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スパイゲーム

作者: taishi

<MONEY>

ここはとある地方都市のとあるレストラン、薄暗い店内の個室で一組の男女が愛を語らう。

「素敵・・・、一度ここに来てみたかったんだ。けど、このお店高いでしょ?いいの?」

女は申し訳なさそうに男を見つめる。

女の身なりを見ると若干このレストランに不釣り合いではある。貧しさは感じられないにしても、一般職の女性が着飾る事の出来る精一杯のお洒落をしている服装だ。高給取り、もしくは良家のお嬢様ではないだろう。

見た目も平均で、しばらく会わないと忘れてしまいそうな顔である。

「心配ないさ、総合職の人間は少なくとも君たちよりは貰っているからね。さあ、好きなワインを頼んでよ。良子ちゃんは白ワインの飲みやすいやつが好きだったよね?」

一方の男は年齢は30代前半ぐらい。オーダーメイドの仕立てのいいスーツに、腕に光るブランド物の時計とカフス、イタリアで買い付けた少し先細の革靴とシルクのネクタイ、全てのアイテムを上品に着こなしている。

「嬉しいありがとう。けど、夢みたい。本社の出世コースにいる公也さんが、私みたいな何のとりえも無い子と付き合ってくれるなんて。・・・ねぇ、少ししたら東京の支店や本社に行っちゃうんでしょ?私の事なんてわすれちゃうよ・・・。」

女は下を向き、少し唇を尖らせすねた様な口調でつぶやいた。

良子たちが働く東王銀行は日本屈指の財閥系金融機関である。

その中でも東王銀行の総合職は東京6大学でも入れないほどの狭き門であり、入社当初は勉強の為、地方の支店を周る。

その中で優秀な人間が振るいにかけられ東京の支店に配属、さらにその中で一握りの人間は本社の重役の椅子を手にする事が出来る。

後藤公也は日本最高峰の大学のひとつである城修大学を卒業。東王銀行に入社後様々な実績を上げ、次の人事で東京の大手町支店への異動が決定している。

30代にして東京の大手町支店に配属という事は、将来を期待されていると言っても過言ではない。

「そんな事はないさ!俺は必ず出世して良子ちゃんを重役婦人!いや、社長婦人にしてみせるよ!」後藤は真直ぐに良子を見つめ、手を握り熱っぽく語った。

「ありがとう。・・・・本当に嬉しい。」

良子は後藤の勢いに少し圧倒されながらも目をうるませている。

心の中で後藤との幸せな結婚生活を思い浮かべた。

そして、今ここで後藤といる幸せをかみ締めていた。

「ありがとう。だから良子ちゃん・・・あの話、協力してくれるよね?」

“あの話”と後藤が言った瞬間に良子の顔が曇った。

後藤から目をそらし思いつめた様に言った。

「・・・だめだよ公也さん。犯罪だよ。・・・私出来ないよ。」

良子は精一杯の説得をしようとおそるおそる後藤を見た。お願い!止めて!と心では叫びたいのを我慢している。

目が涙でいっぱいになりそうになる。

「なんでだよ!これは二人のためでもあるんだよ!早く結婚をして君を幸せにするには、先立つ物が必要なんだ。大丈夫、俺が今まで仕事で失敗した事があるか?絶対に失敗しない。信じて欲しい。」

後藤はもう一度良子の手を握り、熱いまなざしを送った。真直ぐな瞳に良子は思わず目をそらしてしまう。

「・・・解かった。協力する。けど、これ一回にするって約束して。」

良子は訴える様に言った。後藤を信じていないわけではない、けど後藤を犯罪者にしたくない。

二つの感情が入り乱れた表情を後藤に向けた。

「ありがとう。この件が成功したら君のご両親に会いに行くよ。二人で式の日取りを決めよう。

後藤はそういい終えるときつく良子を抱きしめた。

「・・・公也さん・・・愛してる。」良子は目を閉じて体を後藤にゆだねた。

一方、後藤は良子をきつく抱きしめながらも氷のような瞳で不気味な薄笑いを浮かべた。


T市中央支店での業務は後藤にとって退屈意外でのなにものでも無かった。

周りは出世コースにのる自分におべんちゃらを使い、直属の上司でさえも後藤を叱咤する者はいない。

支店の業務など後藤にとっては片手間で出来る業務ばかりである。まあ、あと数ヶ月もすれば自分は晴れて東京の支店に配属される。そこではもっと大きな仕事が待っている。

こんな地方都市で貧乏人相手に普通預金の勧誘などしてられるか!後藤は常に周りを見下しながら生きてきた。

良子に対しても例外ではない。

あの地味な女を使って金を横領する。

東王銀行では一ヶ月に一度、金庫の暗証番号を変更する決まりになっており、後藤はその暗証番号を設定する役割である。

当然、自分で設定した暗証何号で横領が起きたら犯人は後藤となってしまう。

ある方法を使ってあらかじめ協力者(今回の場合・良子)に暗証番号を伝達する必要がある。

金融機関のデスクには横領防止の為、携帯はおろか私物の持込を一切禁止している。

メールなどもすべて本社で管理されており、うかつに暗証番号を知らせる事は出来ない。

後藤はある方法を使って良子に金庫の暗証番号を伝達している。

その暗証番号で金を横領させ後藤は懐を暖めていた。

後藤自らは手を下す事はない、横領が明るみに出た場合は良子などの共犯者を切り捨てればいいだけのことである。こうして後藤は横領がばれそうになると協力者である銀行員の女性を犠牲にし辞めさせた。


窓口の方に目をやると良子が後輩に業務を教えている最中であった。

「いい奈々実ちゃん。お札を数える時は3枚、2枚で数えるのよ。」

「へー、そうなんですか!勉強になりますぅ。」

「じゃあ奈々実ちゃんも実際にやってみようね。」

「はーい!解かりました!」

「ふふふ、奈々実ちゃんは元気で可愛いわね。」

「へへ、解かってますよ。」

「こら、まじめにやりなさい。」

「はーい。」

実にほほえましい光景だ。良子は今年で27歳、後輩もできて仕事にやりがいを感じるころだろう。

後輩の熊田奈々実は今年入社した新卒だ。

明るいキャラクターで行内でも皆から愛されている。

奈々実も良子の事を慕っているのが解かる。

そんな後輩からも慕われる良子が俺のために横領に手を染めるか・・・皮肉なものだ。

良子と目が合うと、良子は照れくさそうに小さく会釈をした。俺も小さく会釈を返す。

計画通りに行けば今日の深夜には俺の口座に横領した金が入るはずだ。

後は良子を信じて待っていよう。

後藤は再び自分のパソコンに目を落とし、退屈な支店の業務に意識を戻した。


「今月の最優秀行員賞は後藤公也君だ。おめでとう。」

フロア中に拍手が巻き起こる。後藤の心中では当然の事すぎて何もめでたくない。

「これからも東王銀行T市中央支店の為に頑張ってくれたまえ。」

支店長の前島が後藤に賞状を渡した。

「ありがとうございます。これからも精一杯頑張ります。」

後藤は深く頭を下げたが、心の中では前島を馬鹿にしてる。

所詮、地方大学出身のあんたも支店長止まりが関の山さ、これからは俺に頭を下げる事になる。

今のうちに楽しんでおくんだな。後藤は心中を読まれない様に前島を真直ぐ見つめた。

「やっぱり、後藤さんはすごいですね。奈々実も憧れちゃいます。」熊田が良子の耳元で囁く。

良子もどことなく誇らしげだ。この程度の事で・・・これだからエリート以外の人間は嫌いだ。


予想外の出来事が起こったのはその日の深夜だった。

良子が横領して入金されるはずの金が入って来ない。

・・・なぜだ?良子のやつがヘマをしたか?いや、そんな事の無いように入念に手順を確認した。

間違えるはずなどない・・・、ならば横領した金はどこへ?

翌日、後藤は良子を屋上に呼び出した。

横領に手を染めてしまった事で良子はひどく心を痛めてしまい、昨日は一睡も出来なかったという。

目の下にはクマが出来ていた。

後藤は良子に手順を確認したが、良子は後藤に指示された通りに動いている。では、なぜ?金はどこへ行ったのか?後藤は作戦通りに行かなかった事に苛立ちを覚え初めていた。


「ねえ、公也さん・・・。もう、辞めにしましょうよ。こんなこと駄目だよ。今から皆にあやまろ。私も一緒にあやまるから・・・・、出世もしなくていい。この街で私と幸せな家庭を築きましょうよ。」

すがるように良子は公也の腕を取ろうとしたが、後藤はそれを思い切り払いのけた。

そのまま乱暴に良子の襟を掴み屋上のフェンスに押し付けた。

キャ!良子は小さく悲鳴を上げた。その顔は恐怖で青ざめている。

「さっきからきいていれば・・・・、貴様何様だ!ええ!出世しなくてもいい?幸せな家庭だと?寝ぼけた事いってるんじゃねェ!!俺はな、お前らとは別次元の人間、エリートなんだよ。お前らとは考えてる事が違うんだよ!それを皆に謝ろうだ!俺に指図するんじゃねェ!!!!」

後藤は狂ったように良子に怒鳴り散らした。そこには良子の愛した後藤の姿はない。欲望に支配された悪魔がいた。

「こんどふざけた口利いてみろ!お前が今回の横領の主犯格だって銀行中にしらせてやる!それが嫌なら俺に従え!解かったか!」

そう言い終えると後藤はその場から立ち去った。

良子はその場にへたりこみ自分の肩を抱き、小さく震えながら泣いていた。


深夜、後藤は銀行に忍び込みパソコンを立ち上げた。

おかしい、暗証番号を入力し指定された金額を俺の口座に送金するだけ、この程度の作業なら行員である良子ならなんの苦も無くできるはずだ。

後藤は銀行のプログラムを入力し、暗証番号を入力した。


「エラー発生、暗証番号が違います。」

なっ・・・・、馬鹿な、暗証番号が違うだと?俺が設定したんだぞ!なぜだ?なぜ違うんだ?誰かが暗証番号を変更したのか?いや、暗証番号変更には前回の暗証番号入力が必須条件になる。

行内で暗証番号を知っているのは現時点で俺と良子だけ・・・だれが暗証番号を入手したんだ?

