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らん豚女神と縛りプレイ  作者: ジェームズ・リッチマン
第三章 討つは奴への猜疑心
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貸したファミ通の攻略本返してください

 刀装神ガシュカダルより授かった神の剣。

 それを両手で強く握ってみると、不思議と身体に力が湧いて来るようだった。


 ……身体が軽く、血が滾る。

 今なら、いつもの……1.5倍くらいは早く動けそうだ。


「いいかんじ?」


 俺の腰に抱きついていたペトルが、緊張感のない笑顔で聞いてきた。


「そこそこだな」


 神様の武器を持っておいてなんて言い草だと言われそうな返しであるが、職業が初期固定のすっぴんならばしょうがあるまい。

 剣の力もわからないし、俺の腕前だってたかが知れてる。俺はこのくらいのことじゃビッグマウスにはなれないのだ。


 ……それでも。


「みんな、下がってろ」

「……ヤツシロさん」

「ヤツシロ……」


 こんなに上等な得物を貰ったなら、女の子三人くらいは自分で守ってみせないと、格好つかないよな。


「ニンゲンヲコロセ!」

「ヤツラヲコロセ!」


 黒い鎧を着込んだ闇の信徒たちが、ケダモノのような叫びをあげて襲いかかってきた。

 ガシュカダルによって何人か切り刻まれたとはいえ、増援は次から次へと現れる。目算で、およそ二十人といったところだろうか。


 頼みのガシュカダルは闇の中へと跳びかかり、逃げ出したタバカニオルを追撃している。

 今ここで戦えるのは、俺達だけだ。


「ヤツシロさん、微力ながら援護します! 『ホーリー・ライト』!」

「私もっ! なんかもうよくわかんないけど……良いところ見せてあげる! 『レッサー・フレア』!」


 クローネが清浄な輝きによって戦場の闇を祓い、コヤンが炎魔法によって遠くの闇の信徒たちを焼き払う。

 光と炎。2つの力は凄まじい輝度によって、辺りを昼のように照らしだした。


「ぷぴー♪ ぷっぷぴー♪」


 ……あとなんかペトルが笛を吹いている。

 あ、でもこの音色も信徒たちの鎧にダメージを与えているっぽいな。音の波動が闇の煙をビリビリと刺激している……ように見えなくもない。


「ウガァアアアアッ!」


 とはいえ、今の奴らは理性を失った狂戦士達だ。

 身を焼くような炎も、弱点であろう輝きや音色も、奴らを踏みとどまらせる抑止力にはひとつ及ばない。

 なので……。


「おらぁっ! 剣なんてよく知らないけどっ!」

「ガ――」

「とりあえず剣道っぽくやってりゃ良いんだろッ!」


 勢い良く踏み込んで距離を詰めてからの、面打ち。

 竹刀でもなければ日本刀でもない、ロングソードによる振り下ろしだが、勝手は同じだ。

 『ホーリー・ライト』と『レッサー・フレア』で弱った闇夜の鎧ならば、神様の剣なら兜くらい少しは貫通できるだろう。そう思っての一撃だったが……。


 その一太刀は、俺の予想を大きく上回る結果をもたらした。


「……あれ?」


 ストン。文字におこすならそんな音がした。

 振り下ろした剣は何の抵抗もなく真っ直ぐ地面に落ちて、刃先が浅く地面にぶつかっている。


 ――まさか、躱された!?


 一瞬、ゾッとしかけた俺だったが、目の前の光景をよく見ることで、正気に戻る。


「ぉ……」


 真っ二つ。

 身体を左右に分かたれた闇の信徒が、俺の目の前で綺麗に左右へと倒れていった。


 その姿はまるで、りんごを真っ二つに切った時のようなあの動きのようでもある。


「……おい、まじかよ」

「ガァアアア!」


 呆然とするまもなく、続けざまに闇の信徒が襲いかかる。

 しかしここでも俺は焦ること無く、素早く剣を構え直して……今度は生兵法に頼らず、剣の刃先をぶつけるような動きで敵の胴を薙いだ。


「ォオオ……」


 すると、今度は敵の上半身と下半身が玩具のようにぽろりと別れた。

 2つになった身体は糸の切れた人形のように力を失い、少しの悪あがきをすることもなく地面に倒れて動かなくなる。


「なんだこの剣」

「ニンゲン、コロス!」


 襲い来る闇の信徒達は、皆それぞれ武器を持っている。


 黒いカットラス。黒いダガー。黒い大斧。

 そのどれもが凶悪なフォルムで、おそらくは切れ味もそれなりに良いのだろうが……俺の握った剣は、それらの得物さえまるで豆腐かプリンを割くかのように、スルリスルリと切り裂いていった。

