第97話 乱獲
「……時間、残り二十分」
売田が、時計を見て言った。
財布の中身。
残金は、千八百円。
すきは、無言で頷く。
ここからだ。
⸻
「解禁するぞ」
売田が言った。
「今まで残してきた台、全部拾う」
すきは、もう理解している。
・形を作った台
・人が触っていない台
・難易度が高く、ポイントが高い台
取り切るフェーズ。
⸻
最初の一台。
古い橋渡し。
箱は、すでに片側が沈んでいる。
すきが、百円を入れる。
一手目。
――落下。
ゴトン。
二台目。
ペラ輪。
すでに輪は摩耗している。
百円。
一振り。
ストン。
三台目。
ラバシャ。
ぬいぐるみ。
売田が言う。
「二手」
一手目。
形を作る。
二手目。
――獲得。
「……早っ」
近くにいた受験者が、思わず声を漏らす。
⸻
四台目。
五台目。
百円。
百円。
音が、一定になっていく。
ゴトン。
ゴトン。
ゴトン。
歓声はない。
驚きも、ない。
ただ、
景品が増えていく。
⸻
「次」
売田は、
もう台を見ていない。
人の動きだけを見ている。
「今、空いた」
すきは、
すでにそこへ向かっている。
(……速い)
フィギュアの声は、
聞こえない。
でも、
必要ない。
盤面が見えている。
⸻
通路の向こう。
雪平も、同じことをしていた。
残された台を、
一つずつ拾っていく。
動きは静か。
でも、確実。
羽澄の方は、違う。
「はい次ー!」
派手な声。
スマホ。
人だかり。
でも、
獲得数は、同じように増えている。
(……みんな、
やり方は違う)
(でも、
取れる人間は同じ時間帯に動く)
⸻
残金、八百円。
「ラスト」
売田が言う。
「評価が一番高そうなの、行くぞ」
確率機。
さっきまで、
誰も触らなかった台。
すきが、
一瞬だけ迷う。
トクッ
短い。
でも、
はっきり。
百円。
揺らす。
掴む。
持ち上げる。
途中で、
一度だけ揺れる。
(……耐えろ)
――そのまま。
獲得口へ。
ゴトン。
⸻
ブザーが鳴った。
《一次試験、終了です》
音が、
やけに大きく聞こえた。
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足元。
景品が、
積み上がっている。
数は――
数えない。
売田が、静かに言った。
「……やりすぎたか?」
すきは、首を振った。
「必要な分です」
二人は、
同時に周囲を見る。
さっきまで騒がしかった会場は、
妙に静かだった。
九條は、
まだ一個。
他にも、
手ぶらの受験者がいる。
雪平は、
少し離れた場所で、
同じくらいの量を確保している。
羽澄は、
スタッフに呼ばれていた。
(……数字は、
もう出てる)
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「次は、
ふるい落としだな」
売田が言う。
すきは、
景品の山から目を離さず、
静かに答えた。
「はい」
乱獲は、
ただの作業だった。
でも――
ここまで来て、
すきははっきりと理解していた。
勝つ人は、
盛り上がる前に、
もう終わらせている。
一次試験は、
終わった。




