第9話 5人目?
ゲームセンターの朝は、
少しだけ静かだ。
音が少なくて、
失敗が、よく聞こえる。
「……はい、止め」
沙希が、成宮金の手を制した。
「今の、
何も見てなかったでしょ」
「え?」
金は、きょとんとする。
「見てたよ?」
「見て“ない”」
沙希は、筐体を指さした。
「アームの角度。
景品の重心。
全部無視」
「だって」
金は、少し困ったように笑う。
「取れるまでやれば、
いつか取れるし」
凛が、即座に補足する。
「大会では、
一人一手です」
「いつか、は来ません」
「……あ」
金は、ようやく状況を理解した。
「一回、だけ?」
「そう」
沙希が頷く。
「だから、
その一回を“生かす”練習」
すきは、少し離れた場所で
その様子を見ていた。
――声は、聞こえない。
でも。
金のプレイを見ていると、
胸の奥が、ざわざわする。
「……今の」
思わず、口を開く。
「もう少し、
右でした」
三人が、すきを見る。
「……え?」
金も、振り返った。
「え、今の?」
すきは、慌てて首を振る。
「い、いえ……
なんとなくです」
凛が、目を細めた。
「……なんとなく、ね」
もう一度、金がボタンを押す。
今度は、
すきが言った“少し右”。
――景品が、
わずかに、いい位置に動いた。
「……お?」
沙希が、声を上げる。
「今の、
悪くない」
「でしょ!」
金が、ぱっと笑う。
「すごいね、すき!」
すきは、胸を押さえた。
今のは――
声じゃない。
でも、未来の“気配”。
そのとき。
背後で、
乾いた拍手が鳴った。
「いいねえ」
聞き覚えのない声。
「今の、
失敗しても美味しい一手」
振り返る。
派手な服の女が、
筐体にもたれかかっていた。
目が、異様に楽しそうだ。
「……誰」
沙希が、警戒する。
「通りすがり」
女は、にやっと笑う。
「クレーンゲームで
脳汁出す人」
凛が、即座に理解した。
「……賭けるタイプですね」
「正解」
女は、楽しそうに拍手する。
「一手目で安定作って」
「二手目で整えて」
「三手目で荒らして」
「……で」
すきを見る。
「五手目で、
未来見る子が締める」
すきの心臓が、跳ねた。
「――それ」
凛が、一歩前に出る。
「どういう意味ですか」
女は、舌なめずりをする。
「言葉通り」
「さっきの子」
すきを指さす。
「もう見えてるでしょ」
すきは、
思わず耳を塞ぎそうになった。
――声は、まだ。
でも。
この女は、
“四手目”の匂いがした。
「名前」
沙希が、短く聞く。
「賭良 詠」
女は、楽しそうに名乗る。
「勝つため?」
凛が問う。
「違う」
即答。
「震えるため」
金が、目を輝かせた。
「それ、
楽しそう!」
詠は、にやっと笑った。
「でしょ?」
四人目の特訓場に、
五人目の“賭け”が、
静かに入り込んだ瞬間だった。
すきは、
まだ知らない。
自分が最後の一手になる理由を。