 鎧も人も変わらない。剣が触れたものは、全て抵抗なく断ち切られてゆく。


 こうなると、もう相手の人数だとか武器だとか身体能力だとかは、何も関係ない。

 俺の反射神経と動体視力だけが全ての、一方的な屠殺場だ。


「ヤツシロさん、すごいです!」

「いや、なんかおかしくない……っていうか、あの剣変じゃない……?」


 俺の文字通り快刀乱麻な活躍を見て、後衛の二人は声援を送っているような気がする。

 いや、実際俺の活躍は目覚ましいものに違いないだろう。

 なにせ、敵とかち合えば一撃か二撃の元に相手を斬り伏せているのだ。既に倒した闇の信徒は十人を超える。この活躍が凄くないはずもない。


「ほい、ほいっ、うおっあぶねっ」


 ていうか、逆に手応えなさすぎて達成感がねえ!

 ナイフ持って真っ直ぐ突っ込んでくる人たち相手に自分だけものすごくリーチの長いライトセーバーで戦ってるような気分だこれ!


 相手の攻撃をへっぴり腰でひょいとよけて、首を狙って剣をぷぃんと振るう。

 剣の道を志している人間が見たらしばき倒されそうなそんな動きによって、敵が面白いくらい簡単に死んでゆくのだ。これが効率のいい動きだとはわかっているが、それでもなんか……気分が乗ってこない。


「ヤツシロさん、あと少しです!」

「お、おお!」


 だが、今は命がけの闘いの最中だ。

 どうせ最初から砂かけで応戦してたんだ。この際、不格好な闘いには目を瞑ることにしよう。


 ……俺の立ち回りがどう贔屓目に見ても、スポーツチャンバラみたいな動きだったとしてもな!




「ふ。下界での戦もまた、乙なものだな」


 俺達の奮闘が終わって数分した後。

 夜闇の中から、六本腕の神々しい巨人が何か格好いい事を呟きながらやってきた。

 五本の腕にはそれぞれ違った種類の剣を握っており、剣を持たないもうひとつの腕には……これまた大きな、1メートル近いサイズの生首を掴んでいる。


 生首は皺の多い老人のもので……その表情は、呆然とした様子で固まっていた。


 闇から現れた不気味な生首と巨体の姿に、隣に立っていたクローネとコヤンの肩が大きくビクリと跳ねる。無理もないことだろう。


「が、ガシュカダル……様、それは……」

「ああ、これか。これはな……」


 ガシュカダルが生首を手放すと、それは黒い煙となって夜の中に溶けていった。


「囮だ。タバカニオルめ。奴は無数に分身を作り、まんまと逃げ仰せたのだ。器用だが、俺が最も嫌うタイプの闘い方だな。臆病者め」

「はは……」


 なんか、もう、このガシュカダルの巨体を前にしていると、思ったように言葉が出てこない。

 今まで俺は何度も神様と対面して話してきたつもりだが、いざこうして、まさに神といった姿の相手と向き合うと……正直、ちびりそうになる。いや、ひょっとするとちょっと漏れてるかもしれない。