後藤は心拍数が上がり、頭の中が混乱している事に気が付いた。

落ち着け、俺はエリートだ、これは何かの間違いだ。何かシステム上で落とし穴があるはずだ。いったいなんだ?なぜだ?なんだ?なぜだ?なぜだ?なんだ?なぜだ?なぜだ?なんだ?なぜだ?なぜだ?なんだ?なぜだ?なぜだ?なんだ?なぜだ?なぜだ?なんだ?なぜだ?どうしてだ!!


すると、行内の照明が一気に点灯した。「だれだ!!」後藤は声を上げてあたりを見回した。

「探し物はこれ?」背後で女性の声が聞こえた。

後藤が振り返ると・・・・熊田奈々実が立っていた。その手には一万円札が一枚握られていた。

「貴様!なぜそれを持っている!」後藤は目を充血させながら奈々実に詰め寄った。

「おかしいと思ったのよね。良子さんからお札の数え方を教わっている時、新札の中に一枚だけ使い古した旧札が入っているんだもの。これ、あんたのお金でしょ?あんたは暗証番号を設定する時、自分で用意した一万円札の製造番号を暗証番号にしていた。そのお札を新札に紛れこませて良子さんの手元にいくように仕向けた、この方法であんたは良子さんに銀行の暗証番号を伝達していた。

銀行では私物を使って暗証番号を伝達する事ができない。かといってメールも駄目、銀行で一番ありふれて目立たない物、それはお金。考えたつもりかもしれないけど・・・浅はかね。」

奈々実は冷たい微笑みを後藤に向けた。いつもの愛嬌のある奈々実とは別人の冷たく無機質な女がそこには立っていた。

「貴様!馬鹿にしやがって!それを返せ!」後藤は奈々実に襲い掛かった!

しかし、奈々実はいとも簡単に後藤の突進を避け、背後に回り込み、足払いをして後藤を投げ飛ばした、後藤の身体がフワッと浮いた瞬間!!後藤は顔面から机に思い切り衝突させられ鼻が折れた。

銀行のデスクが血に染まる。

「がぁあ!ぐぐぐわ!」後藤は奈々実に押さえられながら悶えている。

「貴様!俺はエリートだぞ!俺が本店に言って、お前みたいな女子行員クビにしてやる!」

後藤の言葉を聴いて、奈々実はあきれたように小さくため息をついた。そして後藤の耳元で一言、

「あんまり騒ぐと折るよ。」冷たく囁いた。

後藤は青ざめておとなしくなった。

「そうそう、申し遅れました。私こういうものです。」奈々実が後藤の目の前に名刺を置いた。

株式会社スパイE NO,121  熊田 奈々実

「スパイ・・・だと!」後藤は奈々実の存在が今でも理解できていない。

「そ、今回東王銀行で横領事件が多発しているから調べて来いって、私が派遣されたの。古札での暗証番号だけじゃイマイチ確証がなかった。けど、昨日屋上に行ったら良子さんが大号泣していた。彼女が全部話してくれたわ。それで犯人はあんたってなった訳。」

「ふん、結局は良子の話聞いて同情的になっただけだろ。スパイも所詮は人間か。」

ケッケッケッと後藤は馬鹿にしたように笑った。

「勘違いしないで、過去に横領事件が起こった支店とその時に支店にいた社員名簿を照らし合わせればだいたい犯人の目星はつくの、つまり犯人はどの道あんたよ。」

奈々実は事務的に応えた。

「・・・と、ここまでは任務の話、個人的にあんたみたいな男・・・殺したいぐらい嫌いなの。今日は朝まですべてはいてもらうわよ!」

ヒイ!後藤は情けない叫び声を上げた。


翌日、後藤の幾度にわたる横領事件が明るみにでて後藤は懲戒免職を受けた。

奈々実は看護婦になる夢をあきらめたくないとの事で二ヵ月後退社した。

良子も自首をしたが結果的に被害は無かった為、無罪放免となった。

あの事件はなんだったんだろう?良子は今でも思い出す。

しかし、いくら愛する人の為とはいえ犯罪の片棒を担ぐところだった。

強く生きよう。正しいことをして人生を正々堂々真っ当しよう。

良子は以前より前向きになれた気がした。


<GREEN TEA>

日本のとある高層ビルの最上階に株式会社スパイEのオフィースは存在する。

約200人もの社員スパイを抱えるスパイEだが、その大半は任務中でありこのオフィースに顔を出すことはない。

スパイEの請け負う仕事は様々でターゲット、潜伏期間、場所、難易度などは任務によって異なる。

ある国の政府機関に進入し情報を入手する任務、大企業に何年も潜伏し社員に成りすまし不正を暴く任務や、警察には頼めない組織内の問題の撲滅など多種多様だ。

スパイEの社員はある日突然資料を渡され、その瞬間からスパイ活動に入らなければならない。

長い任務だと潜伏先の会社で偽造の為に結婚し、出世し、定年を迎えるスパイもいる。

しかし、任務が終われば次の任務の為にスパイはその組織から脱出しなければならない。

たとえ家族がいようとも、社内的な立場があろうとも姿を消さなければならない。

中には偽りの死を演じて脱出をしたスパイもいた。


しかし、一般人が翌日からスパイにはなれない。素質と能力の二つがない限りスパイEではスパイとしてのナンバーをもらえないのである。

スパイEへの入社試験も変わっている。

まずは指定した面接時間・場所に来ること。

一見普通に見えるがたった一つだけヒントを与えるだけで入社試験だと気付けない人間だとまずはアウトだ。

そのなかでもごく稀に面接会場にたどり付く者がいる。そのたどり着いたものが面接に進めるが、その面接も奇怪な物が多い。

ここに来るまでの風景を克明に説明する、長文を読まされそれを反対から読み上げる、チェスの試合の映像を見て何手目の動きを答えよなど常人では不可能な物ばかりである。

しかし、現在登録されているスパイは全て意図も簡単にそれらの面接をパスした。

合格を受けた物は国内にある秘密の研修所で特訓を受ける。尾行、盗聴、格闘技は当たり前のこと、本物のスリや空き巣を呼んでテクニックを覚えさせたり、異性の落とし方や誘惑の仕方、時には実際に拷問を受け耐える実技などもある。

試験の終わりは個人差がある。ある時事務所に呼ばれ、任務の詳細が配られた時点で現場に配属になる。

現在、200名ほどスパイが在籍しておりぞれぞれナンバーを持っている。3桁の番号は通常のスパイ、通常とはいえ厳しい訓練をパスしたスパイであるので非常に優秀であり2桁のスパイとも実力は変わりはない。

2桁以上は特殊能力を持っているスパイ、そして1ケタ台は常に重要任務に身をおく最強の9名である。


そんなスパイEをまとめるのか代表取締役・火野俊彦である。

20年前に火野は共同経営者の男とスパイE株式会社を立ち上げた。その後、共同経営者の人間は会社を去り、現在は火野の経営でスパイEは成り立っている。

火野自身も昔は優秀なスパイであった。その任務の多くが国家機密クラスの重要任務であり表に出る事はない、中には国ひとつを破滅に導いた任務もある。

当時誰もが火野の見事な仕事ぶりを見て死神と称していた。それほどまでに火野の仕事は完璧だった。

しかし、ある任務で自身の片目を失う事件が起き火野はスパイを引退している。

その事件の真相を知る人間はいない。


私がそんな火野の事務所を訪れたのは去年の秋だった。

厳重に警備されたスパイEの事務所は一見普通の事務所だが、どこかで誰かに見られているような不気味さを醸し出していた。

何重にも設置された扉を開け、私はようやく社長室に通された。


「ここに客がくるのはひさしぶりだ・・・・。」

社長室の一番奥から洞穴から聞こえてくるような低く不気味な声が聞こえる。

その声の主こそ火野であった。

噂どおり片目には眼帯をしていたが、もうひとつの目で私を分析するかのようにじろじろと見ている。

品の良いダブルのスーツを着て、杖をついているが年の頃は50代前半だろうか?

まがまがしいオーラは人間というより獰猛な爬虫類の様だ。

火野と対峙しているだけでだんだん恐怖に支配されそうになる。

この男は本物の死神なのかもしれない。私はそう感じた。

「何も捕って喰おうとは思ってないさ。そこに座りな。」

火野は私の心を見透かしたように言い。杖で少し離れた革張りのソファーを指した。

「何にする?今日はいいスコッチが入ったんだが・・・。」

「いや、結構です。」私はそれを制した。

「やれやれ・・・・、コーヒーでもだしてやれ。」火野は誰に言うわけでもなく独り言の様につぶやいた。

誰に言ったんだ?カメラでもこの部屋についているのか?

