第86話 境地に至る
ボタンを握る、すきの手は
震えていなかった。
怖くないわけじゃない。
でも、逃げてもいなかった。
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宇宙だった。
扉の向こう側。
果てしなく広がる闇と、
無数の星。
一つひとつが、
選択肢だった。
(……多い)
未来が、見える。
でも、それは“正解”じゃない。
選ばなかった星も、
確かに存在している。
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最初は、
一人で見ていた。
沙希も、
凛も、
舞子も、
豚田も、
針千も。
誰もいない宇宙。
(……違う)
すきは、
気づいた。
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星の一つが、
ゆっくりと、明るくなる。
——声がした。
『無理しなくていいよ』
沙希の声。
軽くて、
でも確かに背中を押す声。
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別の星。
『間違えてもいい』
凛の声。
理屈じゃない、
温度のある言葉。
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さらに、
小さくて、
必死な声。
『ブヒ……信じてる』
豚田。
笑ってしまいそうになる。
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また一つ。
『努力は、裏切りませんわ』
舞子。
血豆の感触が、
掌に蘇る。
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最後に。
『行け、すき』
短くて、
乱暴で。
針千の声。
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宇宙が、変わった。
星は、
“未来”じゃなくなった。
仲間との距離になった。
近い星。
遠い星。
重なる軌道。
——全部、抱えていい。
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(……あぁ)
すきは、
理解した。
未来を“当てる”必要はない。
選ぶのは、
一人じゃない。
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宇宙の最深部。
そこに、
扉があった。
二つ。
未来予測の扉。
フィギュアの声の扉。
重なり合い、
一つになる。
——”境地”。
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現実。
4手目。
すきは、
盤面を見ない。
見るのは、
距離。
箱と、
橋と、
落下点。
そして、
“今ここにいる全員”。
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動かす。
一切の迷いなく。
アームが、
星を掴むみたいに、
静かに降りていく。
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運命は、
その瞬間、
はっきりと感じた。
(……至ったか)
砂漠とは違う。
これは、
一人では辿り着けない場所。
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4手目。
箱が、
ゆっくりと持ち上がる。
会場が、
息を止める。
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まだ、落ちない。
まだ、決まらない。
だが。
この瞬間、
確定したことが一つある。
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昏華すきは、
仲間と共に、境地に至った




