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くれげの世界  作者: ぐろ
第二章 高校編
89/205

第88話 勝者と敗者

勝者、トレ高。


その宣告が、会場に響いた瞬間。



「うおおおおお!!」


誰かが叫んだ。

次の瞬間、理性は吹き飛んだ。


すきが抱き上げられ、

沙希が泣き笑いで飛びつき、

凛が無言のまま、強く拳を握る。


そして——


「……あれ?」


床に倒れていた豚田が、

ゆっくりと目を開けた。


「……勝った? え、勝ったぶひ!?」


次の瞬間、

全員に押し潰される。


「ちょ、ちょっと待っ——」

「先鋒復活おめでとー!」

「お前、ここで起きるのズルいだろ!」


笑い声と涙と、

ぐちゃぐちゃの抱擁。


それが、

トレ高の優勝だった。



少し離れた場所。


夢幻高校の控え席。


運命は、

照れくさそうに頭を掻いた。


「……ごめん」

「負けちゃった」


その瞬間。


「せんぱぁぁぁい!!」


神咲が、

泣きながら抱きついた。


「運命先輩が負けるところ……」

「初めて見ました……!」


肩が、震えている。


運命は、

少し驚いてから、

そっと頭に手を置いた。


「……ごめんね」


神咲だけじゃない。


松下蘭も。

寸胴姫歌も。


声を殺して、

泣いていた。


——よっぽど、怖かったのだろう。


勝てなければ。

失敗すれば。

切り捨てられるんじゃないか。


そんな空気の中で、

ここまで戦ってきたのだから。


「……みんな」


運命は、

一度、深く息を吸う。


「今まで、ごめんね」


顔を上げて、

はっきりと言った。


「明日からはさ」

「失敗しても、取れなくても」

「楽しもう」


一瞬の沈黙。


次の瞬間、

堰を切ったように、

泣き声が溢れた。



少し離れた場所。


享楽が、

壁にもたれて立っていた。


「……ずっと、傍にいてくれて」

「ありがとう」


運命は、

まっすぐに言った。


享楽は、

少しだけ目を逸らす。


「なぁ」

「最後、なんで未来潰し使わなかったんだ?」


その問いに。


運命は、

少し考えてから、

苦笑した。


「だって……」


「ズルしたらさ」

「織田くんに怒られちゃうでしょ」


一瞬。


享楽は、

吹き出した。


「……それだけかよ」


「それだけ」


二人は、

同時に笑った。



その時。


「……あの」


声がした。


振り返ると、

すきが立っていた。


夢幻高校の控え席の前。


「柚木さん」


一歩、

神咲が前に出る。


「自分の運命先輩に、なんですか」


少し、

警戒した声。


すきは、

慌てて首を振った。


「ち、違います」

「その……」


一拍。


「今度」

「クレーンゲーム、教えてください」



その言葉に。


運命の中で、

時間が、重なった。


「運命ちゃん、ここ教えて」

「運命先輩、これはどうすればいいですか?」


——あぁ。


あの頃の声。


頼られて、

一緒に笑っていた時間。


砂漠に行く前の、

世界。


運命は、

一瞬だけ目を伏せて。


そして、

笑った。



「うん、もちろん!」


「一緒に、練習しよう!」



すきは、

少しだけ目を丸くしてから。


小さく、

頷いた。


その光景を、

享楽が見ていた。


神咲も、

松下も、

寸胴も。


誰も、

切り捨てられなかった。


誰も、

置いていかれなかった。

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