私が後ろを向くと、すぐそばに長身の長い黒髪をした女性が亡霊の様にコーヒーをお盆に載せて立っていた。

いつの間に!私は思わずぎょっとしてその女性から離れた。

女性は何も無かったかの様に机にコーヒーを置いた。

美しい女性だが、顔に生気がまったく感じられない。表情というものは彼女に存在するのだろうか?

そう思わせるほど冷たい印象を受ける。

「いつからそこにいたと思う?」火野はにやりと笑い私に問いかけた。

「あんたがこの事務所に入った瞬間にそいつはあんたの背後にいた。」

「そんな・・・!だって、人の気配など。」

「無かったって言いたいんだろ?気配を消して尾行する事などうちの連中なら朝飯前だ。あんたはそのことに気がつかなかった。つまり、そいつはあんたを殺そうと思えば、いつでも殺せたわけだ。」

私は凍りつく様な恐怖を感じた。ここは私の様な者が来る場所ではない!早くこの場を立ち去りたかった。

「まあ、そう気を悪くするなよ。先代の幾松社長はいい顧客だったんだ。なあ、野々村さん。」

「!!なぜ私の名前を!!」

「ここの事務所にたどり着けるのはうちの連中と、重要顧客のみ。そのなかで最寄の駅からあんたは迷わずこの事務所への最短ルートを選んだ。重要顧客意外でそのルートを通ると俺に画像が送られてくる。画像を送った人間が誰か解かるか?」

誰なんだ?駅員?すれ違ったサラリーマン?コンビニ店員?まさかたむろしていた女子高生?私は全てを疑いだして気がおかしくなりそうだった。

「まあ、それは良いとして今日は何の用だい。幾松屋百貨店・専務取締役、野々村幹夫さん。」

どうやらこの男の前で嘘はつけないらしい。私は観念し、今回社内で起こった事件の内容を話した。


事の発端は一ヶ月前に起こった社長毒殺未遂事件であった。

私が社長室に書類を届けに行った時、床に社長がうつぶせに倒れうめき声を上げていた。

すぐさま救急車を呼び病院へ搬送、幸い大事には到らなかった。

現社長の名は幾松義明、先代社長・幾松幸三の一人息子である。

幾松百貨店は寛永元年創業の幾松呉服が前身の日本を代表する老舗百貨店として君臨している。

現社長・義明はアメリカでMBAを学んだ改革派で、古い体質の幾松百貨店再生に力を注いでいる。

特に改革には非常に積極的で、産地直送のルートを開拓し間の商社マージンを省いたり、優秀な人材をアウトソーシングし今までコネ入社しか受け入れなかった人事採用を廃止した。また、社内の体質改善にも取り組んでおり、小さな所では社内のお茶出しの際にも口を出した。当然、先代からの重役や社員たちからの反発もあり、敵も多い。

その逆風を撥ね退けるかのごとく、義明は結果を出し続けた。

そんな矢先の毒殺未遂事件である。

毒物はお茶の中に含まれており、それを飲んだ社長が病院に運ばれた。

お茶を運んだのは伍島香苗(24歳)不動産大手の伍島不動産の社長令嬢で、2年前から幾松百貨店の秘書課で働いている。

幾松百貨店の秘書課は有名企業の令嬢が多く、腰掛け部署として有名だ。

しかし、どれだけ取り調べても早苗は知らないの一点張りで泣いている。

聞くところによると早苗は社長にお茶を出す様に頼まれた。給湯室に行くと暖かいお茶が用意されていた。

誰かが親切で入れてくれたのだろう。そう思った早苗はそのお茶をそのまま出してしまったそうだ。そして事件は起こった。


「警察には届けたのか?」火野は聞いた。

「いや、届けようとしました。しかし、それを秘書課の家族達は許さなかった。うちの娘に警察沙汰があったなんて噂が立ったらどうする!警察だけは断じて許さん!と言われてしまっています。やれやれ、困ったものです。仕方なく探偵事務所に頼んで調査させました。そこで驚くべき事実が明らかになりました。」

「ほぅ・・・その事実とは?」

「給湯ポット、緑茶パウダーに毒の痕跡が残っていなかったのです。

「ああ、失礼しました。最近はコスト削減の為、社長がお茶葉を使う事を禁じました。味の方は急須で入れたお茶と変わりません。見た目も遜色ない出来です。」

「天下の幾松百貨店が緑茶パウダーねぇ、回転寿司じゃあるまいし。世も末だな。」火野は冷笑した。

「面目ない話しです。伍島早苗が犯人でないとしたら他に給湯室でお茶を入れる事が出来る人間は秘書課の人間のみとなります。」

そう言い終えるとおもむろに鞄の中から秘書課の人間の顔写真と資料を火野に渡した。

火野はその資料に目を通し、しばらくして口を開いた。


「よし、この仕事を引き受ける。報酬についてだが指定した口座に指定した額面を振り込んでくれ。期間は・・・4日でいい。必ず犯人を突き止める。」

私は思わず驚いて立ち上がるところだった。

「4日ですか!証拠も何も無いんですよ!しかも貴方は今、秘書課の面々の資料を見たばかりだ。本当に4日で大丈夫ですか?」

しかし、そんな問い掛けに対しても火野は余裕しゃくしゃくだった。「4日で充分だ。そのかわりあんたに協力して欲しい事がある。それこそがジョーカーを見つけだす鍵だ。」

一体何をすればいいのか?私は火野の話しに耳を傾けた。


「この給水ボトル岩手丸は、この東京にいながら岩手のうめェ~お水を頂けるそれは嬉しい給水ボトルだべや。」私は商談ブースで東北弁丸出しの営業マンのセールスを話し半分に聞いている。

男の名前は佐藤孝雄、ヨレヨレのスーツにはげ上がった頭、痩せこけた頬に眼鏡をかけて自社の給水ボトルを売り込もうとしているが、イマイチ営業力に欠けるトークが残念だ。それ以前に幾松百貨店で新たに商品を仕入れる事は不可能に近い。

昔ながらのルート以外から商品を仕入れる事は、歴史と伝統の幾松百貨店の名を落とすと重役連中は口をそろえる。

「失礼します。」

一人の女子社員がお茶を持ってきた。

「いやー、すまんぺや。さすが天下の幾松さんだべや。お茶も美味そうだ。」佐藤は勢い良くお茶を啜る。

女子社員は完全に佐藤を見下して冷たい目線を向けたあと、商談ルームを後にした。

お茶を入れた女子社員の名前は桐谷洋子(24歳)。桐谷商事の重役の娘である。幼い頃から超お嬢様、幼稚園から大学までのエスカレーター式の学園に通っており、一昨年から幾松百貨店の秘書課に配属された。

お嬢様に有りがちな我が儘でプライドが高く常に周りを見下した雰囲気を醸し出している。

社長の愛人との噂もあり以前に伍島と口論をしているのを目撃されている。

実は社長と伍島も愛人関係であり、二股に怒った桐谷が社長殺害を企て伍島に罪をなすり付けたのではないか?

動機は充分にある・・・・。

「いんや~、やっぱうめ~だ。」

呑気に佐藤はお茶を啜る。

私は社長殺害未遂事件からお茶が飲めなくなってしまった。この会社の中に人の皮を被った悪魔が存在する。そう思うと恐怖でお茶は飲めなかった。


翌日、昨日と同じ商談室でまたも佐藤が同じような商品をプレゼンしている。

「この新米007はどんな古い米だって新米のように柔らかく炊いちまう魔法の炊飯器だっぺや。」

私は呆れてしまった。そもそも古い米な外間ど炊く人間はいない。的外れもいいところだ。それでも佐藤は自慢げに話す。

「東京の人間はこれだからいげね。古い米でも作ってくれた農家に感謝して食べねばいげね!うめ~、このお茶もお茶農家の人に感謝だっぺや。」

私は呆れてしまう。この男は緑茶パウダーで入れたお茶だとは気付いていないのだろう。

今日お茶を入れたのは藤枝瞳(34)秘書課では主任をつとめるお局だ。

某有名大学の教授の娘であり、先代社長からの古株だ。

伍島を初め若い社員には厳しく、煙たがられている社員だ。

恨みを買う事はあっても伍島をはめる動機がない。

しかし、一方では社長の革新的なやり方に対してあまり良くは思っていないようだ。

現に意見としてではあるが、社長と議論になる事もしばしばあった。

彼女は犯人の可能性は低いのか?

