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くれげの世界  作者: ぐろ
第三章 プロライセンス編
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第92話 プロライセンス試験

会場に一歩足を踏み入れた瞬間、

すきは、はっきりと違和感を覚えた。


――空気が、重い。


巨大なゲームセンター。

台の数も、照明も、広さも、高校生大会と大きな違いはない。

それなのに、決定的に違っていた。


笑い声がない。

歓声もない。


あるのは、

互いを測る視線と、沈黙。


ここにいるのは、

楽しみに来た人間じゃない。


選ばれに来た人間だ。



受付を抜けると、

受験者たちは自然と広場に集まっていた。


ざわつきはある。

だが、それは学生大会の熱気とは別物だった。


隣に立つ人間を、

誰も仲間だとは思っていない。


――競争相手。

――あるいは、踏み台。


すきは、無意識に息を吐いた。


(……やっぱり)


ここは、

戻ってくる場所じゃない。



「昏華さん」


呼ばれて、振り向く。


そこにいたのは、雪平杏だった。


距離が近い。

高校の大会の時と、ほとんど変わらない。


「……久しぶりです」


「久しぶり。

 変わってないね」


そう言って、雪平は一度だけ笑った。


高校大会、三回戦。

副将戦で勝負は決まり、

二人が盤面を挟むことはなかった。


実質、戦っていない。


それでも――

すきは、あの時ほっとしていた。


(当たらなくて、よかった)


雪平と戦えば、

勝ち負けとは別の何かが壊れる気がしていた。


「ここ、学生大会とは全然違いますね。」


すきがそう言うと、

雪平は周囲を見回した。


「うん。だから来た」


即答だった。


「詠に言われたの」


その名前に、すきの視線がわずかに揺れる。


『行きなよ』

『大学やめたんだったら、まず就職』


詠の声を思い出すように、

雪平は肩をすくめた。


「正直ね」

「高校の大会で、昏華さをと当たらなかったのが

 ずっと引っかかってた」


すきは、息を呑んだ。


「戦ってないのに、

 勝った気もしないし、負けた気もしない」


雪平は、すきをまっすぐ見る。


「だから、興味が残った」


一拍。


「……私は」

「当たらなかった相手を、

 このままにしておけなかった」


すきは、正直に答えた。


「私は……

 当たらなくて、ほっとしてました」


雪平は一瞬驚いたように目を瞬かせ、

それから小さく息を吐いた。


「そう言うと思った」


「それも含めて、だよ」


雪平は静かに言う。


「すきは逃げない人だ。

 でも、選ぶ人でもある」


「だから」

「ここに立ってるのが、すきでよかった」


軽く手を振る。


「あとで話そう。

 今は、始まる前の顔してな」


そう言って、雪平は人の流れに戻っていった。


すきは、その背中を見送った。


(……やっぱり)

(避けてきた相手だ)


でも、

もう避けられない。



「よっ」


少し低い声。


振り向くと、

売田転が立っていた。


「……売田さん」


「律儀だな」


売田は肩をすくめ、

周囲を一瞥する。


「来たな。

 俺の情報、役に立っただろ?」


すきは、はっきりと頷いた。


「……ありがとうございました。

 教えてもらってなかったら、

 ここに来てなかったと思います」


売田は、満足そうに鼻で笑った。


「だろ?」


胸を張り、

指を一本立てる。


「転売で一番大事なのはな、

 情報だ」


「品じゃない。

 腕でもない」


「誰より早く知ってることだ」


売田は、にやりと笑う。


「プロライセンスも同じだ。

 知らなきゃ、最初から負けてる」


その言葉に、

すきは何も返せなかった。


否定できなかったからだ。


「ま、せいぜい頑張れ」


売田は軽く手を振り、

人混みに消えていった。


(……情報、か)


それが武器にも、

呪いにもなることを、

すきは知っている。



視界の端に、見覚えのない青年がいた。


整った身なり。

腕を組み、無表情。


こちらを見ることもなく、

ただ前だけを見ている。


(……誰だ)


学生大会で見た記憶はない。

それ以上、気に留めなかった。



「やっぱり来てた!」


弾む声。


振り向くと、

派手な服装の少女が立っていた。


「高校生大会三連覇。

 来ないわけないよね」


周囲の視線が集まる。


――あれが。

――三連覇の。

――昏華すき。


すきは、もう慣れていた。


「……えっと」


言葉に詰まる。


(インフルエンサーの……)


最近、クレーンゲーム界隈で

名前だけは聞く存在。


「あ、ごめん!」


少女は笑って、軽く手を挙げた。


羽澄京子(ばずきょうこ)

 クレーンゲーム系で動画やってるの」


さらっとした自己紹介。


「今日はさ、

 勝つだけじゃ足りないんだって」


羽澄は楽しそうに続ける。


「どう見せるか。

 どう残るか。

 そこ、大事らしいよ」


すきは、曖昧に頷いた。



やがて、照明が落ちる。


ざわめきが、自然と静まる。


ステージ中央に、司会者が現れた。


《本日は、

 クレーンゲーマー・プロライセンス試験に

 お集まりいただき、ありがとうございます》


淡々とした声。


《本試験は、

 一次試験、二次試験、三次試験、四次試験、

 そして最終試験――

 合計五つの試験で構成されています》


会場が、さらに静まる。


《最終試験合格者には、

 プロクレーンゲーマー・ライセンスが付与されます》


スクリーンに、特典が映し出される。

•協会運営ゲームセンター

 プレイ利用料金 半額

•協会との専属契約

 年俸五百万円

•各種大会への優先出場権

•大会賞金・イベント出演


息を呑む気配が、広がった。



続いて、

協会長がステージに立つ。


落ち着いた佇まい。


「もう、クレーンゲームは

 ただの娯楽ではありません」


静かな声が、会場に響く。


「競技であり、

 そして――職業になる時代です」


すきの胸が、わずかに鳴った。


「試験内容は、

 それぞれの試験官に任せています」


「ただし、一つだけ」


会長は、言い切った。


「才能があるだけでは、プロにはなれない」


張り詰めた沈黙。


「本日ここで、

 プロクレーンゲーマー第一期生が誕生します」


「その瞬間を、

 私は心から楽しみにしている」


「――健闘を祈ります」



拍手は起きなかった。


代わりに、

全員が同時に息を吸った。


ここは、

もう学生の舞台じゃない。


娯楽の先。

競技の先。

職業の入り口。


選ばれる側として、

昏華すきは、立っていた。




キャラ紹介

雪平ゆきひら あん


元かもめ高校主将/境地到達者/バフ型プレイヤー


・年齢:20代前半

・雰囲気:穏やかで上品

・立ち姿:常に背筋が伸びている

・口調:丁寧だが芯が強い



性格


・責任感が強い

・弱さを見せない

・自己犠牲型

・実はかなり繊細


誰よりも周囲を見ている。

でも、自分の心は後回しにするタイプ。


境地の恩恵


「潜在能力の解放」


・1日最大100%分を振り分け可能

・複数人に分配できる

・割合調整も可能


チームを“底上げ”する存在。



特徴


・チーム戦で真価を発揮

・精神的支柱

・静かなカリスマ


個の爆発力より、

“全体の最大化”。


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