翹望
どこかをたずねようとしていて
できればあたたかなところがいいのと
うんとしずかな思い出の地下室があればいいのと
ながれたイメージは
ファジー
空気にただよう言葉たちに
もまれ
みたすこともできず
みたされることも
みちたりた姿が何なのかさえ
語ることができずにいる
そのまま語るべき言葉をもたず、
そのまま語るべき言葉をもたずに、
語ることができずに
みちたりない
みたされない
みたすこともできないのに
この街での息の吸い込み方を知っているか いいや
窒息して、
苦しいと、
いくばくか、
息を吸い込むまいと決めてから、
記憶を瓶詰めに
うんとしずかな暗がりの中に
ふるえるばかりで
語ることもできずに
埃のセロファンに蓋をされて だって
ほうっておいたらすぐに
溢れでてしまうから
そう
です、それは、
こころの糸
くず、
絡んだときに解れたもの
です、
古びた漁村の墓地で弔われるの だって、
寝床がいつまでも街のくぼみにはまらない
ぜい肉は、ふるきの里に置いてきた
いまも切れずにふるさとに
たれ流しつづけているのに
ハロー、
心。
ここにはいない
心。
ハロー、
心、
ハロゲンの心、
うわついたままファジー
あまだれを吸い込みすぎたんだね、
ふやけた心 さびついていて
やあ、
すっかり冷えてしまったね
醗酵したビブラート
ようやくここに座り
きみのふるえをみつめて
たとえば、
たとえば雨がそれとして。
(たとえば秋雨が音色だとして、
そうして音があって
ドヴォルザークをきいていた
弾ける木管 四散するこだま
音色は
あたたかな色あいをした飛沫
びしょぬれに浸されて心地いい
コンサートホールにいる、こんや。
(たとえば雨が愛のことばだとして
音があって
ことばがあって
偶にあらぬ方向へ 飛び立って
とんだきり、帰ってこなくって
けれども帰りを待ち侘びていて
其処彼処に喧騒が在って
徒言ばかりが姦しいなかで
はた、と
こだまする
ほら甲高いソプラノをきけば
結合すべきことばとことばがむすびついた
あい して います