「あの~、オラのプレゼンはどうですか?」私はすっかり忘れていた。

「いや、・・・いい商品だ。考えておくよ。」私は都合よく佐藤をごまかした。


謎が謎を呼んでいる。社長からの二股で社長と伍島に恨みを持っ人間と、社長の改革に不満を持つ人間、そしてもう一人怪しい第三の容疑者。

「専務、佐藤様がいらっしゃいました。」この女子社員は東堂円香(22)この間入って来た新入社員だ。

家はあの日本有数の財閥、東堂財閥である。

幾松百貨店の人間のなかでも郡を抜いて家柄のいいお嬢様である。

本人は非常におっとりとした性格で、マイペースな女性との評判だ。

しかし私はこの間とんでもない現場を目撃してしまった。

東堂の仕事にミスが多く、主任の藤枝に説教を喰らっていた時の事である。

「貴女は!何度言ったら解るの!」

「すみません。ごめんなさい。」

子供の様な謝り方で説教に耐えている。

やっと説教が終わり東堂は給湯室に向かった。

流石に堪えたのだろう。私は声をかけようと後を追った。

すると給湯室の中からガシャン!と何かが割れる音と怒鳴り声の様な罵声が聞こえる。

「あのババア!私を誰だと思ってるんだよ!絶対ぶっ殺す!」東堂はのカップを床に叩きつけて、粉々になるように踏み付けていた。

東堂の破天荒ぶりはそれだけではなかった。

接待の関係で私が遅くなった日の事だ。

私が六本木を通り日比谷線の入口を目指していた時、後ろからキャハハという馬鹿笑いが聞こえた。

全く、迷惑な若者だ。振り返って見てみると私は思わず目を疑った。

大胆に胸を強調し、下着が見えるくらいのミニスカートを履いた東堂がチャラい感じの男を数人連れて街を闊歩していた。

私はいけないと思いつつも彼女のあとをつけてみた。

「最近~、伍島って先輩がちょーうざいの、なんか社長の愛人だからってずいぶん天狗なの。あんた達・・・お金あげるからあの女待ち伏せして強姦しちゃってよ。きゃははは。」

それから東堂は夜の街に消えていった・・・・。


明日が4日目、火野は4日で犯人が解かると言うが本当なのだろうか?

スパイどころか、社内で調査をしている気配など何ひとつ無い、あの男は何を考えているのだろうか?

本当に調査は進んでいるのだろうか?


・・・・・・・。

・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・気が付くと私は真っ暗な世界の中で檻の中に閉じこめられていた。

檻の外には裸で椅子に縛られている男がいた。よく見るとそれは紛れも無い社長の義明だった。目はうつろで焦点が合っていない。

「社長!しっかりしてください!誰にやられたのですか!!!?」どれだけ大声で叫んでも義明は返事をしない。

コツコツコツ・・・どこからかハイヒールの足音が聞こえてくる。

それは黒のタイトスーツを着た伍島早苗だった。真っ赤に塗った唇が艶かしく輝いている。

そして手には湯のみに入れたお茶を持っていた。

「社長・・・お茶でございます。」そう言い終えると伍島は義明の髪をつかみ顔を上に向け、義明の口の中にお茶を注ぎこんだ!

グハ!ゲホ!ゲホ!グフォ!

お茶を注ぎ込まれた瞬間、義明は大量の血を吐いた。

「社長・・・お茶でございます。」いつのまにか桐谷洋子が義明の横に立ち、同じように口の中にお茶を注ぎこむ。

またも社長は苦しそうに吐血する。

「社長・・・お茶でございます。」藤枝瞳も同じようにお茶を注ぎ込む。

またも社長は苦しそうに吐血する。

「社長・・・お茶でございます。」東堂円香も同じようにお茶を注ぎ込む。

社長は苦しそうに吐血し、首を前にダラリと垂れて動かなくなってしまった。

「君たち!!!なんて事をしているんだ!早く!早く誰か!救急車を!!!!!!」私は気が狂った様に叫び続けた。

すると私を囲っていた檻がさらさらと砂の様に消えていった。

しかし、それと同時に今度は私が椅子に縛り付けられて座っている。

「専務・・・・お茶でございます。」

伍島早苗が湯のみを持って近づいてくる。

「専務・・・・お茶でございます。」

桐谷洋子が湯のみを持って近づいてくる。

「専務・・・・お茶でございます。」

藤枝瞳が湯のみを持って近づいてくる。

「専務・・・・お茶でございます。」

東堂円香が湯のみを持って近づいてくる。

やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!助けて!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!誰か!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!殺さないでやめろ!!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ、!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・・ハァ、ハァ、ハァ!!

・・・・・・・・・・夢か。

時計を見ると午前4時38分をまわっている。

火野の言うとおりなら今日犯人が解かるはずだ。


「教えてくれ!一体誰が犯人なんだ!!」私は火野のオフィースで火野に詰め寄った。

そんなことはお構い無しに火野は日本茶をすすっている。

「そう大きな声を出さなくても犯人は断定できた。落ち着けよ。」火野はぎろりと片目を私の方に目をやった。目が合った私は言葉を発したくても、発することができない。蛇ににらまれた蛙とはこの事だ。

前回とは違う女性がコーヒーを運んで来た。綺麗なネックレスをしておりそこにはNo121と刻まれていた。女は乱暴にコーヒーを置き近くの椅子に足を組んで座った。

愛くるしい容姿とは裏腹に態度は非常に大柄だった。

「うちの社員の熊田奈々実だ。少し男嫌いだが勘弁してくれ。」

大谷はツンとそっぽを向いたまま目を合わさない。恐らく私も嫌われてしまったのだろう。

私はおもむろに熊田が入れたコーヒーを口にした。

すると火野はにやりと笑い私に言った。

「青酸カリ入りのコーヒーのお味はいかがかな?」

「!!!!なんだと!!!!!!」私は吐き出そうとしたが遅かった。体中を恐怖が襲う。

「確かに青酸カリをそのコーヒーに入れた。その量は0.0000000000000001gだ。その程度なら人体になんの影響も無い。しかし、その分量でも味を感じる事が出来る人間がいたら・・・どう思う?」

火野がそういうと熊田は不機嫌になり始めた。「あんな奴、スパイの技術も強さも私の方が上なのになんでNoが2桁なの?」と不満たっぷりに言った。

「心配するな。NO、が2桁なのは特殊能力があるだけの話しだ。お前は優秀なスパイだ。これからも頼むぜ。」

火野の励ましに大谷は顔を真っ赤にしながら目をそらす。

この火野という男は部下の扱いも上手いのだろう。

「話を戻そうか、今回給湯ポットにも緑茶パウダーの中からも毒は検出されなかった。つまりその二つを使わずお茶を入れていた人間がいた訳だ。いたんだよ、一人だけわざわざお茶の葉を使い、急須でお茶を入れていた稀有な女が。」

「だれなんだ!持ったえぶらず教えてくれ!!」

「その女にはうちのスパイに近づくように言ってある。明日あんたはその人間と話すほうがいいさ、その女は・・・。」


ここは東京タワーが一望できる小さなバーpromesse(フランス語で約束)、ここは私のお気に入り静かに話を聴いてくれるマスターと美味しいカクテル・・・・日々の疲れが徐々に消えていく・・・。

私はいつもの席でいつものギムレットを頼む、今日はこれで5杯目、飲みすぎたのかな?

「そこ、あいでますかい?」

「!!!あなたは」私の目の前にたっているのは昼間の営業マン佐藤である。

このバーには不釣り合いな野暮ったいスーツと少し薄くなった頭をかきながら申し訳なさそうに頭を下げる。

けど、この間会った時とは雰囲気が違う。どことない鋭さを彼の中から感じる。

「あの、すみません。この方と同じカクテルを一杯。」

申し訳なさそうにバーテンダーにオーダーした。ここまでへりくだる人間も珍しい。

しばらく彼は挙動不審にあたりを見回しながら必死に私との会話を探していた。

「いんや~、いいお店だっぺや。岩手にはこんないいお店探してもねぇ。」

「そうね、このお店はお気に入りなの、都会の真ん中にありながら静かにお酒と夜景、マスターとの会話を楽しめる。店内のセンスもなかなかよ。」私はマスターに軽く目配せした。

マスターはシェイカーを振りながら少しだけ笑って会釈する。

「いや~、実はオラが言ったいい店の定義とはちょい違うべや。」

「?どういう定義?」

私の疑問に彼が答えようとすると彼のオーダーしたカクテルが運ばれてきた。

「ギムレットです。」マスターの声はいつ聞いてもいい、男の低い声は女の子宮を震わせるという話しはあながち嘘じゃないと思った。

私がマスターの声にうっとりしていると、佐藤がちょい失礼と軽く手刀を切り私のグラスを持ち上げ口に運んだ。「ちょ!それは私のよ。」

無神経な佐藤に少しムッとしたが佐藤は気にも止めない。

続いて自分の前に置いてあるギムレットを私のギムレットと飲み比べるように同じ量だけのんだ。

「うん、やっぱりだ!おらのカクテルよりライムの割合を気持ち多くしてる。マスターがお酒の多いあんたの体調を気遣って、アルコールを少し弱めただ。」

マスターはその話を聞いて俯きながら苦笑いをした。

この人・・・なんて味覚してるの。


「ああ、オラは本当はこういうものだぁ。」佐藤はヨレヨレのジャケットから名刺を取り出した。

株式会社スパイE No69 佐藤孝雄」

名刺を見て私は観念した、しかし心のどこかでホッとした。

あの事件を起こした後、私は自分への罪の重さに押し潰されそうだったからだ。

「なんで、あげな事したんだっぺや?・・・藤枝さん。」佐藤は私を見つめながら質問した。

不思議な男、この人の前では嘘はつけないな。私は重い口を開いた。

「今の社長が社内の改革に取り組み出したのはご存知よね?アメリカでMBAを学んだ社長は次々に会社の古いしきたりや風習、社員の意識改革に取り組んだ。私もそれには賛成だわ。この会社は長い歴史をかけてここまでやってきた。

けどその半面、新しい事に臆病になってしまったの。世の中がどんどん新しくなる中で幾松百貨店は時代に取り残されたまま、新しいトレンドを商品に反映させなければならない百貨店業界としては致命傷よ。これで私は会社が良くなるそう信じているし、今でもそう思っているわ。

