第93話 見極め
ステージに、一人の男が立った。
短く整えられた髪。
無駄のない立ち姿。
「一次試験、試験官を務めます。
剣崎歩です」
クレーンゲーム協会幹部。
その肩書きに、会場の空気がさらに張り詰める。
剣崎は、淡々と続けた。
「一次試験の目的は単純です。
プロとしての“見極め”を見せてもらう」
スクリーンに、試験概要が映し出される。
⸻
《一次試験》
《制限時間:一時間》
《予算:三千円》
《ゲームセンター内の景品を、
自由に獲得してください》
《確率機、橋渡し、ラバシャ、ペラ輪》
《景品形状は、長箱、立方体、細箱、ぬいぐるみ》
《すべて評価対象です》
ざわめきが広がる。
「獲得数のみ、の評価基準ではありません」
剣崎は、はっきりと言った。
「台の選び方
景品の難易度
予算の使い方」
「プロとして、
“どこを取りに行くか”を見ます」
一拍。
「なお」
剣崎は、淡々と付け加える。
「チームを組んでも構いません」
「個人でも、複数人でも自由です。
ただし、予算は一人三千円。
合算は不可」
その瞬間、
会場の視線が一斉に動いた。
⸻
すきの周りに、
人が集まり始める。
「一緒にやりませんか」
「三連覇ですよね」
「台、見てもらえれば――」
次々と声がかかる。
すきは、戸惑った。
誰かと組めば、
安定はする。
失敗も減る。
その時だった。
「やめとけ」
低い声が割り込む。
売田転だった。
「こいつと組むってことはな、
“自分で考える”のを放棄するってことだ」
周囲が、ぴたりと静まる。
「三連覇に寄生して、
安全圏で点数拾うつもりか?」
遠慮のない言葉。
誰も、反論しなかった。
一人、また一人と、
人が離れていく。
数分後。
すきの周りには、
誰もいなくなった。
⸻
「……相変わらずですね」
すきが言うと、
売田は肩をすくめた。
「合理的だろ」
一拍置いて、
声を落とす。
「なあ」
「俺と動かないか」
すきは、驚いて売田を見る。
「チームは自由だ。
禁止されてない」
売田は、にやりと笑った。
「派手に組む必要はない。
目立たないところだけ、共有する」
「台の情報。
空き状況。
効率的な景品」
「全部、お互いに得になる」
せこい。
でも、正直だった。
すきは、少し考えた。
売田は、才能の人間じゃない。
でも――
情報を集め、使う力は、本物だ。
(……プロの世界、か)
「……条件は?」
すきが聞く。
売田は、即答した。
「主導権は、お前」
「俺は情報屋だ。
取るかどうかは、お前が決めろ」
少し間を置いて、
すきは頷いた。
「……分かりました」
売田は、満足そうに笑った。
「交渉成立だな」
⸻
剣崎の声が、再び響く。
「それでは」
「一次試験、開始」
照明が一段、明るくなる。
三千円。
一時間。
無数の台。
すきは、深く息を吸った。
――選ぶ。
取れる台じゃない。
取るべき台を。




