな……」

「なんでしょう……おもちゃの家……のように見えますが」

「それにしては作りも悪いし、質素すぎない?」


 俺が買ってきたもの。

 それは簡単に言えば、ミニチュアの木製の家である。両手の上に乗る程度の小さなものだ。

 しかしミニチュアではあるのだが、屋根はまっ平ら。窓も一応あるにはあるが、味気ない汚れた四角いガラスが3つの壁面にぽんぽんと嵌め殺しになっているだけである。

 そして入り口であるドアがくっついているだけ。


「中はこんな感じだな」

「何もないですね。……窓から見えてましたけど」

「うーん……山小屋のミニチュア……? 売り物にはならないわね……」


 まぁ、コヤンの言う通りである。

 山小屋のミニチュア。まさにそんな感じだろう。豆腐建築とも言う。

 虫カゴにするにはちょっと窓が小さすぎるし、小物入れには入り口が狭すぎる。

 雑多な品々の中に埋もれて売れ残るのも当然の、格安アイテムである。


 だが、俺はこのアイテムの本当の価値を(すごい神器の力で)見抜いたのだ。


「こいつの名前は、『リージョンコテージ』っていうんだ」

「リージョンコテージ?」

「ああ。系譜は万神(まんしん)ヤォ、光輝神(こうきしん)ライカール、祭器神(さいぎしん)ロウドエメス、閉錠神(へいじょうしん)ギムターム……だったかな」


 この中の閉錠神(へいじょうしん)ギムタームというのは初めて見る名前だった。

 一応、俺もこの世界で生きる人間だ。神様の名前はなるべく一度聞いただけで覚えようと努力している。しかしさすがに閉錠神(へいじょうしん)といわれても、どんな神様なのかまではわからなかった。


閉錠神(へいじょうしん)ギムターム、ですか……つまりこれは神器なのですね?」

「えーこれが? こんな形状の神器なんて聞いたことないけど……ヤツシロ、ちょっとそれ貸して」

「あ、はい」

「クローネ、貴女宣教師さんでしょ? ちょっとこれに鑑定かけてみてくれない?」

「なるほど。そうですね、教布神のスキルならわかりそうです……『聖別鑑定』」


 クローネが箱に触れ、スキルを発動させる。

 するとクローネの手が一瞬だけ光り、すぐに収まった。


「……間違いありません。これは閉錠神の神器です」

「うわ、本当に……」


 いや、調べたくなる気持ちはわかるけどさ。もうちょっと俺の言葉だけで信用しても良いんじゃないの。


「……ちなみに、効果はこう書いてあったぞ。“複数人の使用者が霊力を注ぐことで人数分の簡易住居になる。日の出と共に解除される。”」


 俺がそう言うと、クローネがじっと俺の方を見て固まり、クローネの狐っぽい目が鋭く細められた。


「それは……つまり、家になると?」

「ヤツシロの言い方だと、元に戻るみたいじゃない」

「だな。ただ、俺は読んだだけだし、実際どうなのかは俺だってわからないぞ」

「私も読んだけどよくわからないよ」


 そう。文字だけ見ると、このリージョンコテージはまるで……簡易テントのような働きをするのだという。

 魔力を込めて発動し、朝になれば元に戻る。

 これが本当だとするなら……実に頼もしいアイテムになるのではないだろうか。


「なぁ、一応聞くけど……こういう神器って、二人は見たことないか?」

「……似たものは高級品として、ダンジョン探索者や冒険者などに好まれていますが……これほど使い勝手の良いものではないと思いますよ」

「そうね。さすがにここまでコンパクトにはならないわ……っていうかこれ本当に使えるんでしょうね。霊力消費が馬鹿みたいに多かったら、それはそれで不良品よ」

「だよな」

「やだ、ごはん食べられなくなる……」


 “複数人の使用者が霊力を注ぐことで人数分の簡易住居になる”。これだけ聞くといい話のように思える。

 しかし、どれほどの霊力を注げば良いかは指定されていない。ひょっとすると、一日分の莫大な量を要求されてしまうかもしれない。だとするとちょっと……どころではなく、大分使い勝手の悪いアイテムだ。


 しかし、使ってみて実際に上手くいったとしたら……これは相当にアタリなアイテムではないだろうか。

 今でこそそんな心配は微塵もないが、もし金が尽きて宿無しになったとしても、これがあればいくらでも野宿ができる。

 飯は自分で都合しなくちゃなんないだろうが、宿の問題が解消されるだけでも随分と楽になるのは間違いない。飲み水だけなら、こっちには『万霊の水差し』から無限に湧き出てくるのだから。


「それでちょっと、みんなに提案があるんだけどさ」

「……まぁ、聞くわ。何?」

「ある程度想像はできますが……」

「おう。いきなりこいつを本番で試すのもどうだろうって思うからさ……ちょっとこいつを、どこか広い場所で使って試してみないか?」


 もしこのリージョンコテージが上手く機能する神器だとしたら、このアイテムは俺達のこれからの行動計画にガンガン食い込んでくるはずだ。

 旅はもちろんのこと、遠征や冒険だってできる。野宿が好きなわけではないけれども、俺としてはこのアイテムの機能を是非とも真っ先に把握しておきたかった。


「な、なんだかヤツシロさん、随分と乗り気ですね。珍しい……」

「常に最悪を想定して動くなら、リージョンコテージが使えるかどうかは重要だしな」


 ちょっと散歩に出かけて、“あーテントと寝袋欲しい”と思ったことが何回あったことか……。

 いや、この世界でペトルと一緒にいる限りはそんな変なことに巻き込まれたりはしないだろうが、世の中何があるかわからないのだ。

 食うもの寝るところは、真っ先に確保しておきたいのである。


「……いいわよ。私もこれから一緒にやってくんだしね。緊急の寝床になるかもしれないってんなら、興味もあるわ」

「そうですね……確かに、ヤツシロさんとコヤンさんの言う通りです。時間があって懐に余裕がある今のうちに、ちょっとだけ試してみましょうか」

「おほ」


 そんなわけで、俺達はひとまず、このリージョンコテージを使ってみることにした。

 上手く行けば便利な寝床。全くもって上手く行かなければ、まぁ邪魔なゴミである。


 とはいえ懐が痛むことはないだろう。

 なにせこいつ、50カロンで買った神器だしな。



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