・・・・・・・・・・・・・ただひとつだけ許せない事があったの。」

「その許せない事とは、何だっぺや?」 佐藤は不思議そうに目をパチクリさせていた。

ふぅ、私は一息ため息をついてその質問に答えた。

「社長がね、コスト削減の為、顧客、納入業者にはお茶を出すなと指令を出したの。出したとしてもあの安くて、まずい緑茶パウダーを使ったお茶を出せと。

こんな言い方するとまたお局扱いされるかもしれないけど、私が新人の頃は5年はお茶くみの修業があったわ。先輩社員に怒られ、馬鹿にされ。毎晩、会社に残って泣きながらお茶を入れていたわ。

けど、来てくれるお客様や納入先の方々に、幾松さんで出されるお茶は美味しい。気持ちがこもっていると言われると、今までの努力は無駄でなかった、そう思えた。今でもそれは仕事での私の生きがいなのよ。たかがお茶くみだけど、それはお茶くみにもプライドを持って仕事をしているの!」私は言葉に思いを込めすぎてつい大声になってしまった。はっと我に返り隣の佐藤の顔を見た。

佐藤は私の話しを今まで聞いていた。

顔はとても悲しそうな顔をしていた。

私はその顔を見て事件を起こしてからの自分の心境を語った。

「けど、致死量に達しないとはいえ、私は人を傷付けてしまった。これは許されない事だわ。あの事件を起こした後、私は罪の意識に潰されそうで、毎晩酒を煽った・・・けど心の底から酔うことはなかった。

毎日、毒を飲んで社長と同じ苦しみを味わって死のうと思った。けど、出来なかった。

死ぬ勇気が私には無かった。」

私の頬に一筋の涙が伝った。全ての思いの混ざった大粒の涙だった。

スッと佐藤は自分のヨレヨレのジャケットからヨレヨレの手ぬぐいを出して私の涙を拭いた。そうしてニコっと笑って言った。

「貴女のお茶は誰のお茶よりも心がこもっていました。またオラにお茶を入れて下さい。」

それを聞いて思わず涙が溢れ出しそうだったので私は反対を向き涙を堪えた。

そして佐藤に背を向けながら、「罪を償って、必ず貴方にお茶をいれに行きます。」そう約束をした。

しかし、佐藤から何の返事もない。不思議に思い私は振り返って佐藤を見た。

「う~ん。」情けない声を出して佐藤は顔を真っ赤にして、カウンターの上に上半身を預けて潰れていた。どうやら佐藤は極端に酒に弱いようだ。

「ふふ、おかしな人、マスター彼のお代もここに置いておくわ。」

その店を後にし、夜の街へと消えて行った。


翌日、藤枝は事件の真相を全て話し懲戒免職となり幾松百貨店を去った。

その一ヶ月後、社長の義明は回復し改革への動きを強めて行った。おそらく幾松百貨店がまた時代に追いつくのはそう遠い話しではないのだろう。

私は今でも専務として幾松百貨店に勤務している。

あれから佐藤という営業マンは現れていない。佐藤の所属する会社にも電話をかけてみたがそんな社員は存在しないとの事だった。

あれほどの事件が起こったにも関わらず火野はわずか4日で事件を解決し、犯人に自首までさせた。

火野が善人か悪人かは解らない。しかし、その完璧な仕事ぶりは死神と呼ぶのに相応しいのではないのかと私は思う。


〈SNAKE〉

株式会社スパイEのスパイの中で、一桁のNoを持つスパイは常に危険を伴う重要任務に着いている。

その中でも世界有数の超大手企業に専属で潜入し企業を監視するスパイも存在する。

火野はそのスパイの報告書を机の上に発見した。

「ほぅ、次はどんな悪党を処分したんだ?」

その報告書にはNo,6と記載されていた。


「では田中常務、貴方は責任をとれるのですか?責任を!」

今まで議論の中で正論を唱えていた田中常務が一気に押し黙る。議論は正しい答えを導き出すものではない。相手を完全にたたきのめす為にある。いわば戦いなのだ。

俺の名前は大山徹、日本有数の帝和グループの専務を勤める重要人物だ。

帝和の重役の椅子は選ばれた人間しか座る事が出来ない聖域であり、俺はその玉座に座りつづけている。社内で俺の敵は誰ひとりいない。

上期が終わり、下期の人事が発表される。名実共に俺の副社長内定は堅いだろう。

全ての人間が俺の前にひれ伏す・・・・・実に心地のいい光景だ。

周りの人間は俺に尊敬の念を抱き、時に恐怖すら覚える。


「いや~専務!!今日の討論素晴らしかったです!世界一!宇宙一でございます。」

この岸田という男は小判鮫という言葉がこの世で一番似合う男だ。

しかし、俺はこういう男は嫌いではない。

強い人間に付くのは出世への近道だ。そして社内で最も力を持つ俺に付いた事はあながち間違えではない。

この世界は勝ち組と負け組みに別れる。負け組みの人間は勝ち組についていくそれしか生き残る道はない。

現在、帝和グループは100億円のプロジェクトにゆれている。今回のクライアントの要望を満たすため、子会社を切る可能性が出てきている。まあ、子会社の人間が何人路頭に迷ったところで俺には関係無い。俺は帝和の専務であり、次期副社長だ。

コンコン、ドアをノックする音が聞こえた。「失礼します。」

入ってきたのは三浦という男だ。現在は日本統括部長の地位にある男で、俺が最も信頼をおいている男だ。

40代とまだ若いが実力はピカイチだろう。なによりこの男はどこまでも冷酷な男だ。

以前、こいつの同期を傘下に入れようとした時、必要ないと言い放ち大阪の子会社に飛ばした。

その後も行く手を阻む者を容赦なく叩き潰してきた。その冷酷さは時に俺ですら恐怖を抱く事がある。

また、この男には金の面でも世話になっている。

三浦の考え出した錬金術があってこその今の俺の地位だ。これからもよろしくたのむぞ!!


三浦との打ち合わせを終えた俺はあの男のもとへ向かった。

帝和グループ技術部門のトップ・門倉へ会いに行ったのだ。

門倉は俺と同じ帝東大学の出身で同期でもある。

メーカーは技術が命だ。

門倉との人脈は商品の最新情報を知ることが出来る。今日も世界初のナノファイバーを他の部署よりも先に見せてもらった。同期、そして学閥とは素晴らしい。

「最近はどうだ?お前の副社長就任も近いんじゃないか?」

門倉は皮張りのソファーに腰を掛けて聞いてきた。

「まあ、確実と言っても過言ではないだろう。社内で俺の敵になるような人間も派閥も無い。ひとえにお前の協力あってだ。」

「そう言って貰えると光栄だな。しかし、新商品をお前の部にだけまわし、他には遅れて出すと言うのは社内からの軋轢は厳しいんだぞ。」門倉は苦笑した。

「構うものか、俺が副社長になったらそんな声は俺が一蹴してやる。」

「相変わらず頼もしいな。これからも頼むぞ。」

二人はその後もしばらく談笑し続けた。


その後、社内に戻り部下の方向を聞いた。今報告をしている大野の両親は国会議員であり何度か力を借りている。

コネ入社である為、実力としては大した事はない。しかし、大野の人脈は頼もしい存在となる。

その他にも帝和グループのメインバンクである東王銀行の頭取の息子、山口も傘下にある。

このように人脈のある社員を下に置き、実務は三浦のような実力派に任せる。

そうする事により大山派閥は盤石の体制になるのだ。


さて・・・、ある程度時間も有ることだし、少しお楽しみの時間を取るとするか。

「増田君。」私は一人の若い女子社員を呼び付けた。

「はい、専務何か?」

「地下倉庫に忘れ物をしてきてしまった。A4サイズの茶封筒に入った書類なんだが・・・悪いが取ってきて貰ってもいいか?」

「書類ですね。わかりました。」

そういうと増田は地下倉庫に向かった。

増田由紀子、先月一身上の都合で退職した市原由美の後釜として入ってきた25歳の女子社員だ。

胸や尻のラインは社内でも目を見張る。今、企画部の相沢と付き合っており、近いうちに結婚するとの情報を部下に調べさせた。

若い果実を喰らってみるのもいいか・・・・・・。


地下倉庫で増田由紀子は一人書類を探している。暗く中は意外と広い地下倉庫は由紀子に何とも言えない恐怖を与えた。

早くここから出よう、由紀子は逃げ出したくなる気持ちを抑えて書類を探した。

バタン!後ろで扉の閉まる音が聞こえて思わずキャッと小さな悲鳴を上げてしまった。

恐る恐る後ろを振り返ると、暗がりに一人の人間らしき影が浮かび上がった。

「だっ、誰!?」怖いのを我慢してその影に問い掛けてみた。影は応えない。

しかし、影は一歩づつ由美子に近づいてきた。

「い、いや。来ないで!」

それでも影は近づいてきて由美子の目で正体を判別できるようになった。

「・・・専務?」

次の瞬間、由紀子はみぞおちに鈍い痛みを感じた。身体がくの字に折れ曲がる。

その後に思い切り顔を殴られ、口の中で血の味がした。

恐怖で動く事が出来ない。誰か、誰か助けて!