 ……そう、終わったのだ。

 俺たちはどうにか、四方から襲いかかる闇の信徒達を斬り伏せて……命からがら、生き残ったのである。

 ガシュカダルさんを前にしてあのタバカニオルとかいう顔でか爺さんも逃げたようだし、これでようやく人心地がついた。


「お、おお……が、ガシュカダル様。わわわ、私は、教布神信徒の身ではありますが、こうしてちちち、直接……」

「良い。戦の後だ、楽にせよ」

「はへぁ」

「うわっ、クローネ大丈夫か!」


 クローネが壊れたラジオのような調子で自己紹介をしかけたと思ったら、電池が切れたようだ。

 いや、無理も無い。クローネはずっと『ホーリー・ライト』で照らし続けていたのだ。極度の緊張は当然として、霊力も限界に達していたのだろう。


「……っ」


 コヤンの方は、確かに疲弊してはいるようだったが、まだ辛うじて精神を保っているようだ。

 でも、ガシュカダルを目の前にしてガチガチに固まってしまい、言葉も発せないらしい。


「ヤツシロ」

「ひゃい」


 あ、だめだ。俺も似たようなもんだった。 


「俺の声を鮮明に聞くことのできる素質といい、カードによって俺を呼び寄せたその豪運といい……正直、貴様には疑わしいことが多々あるが……」

「ひぇい……」


 なにこれこわい。


「剣を握り、女子供を守りつつ闇の眷属共を討ち続けたその勇姿。一部ではあるが、俺がしかと見届けさせてもらった」

「……!」


 ガシュカダルの顔は、兜によって見えなかったが……きっと今彼は、俺に向かって笑いかけたのだと思う。


「……ふむ、闘いは終わった。どうやらそろそろ、霊界へ戻らねばならぬようだな」

「あ……」


 見ると、ガシュカダルの全身から小さな光の粒が漏れている。

 どうやら彼の身体は、段々と光となって消えているようだ。


 まるでガシュカダルが死んでしまうかのような光景であるが、悲しい別れというわけでもない。彼はこの後、元いた世界に戻るだけである。


「良い戦いだった。俺の貸してやった剣もあるだろうが、まぁ、その点は多目に見ておいてやろう。新兵としては及第点といったところだ」

「あ、ありがとうございます……はは……」


 確かに、剣が強すぎた。それは俺だって良くわかってることだ。むしろあの剣じゃなかったら全滅してたかもしれない。

 けど、それを差し引いてほめてもらえたのは、結構嬉しかった。


「シロ、かっこよかった!」


 俺の服の裾を握りながら、ペトルがはしゃぐように笑っている。


「お、おう、ありがとうペトル。まあ、でもやっぱ剣が強かったよ。こいつがなければ……」


 こうして直接ほめられると、相手が何であれこそばゆいもんだな。

 いや、もちろんペトルだからって悪気はしない。当然。


「む? おお、そのような小さな子供まで庇っていたか。なるほど、であれば、尚更闘いは苦しいものであった……」


 ペトルを交え、和やかな空気になりつつある。

 そう思いきや……。


「む!?」


 ガシュカダルがペトルに意識を向けた途端、なんと彼の身体から漏れ出る光の量が一気に増したではないか!


「な、これはっ」

「ええ!? ガシュカダル様!? 身体が!」

「霊界送りが加速しただと? 一体何故――」

「ちょっ」


 サラサラと一定のタイミングでお別れになるかと思いきや、まさかの早送りである。

 ガシュカダルは一気に光の塊のような姿になって、一息の内にフワァーっと消えていなくなってしまった。


 空に向かって聖なる光の粒が立ち上り、消える。


 俺とコヤンとペトルは、急速に消えていったガシュカダルの姿をぽかーんを見上げているしかなかった。


「……あ、ヤツシロ、その剣……」

「あ……」


 満足な別れの言葉も告げられず消えていった刀装神。

 俺の手元には……返すタイミングを失って借りたまんまの、ものっそい良く切れる剣だけが残っていた……。


 ……え、なにこれ、どうしよう。

 この剣どうしよう。


 え!? どうしたらいいのこれ!?


『ああ、なんという……。道理の歯車については、詳しく説明しておくべきだったでしょうか……』


『神殿では時間も無かったのだろう。仕方あるまい』


『……また次の機会があれば、伝えなくてはなりませんね』


『頼むぞ』


『ええ、勿論です。お任せを』


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誤字などを発見した場合には、感想にて指摘してもらえるとありがたい。
章単位で書き上げた後は、その章内を整理するために話数が大幅に削除され圧縮されるので、注意すること。

ヾ( *・∀・)シ パタタタ…
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