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くれげの世界  作者: ぐろ
第三章 プロライセンス編
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第96話 判断

売田は、歩きながら一度も台に触れなかった。


「急ぐぞ」


それだけ言って、

通路の奥を指さす。


すきは、何も聞かずに頷いた。


九條のいた確率機から離れるにつれて、

周囲の喧騒が少しずつ遠ざかっていく。


人が集まる台。

演出が派手な台。

初心者が群がる台。


――全部、通り過ぎる。



「ここ」


売田が止まったのは、

人通りの少ない橋渡し台だった。


景品は、細箱。

角は立っているが、

配置は悪くない。


「おそらく評価が高い」


売田は即断する。


「難易度は中。

 でも、今は誰も触ってない」


すきは、黙って台を見る。


箱の重心。

爪の癖。

戻り位置。


――音は、聞こえない。


でも、それでいい。


「……二手でいけます」


売田が、ちらりと笑う。


「じゃあ、頼む」



一手目。


すきは、

ほんのわずか、

箱の角をずらした。


大きく動かさない。

形だけを変える。


二手目。


アームが、

狙った位置に入る。


爪が、

橋の外側にかかる。


――落下。


ゴトン。


静かな音。


歓声はない。


でも、

確実な一個目。


売田は、すぐに景品を回収する。


「二手。

 悪くない」


褒めない。

でも否定もしない。


それで十分だった。



次の台。


ラバシャ。


ぬいぐるみ。

軽い。


売田は、首を振る。


「ポイント低い。

 後回しだ」


さらに奥。


ペラ輪。


「ここは?」


すきが聞く。


売田は、

一瞬だけ考えてから言った。


「形はいい。

 でも、時間かかる」


「今じゃない」


判断が、早い。



すきは、

視界の端で、雪平を見かけた。


相変わらず静かだ。


無駄な一手が、ない。


景品が取れなくても、

形だけを整えて、

すっと離れる。


(……同じだ)


(勝ちに行ってない)


(残す人だ)



少し離れた場所では、

羽澄の声が響いていた。


「次いくよー!」


派手な演出。

スマホ。

歓声。


数字は、確実に積み上がっている。


(やり方は違う)


(でも、全部正解だ)



「時間、半分」


売田が言う。


財布の中身を見る。


まだ、

二千円以上残っている。


「……余ってますね」


「それでいい」


売田は、即答した。


「使い切る試験じゃねぇ」



すきは、

その言葉を噛みしめる。


九條の、

三千円。


自分たちの、

この静けさ。


差は、

もうはっきりしていた。



通路の向こうで、

九條が座り込んでいるのが見えた。


景品は、一つ。

表情は、曇っている。


誰も、声をかけない。


すきは、

一瞬だけ、足を止めた。


でも、

振り返らなかった。


(……選んだ)


それでいい。



「次、行くぞ」


売田が言う。


すきは、

深く息を吸った。


音はまだ静かだ。


でも、

聞こえなくても分かる。


今の自分は、

ちゃんと選べている。


一次試験は、

静かに、しかし確実に、

終盤へ向かっていた。

キャラ紹介

九條全(くじょうぜん)


・年齢:19歳

・所属:受験生チーム

・立場:会長・九條恒一の孫

・性格:生意気/直情型/情に厚い


◆キャラクター概要


粗暴でビッグマウス。

だがその奥に、誰よりも優しい視点を持つ少年。


景品を「物」としてではなく、

置き去りにされた存在として見る感性を持つ。


強さでも理屈でもなく、

彼のプレイを動かすのは――感情。


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