義妹というものに憧れていた時期が俺にもありました。
初めてこういうのに挑戦してみました!
楽しんでもらえるかな?
みなさんは義妹というものに憧れているだろうか。
俺も昔は憧れていた。義妹というものの言葉の響きすら愛していた。
うちに本物の義妹がやってくるまでは。
「ただいまー」
「あ、お帰りお兄ちゃん!」
うちの義妹、蜜柑の声。お兄ちゃん思い、料理得意の良き妹なのだが、ただ一つだけ、難点をあげるとしたらーー
「モゴモゴ……」
「うっさいブタ、テメーはあたしの椅子だろうが。椅子が勝手に喋るんじゃねー」
蜜柑が座っているのは断じて椅子ではない。どこから見ても中年小太り上半身裸なおっさんだった。
ただ一つだけ難点を挙げるとしたら超絶的なドSという点だろうか。
蜜柑はおっさんの脇腹に鋭い蹴りを一発ぶち込むと天使のような笑顔を浮かべる。
「ねぇお兄ちゃん!ご飯にする?お風呂にする?それとも……蜜柑にする?」
「晩飯で」
即答する俺。だって正直ここまで二面性のある妹なんて怖いんだもの。
「お兄ちゃんのいけずー」と言いながらも台所へと向かう蜜柑。今日の料理はなんだろうか、蜜柑のつくる料理はなんでも美味いからいいんだけどね。
ーーまぁ、移動する際に立ち上がってついて行こうとしたおっさんに足払いをかけて「ブタは黙って四つん這いで歩くんだよ勝手に立つな」と罵っていたのはこの際目をつぶろう。
恍惚な表情を浮かべるおっさんは絶妙に気持ち悪くて、正直目も当てられなかった。
蜜柑が作ったカレーを食べ終えた俺たちはそれぞれお風呂に入ることにした。蜜柑は「お兄ちゃんと一緒に入りたい!」と言っていたのだが、高2の思春期真っ盛りの俺と中2で色々成長を始めた蜜柑とが一緒にお風呂に入るのは非常にマズイ。主に俺のエクスカリバーが……げふんげふん!
と、いうわけで今俺はおっさんと二人、リピングにいる。正直すんごい気まずい。
空気の重さに耐えきれず、俺は話しかけることにした。
「あの……」
「はい、なんでしょうか」
さるぐつわを外して喋る案外礼儀正しいおっさん。
いや、まだ上半身半裸だし、キモいけど…
「……なんでこんなことやってるんですか?」
「……話せば長くなりますが」
そう言って話を始めたおっさんは語った。
見た目のせいで会社の中で嫌がらせにあったこと、そんな中で自分がドMであることに気づいたこと、そのせいで奥さんに逃げられたこと、絶望に打ちひしがれる中で蜜柑にあったこと、蜜柑に心を救われたこと。
俺はその話をきいて蜜柑が誇らしくなった。ドSで人々を救う。大変結構じゃないか!
俺にそれだけのことを話すと、おっさんはこっそり家を出ていった。
「あれ?あのブタは??」
風呂から上がった蜜柑の声。
「おっさんなら帰ったよ」
「そっか……また会えるといいな」
俺ももう一度会ってみたい、話してみたい。
おっさんとなら仲良くなれそうな気がしたから。
……あと、どうすれば蜜柑に罵ってもらえるか、ききたかったから。