その間に大山は由紀子に馬乗りになりクロロホルムの染み込ませたハンカチを鼻と口にあてがった。

由紀子は必死に抵抗したが、無惨にもワイシャツは破られ上半身があらわになった。

薄れ行く意識の中でこれは悪い夢であるようにと、自分の身体の上で獣の様に欲情する大山を見ながら願った。


大山に散々犯され傷つけられた由紀子は放心状態で地下倉庫で涙を流していた。

大山はいそいそと服を直し地下倉庫を後にした。

「増田由紀子はいかがでしたか?大山専務。」後ろから若い男の声がした。声の主は津坂洋治。

「実に良かったよ。また彼女にはお世話になろうかな。いつも通り後のフォロー頼む。」

「承知致しました。増田は相沢との結婚を控えております。相沢の両親は固い人間です。今回の映像をAVタッチに加工して増田を脅そうと考えております。専務の顔は写らないようにモザイクを入れておきますので。これからも何とぞよろしくお願いします。」津坂は冷酷な笑みを浮かべわざとらしく深々と頭を下げた。

この津坂という男は帝和グループのメインバンクである、東王銀行の役員の次男である。

甘いルックスと家柄の良さから女子社員から人気があり、女子社員に関しての情報も社内随一である。

今回の増田を手配したのも津坂の情報による。

弱みを握られた女子社員は泣き寝入りし大山のセクハラに耐えるか、辞めるしか道は無い。

大山の部署に来た女子社員は大山の性の玩具にされ、ボロボロになって辞めていくのである。

大山は自分のオフィスに戻り、外の景色を眺めていた。

大山のオフィスは44階にあり、そこから東京を一望する事が出来る。

そのオフィスから夜景を眺めながら大山は思った。

「もし、この世に天罰という言葉があるのならそれは嘘であろう。

なぜなら俺は何をやろうと、どいつを陥れようと俺の地位は揺るがない。俺は天を超えた者だ。」

大山は内側から浮き出て来る歓喜を抑え切れず、夜のオフィスで東京の夜景を見下しながら下品に笑った。


異変に気づいたのはは翌日の朝だった。

いつも通り就業時間よりも1時間遅く自分のオフィスに到着した。

すると大山のデスクに見慣れない真っ黒な封筒がおいてあった。

不気味な封筒だなと大山は嫌悪感を抱いたが、封筒を乱暴に破き中身を確認した。そのには大山が増田に暴行を加えている写真が何枚も入っていた。

大山は驚き、すぐさまそれを引き出しに隠した。

そして、内線で津坂を呼びつけた。

「貴様!どういう事だ!」津坂がオフィスに入って来た途端開口一番に怒鳴り、写真を投げつけた。

津坂は慌てふためき床に散らばった写真を見つめ、顔面蒼白になった。

「これは・・・?一体誰が?いや、私も寝耳に水でして・・。」

「御託はどうでも追い!いいか!犯人をすぐに見つけだせ!すぐにだ!でなければお前はクビだ!」

大山の剣幕に圧倒され、津坂は承知致しました!と言い残し、逃げるように大山のオフィスを後にした。

ドカッと!自分の椅子に腰をかけた大山はもう一度冷静になるように一息ついてから写真を確認した。

写真は大山の表情を上手くとらえるように様々な角度から撮影されていた。

しかし、確かにあの日、地下倉庫には自分と増田の二人しかいなかった。

では、何故?誰だ?誰が一体写真を撮ったのだ?

大山は静かに考えを巡らせていた。


ドカッ!大山の机に大量の書類が置かれた。大山は思わずのけ反って後ろの窓に頭をぶつけた。

「専務、書類です。」大量に書類を置いた社員は機械的に言った。

その態度は大山の逆鱗に触れた。

「貴様!なんだその態度は!」大山はものすごい剣幕で怒鳴り散らした。

「態度もなにも、書類を置いただけですが、何か?」

今にも爆発しそうな大山とは対象的に非常にしれっとした態度でそれに答えた。大山は目の前の社員を思い出した。確かこの社員は三浦の部下の佐々木という社員だ。

大山は意地悪に佐々木に問い掛けた。

「貴様、三浦の部下だな。俺は三浦の上席だ。つまり、お前の上司でもある。俺は貴様の態度に腹を立てている。俺が一言いえば貴様など・・」

「用が無いなら、帰ります。」

大山の話しの途中で佐々木は話しを切り上げ、部屋を出てしまった。

なんて奴だ!あんなやつ、俺が副社長に就任したら真っ先にクビにしてやる!

大山はもはや写真の事を冷静に考える事を放棄してしまった。


翌日、さらに大山を追い詰める事件が起こった。

門倉から極秘で貰うはずのナノファイバーが他の部署から商品化されていたのだ。

大山は怒り心頭で門倉に電話をかけた。

「貴様!裏切ったな!」大山は開口一番に言い放った。

「ちょっと待ってくれ、俺は確かにお前の部に一番最初に出すつもりだった。けど・・・。」門倉が言葉を詰まらせた。

「けど、なんだ?」大山は執拗に門倉を問い詰める。

「実は盗まれたんだ。体温を感知する最新式のセンサーを取り付けたはずなのに。ネズミ一匹でも反応するセンサーだ。どうやって盗まれたか解らない。」

門倉は黙り込んて盗まれた原因を探しているようだ。

しかし、大山の怒りは収まらない。

「体温を感知するセンサーだぁ?すると、あれか!体温の無い幽霊が盗んだというのか?馬鹿馬鹿しい!これは貴様の管理能力の無さが招いた結果だ。恥をしれ!」

大山は門倉を罵倒した、すると門倉も堪忍袋の緒が切れたのか言い返した。

「なんだその言い草は!俺は今まで同期のよしみでお前が有利になるように前もって新商品を渡してきた。それを盗まれたと言っているのに、悪者あつかいか!?今まで誰が協力してやったと思ってるんだ!そんな言い方ないだろう!」

「ふん!貴様などにはもう頼らんわ!俺が副社長に就任したら貴様から真っ先にクビにしてやる!覚えていろ!」

大山は言い終えると受話器をたたき付けた。

ふー、ふー、大山は怒りによって興奮状態だった。


明日は帝和グループ最大のプロジェクトであるブライアン・スミス社への部品提供の最終決議だ。

明日は腹心の部下である三浦も出席する。三浦の今日のスケジュールを見ると大阪となっていた。

最近三浦は埼玉だの大田区だの大阪だの暇を見つけては良く動く。一体何をしているんだ?

まぁ良い三浦は絶対に裏切らない。なぜなら三浦と大山は不正資金によって甘い汁を吸ってきたからだ。大山は三浦は絶対に裏切らない。そう確信していた。



「くそっ!どういう事だ!」

大山は自分の事務室にもどると机を叩き頭を抱えている。

本日行われたブライアン・スミス社との商談における最終決議で事件は起こった。三浦が大山が今まで推し進めていた計画とは全く逆の計画を打ち出して来たのだ。

しかも、あろう事か今まで不正に貯めていた資金の仕組みを全役員の前で自分と大山が画策したのだとばらしたのだ。

「あいつめ!まともには勝てないと思って特攻を仕掛けて来たか!」

突然の三浦の裏切りに大山は成すすべがなかった。

会議後、社長に呼び出され大山は査問会議にかけられる事となった。

「どうする!?査問会議で有罪となったら俺は失脚する。ただでさえ誰かに追い詰められているというのに!くそ、くそ、くそ!」

大山は机の上にある書類を全て部屋中に投げつけ、髪を掻きむしりながら一通り暴れた。

暴れていて気付かなかったがそこに岸田が顔面蒼白で立っていた。

「何だ!!」大山は岸田に鋭い視線を送った。

「ヒィ!!せ、せ、専務、さ、査問会議の予定が、あ、あ、明日の昼一となりました。あ、あの、そのですね。」岸田はしどろもどろになっている。

「なんだ!結論を言え!」血走った目で大山は岸田に詰め寄る。

「アヒィ!!しゃ、社長が報告は来ている・・・クビは覚悟しておけと・・・。」

「何の報告だ!誰が社長に何を報告したんだ!」

大山は岸田の胸倉を掴み壁に押しやった。

「わ、私は何も!」岸田の顔は恐怖で今にも泣き出しそうだ。

ポトッ・・・、岸田のジャケットから何か小さな携帯の様な物が落ちた。

良く見るとデジカメであり、その撮影画像には大山が増田に暴行を加えている瞬間が納められていた。

ブチブチブチ!大山は怒りで自分がキレるのがわかった。

「貴様だったのか!!この裏切り者が!!」

「ち、違います!それはそこで拾って、専務に渡そうと、グハッ!」

岸田の言い訳も聞かず大山は岸田を殴りつけていた。一発、二発、三発・・・馬乗りになり怒りにまかせ岸田の顔面を殴りつけた。

ハァ、ハァ、ハァ・・・しばらくして岸田は気絶し動かなくなってしまった。

「ずいぶんな荒れようですね。大山専務。」

その声に大山は振り返る。

そこには細身のスーツに、眼鏡、黒のネクタイをしたあの男、佐々木が立っていた。

「貴様!何故ここにいる!」

「何故って、社員だからですよ。」

大山の怒号にも佐々木は興味を示さない。

「そうかぁ、全ての黒幕は貴様か!良くも俺をはめてくれたな!」

「はめるなんて人聞きの悪い。今まで悪事を働いていてきたのはあなたでしょ。不正資金の件に始まり、女子社員暴行の容疑もね。そうそう、増田もうちのスパイです。彼女の報告では役職は専務だけど、あっちの方は新入社員だそうですね。ちなみに彼女、実は男です。新しい世界はいかがでしたか?」

