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らん豚女神と縛りプレイ  作者: ジェームズ・リッチマン
第三章 討つは奴への猜疑心
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ファンタジーでは剣が強い

 空から降ってきた一振りの巨剣。

 それは四メートル近い刀身の半分ほどを地面に突き刺し、甲高い音を立てて止まった。

 柄から刃先に至るまで、全て同一の物質で作られているのだろう。その巨大な剣は、全体が銀色に輝き、薄く光っているように見えた。


 宙に舞うのは、黒く細い、枯れ枝のようなタバカニオルの腕。

 敵の腕が、それも神の腕が、一本消し飛んだ。どんな意味であれ、これは相手にとって大きな痛手であろう。

 俺は今この時、何よりも心待ちにしていた増援の到着を確信する。


「まさか、千年に一度も現れぬような神器によって呼び出したのが、ヤツシロ。貴様とはな」


 地面に突き刺さった剣の柄頭に、大きな人影が音もなく舞い降り、着地する。


 ――でかい。


 剣の上に降りてきたそれは、一言で言い表して、巨人であった。


 身の丈は、四メートルほどだろうか。

 そう聞くと然程でもないように感じられるかもしれないが、ペトルを縦に3人積み上げた高さを持っていると考えれば、これは巨人と呼ぶしかないサイズであろう。


 なにより、その威容。

 屈強な灰色の筋肉に覆われた六本腕はそれぞれに異なる種類の剣を握っており、その一本一本から並外れたエネルギーを感じる。

 多腕に武器。下半身だけを覆うだけの軽めの鎧。

 まるで、インド神話に出て来るようなシヴァやカーリーを思わせるような姿だった。


「我が名は刀装神(とうそうしん)ガシュカダル。遮光神タバカニオルとお見受けする……」


 頭部は顔まで覆えるような兜に包まれ、表情は伺えない。

 しかし今ガシュカダルは、確かに笑ったような気がした。


「闇の神が相手とあらば、力を貸さぬ理由はない。タバカニオルよ、ここで散れ!」

「おのれ、おのれおのれ、何故こんなところに刀装神が……!」


 先程までは翁のような笑みを浮かべていたタバカニオルの形相が、醜く歪む。

 カッと開かれた両目は闇を湛え、そこに生物らしい瞳は見られない。タバカニオルは闇の目で、恨めしげにガシュカダルの姿を睨んでいた。


「本当に……降臨した……」


 それはクローネの声だったか、コヤンの声だったかはわからない。

 ひょっとすると、俺の声だったのかもしれなかった。


「やばい……なんだあいつは!?」

「刀装神……様!? いや、馬鹿な……」

「降臨……嘘だ、そんなわけが……」


 俺達の心の声を、より絶望的な立場に立って聴くと、きっとこんな声達が聞こえてくるのだろう。

 周囲を取り囲んでいた闇の信徒達は、口々に焦りと恐怖を口にし始めた。少なくとも、目の前に舞い降りた存在と戦おうと思っているような奴はいないらしい。


「ぐぅ……闇の眷属達よ! 神を騙るこの男を殺せッ!」


 宙に舞った自身の腕を取り、タバカニオルが音もなく後ずさる。

 どうやら強敵の出現に酷く怯えているようだ。


 しかし、けしかけられても周囲の闇の信徒は動かない。

 当然だ。ガシュカダルはどう見たってただの男には見えない。六本の腕に武器を持っていること以前に、醸しだされている雰囲気からして既に絶対の強者なのだ。

 俺が同じ立場でも、仮に戦わなければ死ぬような立場だとしても、こんな神様相手に剣を向けたくはない。


「逃げるか? タバカニオル!」

「ああ、ああ、使えぬ駒共よ。これは命令だ。『盾になって時間を稼げ』!」


 ガシュカダルが二本の剣を振った。らしい。


