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くれげの世界  作者: ぐろ
第三章 プロライセンス編
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第91話 エントリー

スマホの画面を、すきはじっと見つめていた。


月刊クレーンゲームの公式サイト。

その一番下に、小さく設置されたリンク。


――プロライセンス試験・受験者募集。


オンライン応募フォーム。

必要事項を入力して、送信するだけ。


簡単で、合理的で、

今の時代らしいやり方だった。


それでも、指はまだ動かない。



「珍しいね」


声をかけてきたのは、天秤沙希だった。


大学生になった沙希は、

以前より落ち着いた雰囲気を纏っている。

それでも、笑ったときの軽さは変わらない。


「連絡くれるの、すきの方からだなんて」


「……ちょっと、聞きたいことがあって」


二人は、カフェの窓際に座っていた。

外では、学生たちが行き交っている。


「今、何してるの?」


沙希の問いに、

すきは一瞬だけ言葉に詰まる。


「……バイト」


それ以上は、続かなかった。


沙希は責めるでもなく、

ミルク入りのコーヒーを一口飲んでから言った。


「私はね、福祉施設を建てたいんだ」


「福祉?」


「うん。

 障害がある人も、そうじゃない人も、

 一緒に遊べる場所」


さらっとした口調。

でも、その目は本気だった。


「クレーンゲームも置きたいな。

 調整、ちゃんとしてさ」


すきは、思わず笑ってしまった。


「……沙希らしい」


「でしょ?」


少し間を置いて、

沙希はすきを見た。


「ねえ」


その視線が、まっすぐだった。


「すきってさ、

 クレーンゲームしてる時が一番輝いてるよ」


すきは、何も返せなかった。


「勝ってる時じゃない。

 考えてる時。

 迷って、選んでる時」


沙希は、肩をすくめる。


「それ、才能とかじゃない。

 すきの“居場所”だと思う」



帰り道。


すきは、月刊クレーンゲームを買った。

スマホで応募できることは、分かっている。


それでも。


ページをめくると、

綴じ込みの応募ハガキがあった。


〈※WEB応募・郵送応募、いずれも可〉


小さな注意書き。


氏名。

年齢。

連絡先。


ペン先が、止まる。


――本当に、行くのか。


一度だけ、深呼吸してから、

すきは記入欄を埋めた。


昏華すき。


ハガキを切り取り、

ポストに入れる。


カタン、と軽い音。


それで、もう戻れなかった。



最近、クレーンゲームをしていなかった。


だから、練習に行こうと思った。


地元のゲームセンター。

見慣れた台。

少し古い景品。


――簡単すぎる。


アームが動く前から、

結果が分かってしまう。


境地の恩恵が、強すぎる。


それは、武器でもあり、

同時に、危うさでもあった。


「……楽しくは、ないな。」


独り言が漏れた、その時。


「久しぶりだね」


振り向くと、

そこにいたのは――ミスター初期位置。


山口一。


相変わらず、穏やかな目をしている。


「プロライセンス、受けるのかな?」


すきは、驚かなかった。


「……はい」


山口は、少しだけ考えてから言った。


「職業にするっていうのはね、

 楽しいだけじゃ続かない」


「勝てなくなる時もある。

 求められる時も、

 切り捨てられる時もある」


すきは、黙って聞いていた。


「それでも?」


「……私にはこれしかない。」


山口は、微笑んだ。


「なら、応援するよ」


それだけだった。



数ヶ月後。


すきは、試験会場の前に立っていた。


巨大なゲームセンター。

見上げるほどの看板。


胸の奥が、静かに熱い。


――私は、選ぶ。


勝つためじゃない。

逃げないために。



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