佐々木は馬鹿にしたように笑った。

「貴様~!」大山の怒りは頂点に達した。

すぐ側にあった灰皿を取り佐々木に殴りかかろうとした。

グラッ、何かに足を取られたかのように大山は倒れた。

大山が足を確認すると・・・そこには斑模様の大蛇が大山の足に巻き付いていた。

さらに灰皿を持つ側の腕にも、そして倒れた目の前にも蛇がいた。

「ひぃぃぃいぃぃ!」大山は情けない声を出して怯えている。

「専務の左足に巻き付いているのが遥、右腕が亜美菜、目の前にいるのがすみれです。」佐々木はしれっと蛇の自己紹介をした。

「ふ、ふざけるな!早くこいつらをどけろ!」体の自由が効かない状況でも大山の横柄な態度は変わらない。

「僕の可愛い彼女達に向かってこいつらはないでしょ。ん?どうした亜美菜?こいつ食べてもいい?ごめんね亜美菜、ちょっと待っててくれる。」

佐々木は蛇に話しかけている?いや、話していた。

大山は寒気がした。なんなんだ、こいつはどうかしている。

「そうそう、私実はこういうものです。美帆、名刺持って来て。」佐々木が天井に向かい声をかけるとボトッと大きな塊が落ちてきた。

赤黒い色をしたコブラが名刺をくわえて落ちてきた。

名刺には株式会社スパイE No,6 佐々木紳一と書いてあった。

「貴様!この会社の人間ではなかったのか!?確か貴様は新卒で入ったのでは!?」

「そうです。私は新卒の頃から帝和グループ専属のスパイとして活動しています。ちなみに地下倉庫での一件を撮影したのはみなみ、紗耶香、美幸。技術開発部からナノファイバーを盗み出したのは涼子と楓です。このビルには2856匹の僕の可愛い彼女がいて、専務の自宅には563匹、車には26匹、ジャケットの中には・・・。」

「ひぃぃぃいぃぃ、たっ、頼む、止めてくれ!」

大山は小さくなって震えてる。もはや専務としての威圧感は感じられない。

「解りました。そのかわり明日の査問会議で全てを話して下さい。あなたの悪事は依頼主でもある社長にも報告済みです。もし嘘をついたり、話さなかったら、そこにいる杏奈が噛み付きますよ。」佐々木は大山の胸の辺りを指先した。

大山が恐る恐る胸の辺りを確認すると・・・・、胸ポケットから毒々しいガラガラ蛇が顔を出して威嚇をしてきた。

その晩、帝和グループのビルに大山の悲鳴が響き渡った・・・。

翌日の査問会議で大山の悪事が全て明るみに出た。

会議中、大山は疲れ果てて抜け殻のようだった。


大山という社内の癌を切除した帝和グループはこれからブライアン・スミス社との商談を控えている。

「佐々木、準備はいいか?」三浦の顔は何処か緊張しているようだったが、顔はやる気に満ちあふれていた。

「はい、準備は万全です。」

佐々木は今日も何食わぬ顔で業務にあたる。


〈S〉

白鳥秀明が警視総監に呼び出されたのは昼過ぎの事だった。

午後から始まる監理官会議に向かう途中、警視総監から直々に白鳥に連絡が入った。

緊張と共に白鳥の期待は高まった。

警視総監からの指名、これは重要な任務に違いない。

白鳥は期待に胸を膨らませ警視総監室に急いだ。

「コン、コン。白鳥です。」

「入りたまえ。」中から警視総監の声がした。

白鳥は一度深呼吸をし、失礼しますと声をかけドアを開けた。

広い警視総監室のデスクに肘をついて警視総監は座っていた。

相手は警視庁のトップ、白鳥の顔に緊張がはしる。

「そこに座ってくれ。久しぶりだな。お父上は元気か?」

「はい、実家で悠々自適に暮らしております。」

白鳥の父は二代前の警視総監であり、現警視総監の上司である。

白鳥家は代々警察官僚の家庭で、白鳥自身も日本屈指の帝東大学を首席で卒業。警視庁に入り、現在は監理官の地位にある。

いわば警視庁のエリート中のエリートである。

「今回君を呼び出したのは他でもない。ある組織を新しく警視庁で立ち上げようと思ってな。」

「その組織とは?」

「日本発のスパイ組織だよ。そしてそのトップを今回君に引き受けて貰いたい。」

白鳥の胸は高鳴った。自分は常に人の上に立つ人間、しかしこれほどまでに早くチャンスが巡ってくるとは。

「慎んでお受け致します。」白鳥は立ち上がり、背筋を伸ばして敬礼をした。

「それでこそ白鳥警視総監のご子息だ。しかし、ここで一つ問題がある。」

警視総監は腕を組み悩む様な格好をした。

「実はある民間企業に同じ様にスパイ活動を行う企業が存在する。しかも、その企業の仕事はあまりにも完璧で評判が頗る良い。もし、我々、警視庁がスパイ組織を立ち上げて民間企業ごときに負けてしまえば、これは警視庁の威信に関わる。」

警視総監はギロリと白鳥を睨んだ。

「今回その組織が追っている犯人と同じ犯人を君には追って貰う。人選は君に任せる。くれぐれも民間企業ごときに負けないでくれよ。」

警視総監は白鳥に再度言った。

「承知致しました。その民間企業の名前は?」

「株式会社スパイE。」警視総監は嫌いな人間の名前を言うかの様に忌々しく言い放つ。

「スパイE・・・。」白鳥は自分の中でその名前を復唱した。


翌日、白鳥は警察の中でも厳しい訓練を優秀な成績で通過したメンバーを召集した。

日本の有事でもここまでのメンバーは集まる事は無い。

白鳥は組織のコードネームをSとした。自分達はスペシャル(SPECIAL)、特別な存在である事を強調した。

これだけのメンバーを集めたなら民間企業などには負けない、白鳥は確信に満ちあふれていた。


今回の獲物はゲーム会社のデータ流出事件だ。

人気ゲーム会社「レイサム」で何者かが試作品をライバル社に流しているとの事だ。

白鳥達Sのメンバーはすぐさまレイサム本社の開発室に潜入、早速情報収集に乗り出した。

開発室のメンバーは開発室長1名にクリエーターが9名との構成だ。

室長の飯田は部下の扱いが酷く、クリエーター達は会社に泊まり込みで働いている。一ヶ月家に帰っていない者もいた。

今回の犯行は営利目的と言うよりは飯田に対しての怨恨による者だと白鳥は考えた。

犯人は9名、白鳥は外部のライフワークバランスのコンサルタントと名乗り、9名の面接を行った。


「室長はひど過ぎます!どうせ、私達を奴隷としか思っていないんですよ。」

白鳥の目の前で小柄で華奢な女性が涙ながらに訴えてくる。

彼女は小野美郷。レイサムの新人クリエーターだ。

普段から太陽を浴びていないのか、色は青白く、少し病的なぐらい細い、デニムに無地のTシャツ、瓶底眼鏡をかけており化粧はしていない。

白鳥は優しく小野に話しかけた。

「貴女にはより良い職場環境を手に入れる権利があります。私もそのために今日ここに来ています。ところで最近、試作品の流出が問題になっているみたいですね。職場環境が悪いとどうしても心が荒み、犯罪に手を伸ばしてしまうケースがあるのです。何か心当たりはありませんか?」白鳥の問い掛けに小野はうーんと悩んでる。すると、何か閃いたかの様に目を見開いた。

「工藤さんです!チーフの工藤さん!最近、レイサムのゲームソフトの売上が良くないから室長に目の敵にされて、相当恨んでたみたいです。」

チーフの工藤かぁ・・・、その線は白鳥も考えていた。工藤は生真面目な性格で他のクリエーターからの人望も厚い。しかし、最近は室長に目をつけられており、ノイローゼ気味だ。

現在、工藤の母親は肺を患っており、工藤は医療費が必要である。

動機は充分だ!白鳥はわざとらしく大きくため息をついて小野に話した。

「恐らく私の見立てだと犯人は工藤チーフで間違いないだろう。君には工藤チーフの行動を随時報告して

欲しい。これは君にしか任せられない特殊な任務だ。やってくれるよね?」

「そ、そんな。私、ドジだし、そんな任務できません。」小野は大きくかぶりを振った。

「いや、君でなければ出来ない仕事だ。頼む。」白鳥は再度頼んだ。

しかし、このような時でも白鳥は頭を下げる事は無かった。

「・・・・私、こんなに人に頼られたのは初めてです!頑張ります!」

小野は目を輝かせて言った。

「そうか、ありがとう。共に不正を暴こう。」白鳥は小野の手を握り強く言った。

小野の頬が少し赤みを帯びた。

馬鹿な女だ。せいぜい利用させてもらうぞ。白鳥は冷酷な笑みを心の奥底で浮かべた。


一週間後、白鳥はレイサムに潜入中のSのメンバーに召集を掛けた。

白鳥はスマートフォンで世界のニュースを見ながらメンバーの集まりを待つ。

ニカラグアで500名ほどテロ組織が一晩で皆殺しにされたそうだ。

原因は不明だが死体を見ると小さな拳の痕がいくつもありそれが致命傷になっているという。

500名の武器を持ったテロ組織を素手で?馬鹿らしい、アメリカあたりが新型の兵器を使って皆殺しにしたのだろ。

他にもレアメタルの高等や、隣国の首相の発言などを読んでいるうちにSのメンバーが到着した。

特殊な任務を優秀な成績で潜り抜けた面々だ。みなスーツを身にまとっているものの、眼光は鋭く、筋骨隆々の肉体をしている。実に逞しい。

「犯人の目処は着いたか?」白鳥は全員を見渡し問いかける。

「はい、恐らく開発室の工藤で間違いないかと。」メンバーの一人、小田島が言う。

「私も、工藤かと。」隣に座る桐山も言う。

他の5名のメンバーの意見も工藤で一致した。

「よし、明日、工藤に事情聴取を行い。逮捕する。そうすれば俺達の初任務は成功だ。」

白鳥は高らかに言い放った。

「諸君、お疲れ様。普段と違う環境でストレスも貯まっただろう。俺からのプレゼントだ。今回の任務の内容を我々以外に知っている人間がいる。開発部の小野という女子社員だ。この任務は表に出てしまってはまずい。なので諸君にはその女の口止めをして欲しい。現在、小野は一人で地下倉庫にいる。・・・・口止めの方法は問わない。何があってももみ消そう。まあ、任務中に発散できなかった性欲を撒き散らしてもかまわんぞ。」

