第89話 きっと笑ってる
会場中央。
優勝トロフィー。
賞状。
最新型クレーンゲーム。
「——それでは」
司会の声が、
少し弾む。
「優勝チーム、県立トレトレ高校」
拍手が起こる。
⸻
……が。
誰も、
一歩目を踏み出さなかった。
視線が、
自然と交差する。
「……誰、行く?」
豚田が、
小声で言った。
沙希が、
首を傾げる。
「普通、主将じゃない?」
その言葉に。
晴谷が、
針千の背中を軽く叩いた。
「行ってこい」
「……え?」
針千が、
目を丸くする。
「おれ?」
「マネージャーですけど?」
晴谷は、
悪びれもせず言った。
「正式に部活登録したとき」
「主将の名前、書いたのはお前だ」
一拍。
「……は?」
⸻
「うん!」
すきが、
即答した。
「針千なら、ぴったりだよ!」
沙希が、
肩をすくめる。
「主将兼マネージャーだね」
「忙しそう」
「肩書きが増えたぶひ……」
豚田が、
どこか誇らしげに笑う。
凛は、
腕を組んだまま。
「合理的」
「統率と調整を同一人物が担うのは、効率がいい」
「それでしたら」
舞子が、
上品に微笑む。
「部費で新しいティーカップを」
「人数分、よろしくお願いしますわ」
「……もう好きにしてくれ」
針千は、
観念したように前に出た。
⸻
会長が、
トロフィーを手に取る。
「優勝」
「県立トレトレ高校」
針千は、
両手で受け取った。
少しだけ、
手が震えた。
賞状も、
同時に渡される。
拍手。
——確かに、
ここに立っている。
⸻
「続いて」
「大会MVPの発表です」
ざわめき。
「銀泉舞子」
一瞬、
時が止まった。
「……わたくし?」
舞子が、
目を見開く。
会長が、
ゆっくりと頷いた。
「決勝・次鋒戦」
「判断、技術、覚悟」
「いずれも印象的だった」
舞子は、
小さく息を吸い。
そして、
深く一礼した。
⸻
「それでは」
「優勝チーム、記念撮影です」
聞見が、
やたら大きなカメラを構える。
「皆さん、いいですかぁ〜?」
すきが、
一歩前に出た。
「……ちょっと、待ってください」
そして、
脇を見た。
「山口さん」
呼ばれた名に、
山口が一瞬、固まる。
「……え?」
「いや、俺は……」
晴谷が、
横から口を挟む。
「聞見に撮られるの、何年ぶりだ?」
「まったく」
「自分は部外者だって顔して」
「いや、だから——」
その時。
会長が、
無言で聞見のカメラを奪った。
「……え?」
「撮影許可、ありますよ?」
「違う」
会長は、
短く言う。
「お前も入れ」
「ふぁ?」
聞見が、
素っ頓狂な声を出す。
⸻
並ぶ。
すき。
沙希。
凛。
舞子。
豚田。
針千。
晴谷。
そして、
少し遅れて、
山口。聞見。
トレ高チームと、
かつての同級生三人。
「よし、いくぞ〜」
会長の声。
シャッター。
——それが。
優勝の形だった。