 ――俺に見えたのは、木の葉のように宙を舞う、両断された黒い死体だけ。


「ォオオオオッ!」

「タテニナレ! オマエラ! タテニナレッ!」


 突如、周囲で轟く怒号と、噴出する黒い煙。

 俺たちを取り囲んでいた闇の信徒たちは豹変し、身体全体から黒煙を吹き出す狂気じみた戦士へと成り果てた。


「闇の加護の過剰付与か。人の魂を底上げし操ったところで、神の剣には通じんぞ」


 煙を迸らせながらガシュカダルへと飛びかかる、発狂した闇の信徒達。

 だがガシュカダルは手にした剣を縦横無尽に振り回し、闇夜の鎧ごと細切れにして吹き飛ばしてゆく。

 間合いに入った人は、文字通り粉々だ。そのまま逃げようとするタバカニオルを追い詰めようとしているのだから、気迫は凄まじい。追いかけられる立場を考えたくもない絶技である。


「チィ……分が悪い……お前たち、『後ろの人間共を狙え』」

「ォオオオオッ!」

「ほう!」

「え!?」


 すわ敵の総大将を討ち取るか、といったところで、タバカニオルから不吉な司令が発せられる。

 奴がそれに声に出した瞬間、生き残っていた闇の信徒達の動きは急に止まり、丸きりの殺意をこちらに移したような勢いで、身体も獲物も向けてきやがった。


「ォオオッ! ニンゲン、コロス!」

「ニンゲン! ネラウッ!」


 生き残りは少ないかと思ったが、そんなことはない。茂みや街道の奥の方から、まだまだ虫のように湧いて来る。

 しかも今度は鎧から濛々を黒煙を吐き出している、見るからにヤバい状態だ。


「く、クローネ! 光のスキルをっ!」

「は、はい! 『ホーリー・ライト』!」

「私も防御を……『守護霊のオーロラ』! クローネを包め!」


 クローネが光のスキルによって闇を祓い、コヤンの魔法が要であるクローネを保護する。

 俺も一応バインダーを開いて構えたが、闇の信徒たちは光に一切怯む様子もなく走ってきているようで、次の手を打つ暇がない。


 ……タバカニオルの力で、光への耐性が強化されているのか!?


 そんな仮定を思い浮かべている間にも、既に俺の目の前にはカットラスを構えた闇の信徒が迫っており……。


「逃げの時間を稼いできたか、小癪な奴だ」


 そいつは、次の瞬間には真っ二つに切り分けられていた。

 背後から振り下ろされたガシュカダルの剣が、一太刀で闇の信徒を絶命させたのである。


「まあ、いい。俺を降臨させた連中だ。共に戦うとあった以上、貴様らを守るのも吝かではない」


 言いながらも、ガシュカダルは目に見えない速さで剣を振り続け、空中に血霞を振りまいてゆく。

 もはやその姿は、刃物を使っているというよりは、“当たると死ぬ何か”を振り回しているようにしか見えなかった。


「おい、ヤツシロ」

「は、はいっ!」


 目に見えない剣舞が止むと、俺達の周囲には……人を十人摩り下ろしたら出来る程度の血だまりが出来上がっていた。

 ガシュカダルはその中心から、俺に向かって一本の巨大な剣を差し出してくる。


「俺を喚び出したのであれば、共に戦え」

「……は……? え、と……?」

「その剣を手に取り、俺と共に戦えと言っている。俺は腑抜けを守るつもりはない」

「は、はい! 喜んで!」


 一緒に闘わないと守ってやらんという。

 そう言われたら、もう否応なく剣を受け取るしかないだろう。


 差し出された大剣は巨大だったが、俺が柄に触れると不思議なことに剣がみるみる縮み、俺にとって丁度いい……さっき捨てたロングソードくらいの大きさに変化した。

 不思議なことに、重さはロングソードよりも軽かった。



『あー……このタイミングで発動したんですか。なるほど。まぁ、悪くはありませんが』

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