その発言に下世話な笑い声が起こる。そう言い終えるとSのメンバーはすぐさま地下倉庫に向かった。

小野も不幸な女だ、7人もの大男に犯され、殴られ、脅され、心身共にぼろぼろになるだろう。

まあ、任務の成功には犠牲はつき物だ。

白鳥は帰宅の為出口に向かった。もはや社員はほとんど残っておらず、会社エントランスも真っ暗だ。

白鳥は自動ドアの前に立ち、外に出ようとした。しかし、自動ドアはピクリとも動かない。

「・・・故障か?」

白鳥があたりを見回すが人影は見当たらない。


「ずいぶんお困りの様じゃないか、エリートさん。」

その声は低く、洞窟の奥から聞こえてくるような不気味な声だった。

白鳥が振り返る。「だれだ!!」

コツコツコツ・・・・、エントランスの暗がりから杖をついた眼帯の男が現れた。


「誰だとは随分不粋な聞き方だな。警視庁白鳥監理官。」

その男は白鳥の正体を知っていた。白鳥はその男に途方もない不気味さを覚えた。

その男が自分の正体を知っていた事にではない、その男と対峙していると刃物を首筋に当てられているような独特の恐怖感があった。

「あんたらと同じネズミを追っていた者だ。」

白鳥はピンと来た。

「貴様、スパイEの人間だな!」

「ほう、知っていてくれているとは光栄だな。代表をやっている火野と申します。」火野はわざとらしく頭を下げた。

「貴様!何が目的だ!」白鳥は火野に詰め寄ろうと近づいたが、次の瞬間、火野の杖先が白鳥の右目の直前で止まった。その素早さと正確さに白鳥は思わず動きを止めた。

背中には一筋冷汗が伝う。

「そう怒りなさるな、今日はあんたらに忠告があって来た。」

「忠告だと!」白鳥は恐怖に負けまいと腹から声をだす。

空気にのまれるな!俺に怖いものなどなにもない!白鳥は自分に言い聞かした。

「貴様らは三つのミスを犯している。1、犯人は工藤ではない。

奴は貴様が思っている様な上司を困らせ金を取る為に自分と自分の部下が一ヶ月も帰らず、徹夜で生み出した試作品を競合他社に渡したりしない。むしろ今回の作品でレイサム開発室の地に落ちた評価を取り戻そうとしていた。お前らは上司からの嫌がらせと母親の病気という外的要因で工藤を犯人だと決め付けた。」

「ならば犯人はだれだというのだ!」

白鳥は火野に対して高圧的に言い放った。

「解らないとは傑作だな。犯人は室長の飯島だ。工藤達とは違い飯島は定時には部下を置いて帰る。俺の部下に尾行をさせたところ案の定奴が犯人だった。ただここでお前らは二つ目のミスを犯している。飯島はお前らの正体に気付き犯行を一時的に中断した。」

「私達の行動に気がついた?馬鹿な事を!私のチームは特殊な任務を優秀な成績でくぐり抜けたメンバーだぞ。素人の飯島に解るはずがない。」

「そうだな、確かに優秀な、目つきの鋭い、筋骨隆々のメンバーだ。しかし、普段から日光を浴びずパソコンにかじりつきの人間にそんな人間がいると思うか?お前らは間違いなく開発室では浮いていた。飯島は神経質で臆病な男だ。その異変に気がついて犯行を中断した。全く、とんだ邪魔をしてくれたな。まあいい、さきほど部下から連絡があって飯島を現行犯で捕まえたそうだ。残念だったなぁ、工藤が犯人じゃなくて。」

火野は完全に見下したように白鳥を鼻で笑った。

その態度と自尊心を踏みにじられた事に白鳥の怒りは頂点に達した。

「所詮貴様らはスペシャル(SPECIAL)ではなく俺たちのスペア(SPARE)だったわけだ。」

火野の勝ち誇った発言に、白鳥の体内の血管が一気に沸騰した。

「貴様!警視庁、いや!俺をここまで愚弄してタダで済むと思うなよ!絶対に貴様らをこの世から抹殺してやる!」

しかし、白鳥の恫喝にも火野は全く同じない、むしろまた不気味な笑みを浮かべた。

「やはりな、小野の報告は間違いじゃなかった。内面は非常に幼稚で自己中心的、自分が正しいと考えた事は疑わない。だから、まわりから浮いてる事が気がつかなかったんだな。どうだ?読むか?」 火野は報告書を白鳥の足元に投げつけた。白鳥は怒りに任せてその報告書を破り捨てた。

「下らん!いいか、これで勝ったと思うなよ!貴様に取っておきの情報を教えてやろう。お前の部下の小野とかいう女、今頃は俺の部下に半殺しにされ、強姦されているところだ!哀れだな!これが俺達をコケにした罰だ!」ヒャヒャヒャ!白鳥は発狂したかのように下劣な笑い声を上げた。


それを見て火野は何故か哀れみを帯びた顔で見つめていた。

「貴様!なんだその顔は!」

火野は深くため息を着いた後に応えた。

「・・・・・貴様らが犯したミスの三つ目を話していなかったな。

先に謝ろう。これは俺のミスなのかも知れない。俺のミスは小野を出動させた事、たまたまあいつしかスパイがいなかったんだ。

・・・・・・・・・・・そして貴様、いや正確に言うと貴様の部下のミスは小野を相手にしてしまった事だ。」

「??どういう事だ?」白鳥は火野の言っている意味が解らなかった。

しかし、あの不気味さの塊のような火野が哀れみを帯びた顔を見せた。

白鳥はだんだんと自分が恐怖の沼に沈んで行くのが解った。「な、どういう事だ!答えろ!」

「百聞は一見にしかずだ。」怯える白鳥の目を真っ直ぐ見つめて言った。


ハァハァハァ・・・、白鳥は小野が強姦されているはずの地下倉庫に向かった。

くそ!一体何がどうなっているんだ!!!!!

白鳥は勢い良く地下倉庫の扉を開けた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そこには屈強な白鳥の部下達が・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

正確に言うと白鳥の部下であった、人間であったであろう肉の残骸が・・・・・・・・・・・・・・・・地下倉庫の壁は一面返り血でどす黒い赤に染まっている。あまりに強烈な血の匂いと、凄惨な現場に白鳥は思わず嘔吐する。

その現場の中心に首から上を半分飛ばされた死体の顔を掴み話しかけている女がいた。

「ねぇ、寝ちゃ駄目だよ。もっと遊んでよ。もっともっと。」無邪気に死体の髪を掴み自分の目線に持ってきて話しをしていた。まるでおもちゃをねだる子供の様に無邪気な顔をしている。

「どうして答えてくれないの!キライ!」女はその死体の顔を殴りつけた。

首から上が完全に無くなり、辺りに脳や目玉、頭蓋骨の一部が飛び散り白鳥の顔にもかかる。

キャハハ!女は子供の様に無邪気に笑う。

白鳥はうずくまり待たしても激しく嘔吐した。

うずくまった視界の先に小さな紙が落ちていた。目を懲らして見てみる。

株式会社スパイE No,3 小野美郷

「噂になっているニカラグアのテロ組織皆殺し事件の下手人はそいつだ。」白鳥が後ろを振り返ると火野が立っていた。

「貴様の部下にはすまない事をした。本来なら別のスパイを送り込みたかったが全員出払っていてな。たまたまニカラグアから帰って来た小野を起用した。コイツは自分に危害が加えられると覚醒する。うちで最強で最凶のカードだ。悪いが俺もこいつの止め方は解らない。」

キャハハ、小野は違う死体の首を蹴飛ばし遊んでいる。

「あは、あはは、アーッハハハ!!」白鳥は遂に発狂した精神が崩壊した。

地下倉庫には小野と白鳥の笑い声が一晩中こだました。


翌日、地下倉庫に廃人となった白鳥が座っていた。

いつも通り綺麗に整頓された地下倉庫に一人立ち尽くしていた・・・・。

翌日、室長である飯島も自首し、レイサム試作品流通事件は幕を閉じた。

小野美郷はその後無断欠勤が続き、解雇されている。



今日も株式会社スパイEのオフィスで火野はスコッチを傾ける。

パソコンが一通メールを受信する。

「ほう、次はどんな悪党を退治したんだ。」

火野はメールを確認する。

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