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くれげの世界  作者: ぐろ
第二章 高校編
84/205

第83話 大一番


静かだった。


決勝の大将戦。


トレ高 昏華すき。

夢幻高 柚木運命。


名前が呼ばれ、二人が中央に立ったというのに、

会場は奇妙なほど落ち着いている。


派手な因縁も、煽りもない。

ただ、

「最後だ」という事実だけが、そこにあった。



すきは、

盤面を見る前に、一度だけ目を閉じた。


(……大丈夫)


理由はない。

根拠もない。


ただ、

胸の奥が静かだった。



ボタンに触れた瞬間。


世界が、反転した。



音が、消える。


歓声も、実況も、

すべてが遠ざかっていく。


目の前に広がったのは、

暗闇ではなかった。


無数の星が浮かぶ、広い空間。


(……宇宙)


扉の中。


すきは、

考える前に理解していた。


ここは、

未来が決まっている場所じゃない。


未来が、選ばれる前の場所。



星は、どれも輝いている。


どれを掴んでも、

正解になり得る。


でも——

同時には掴めない。


(……選ぶんだ)


怖さは、ない。


不思議と、

迷いもなかった。



現実の盤面で、

すきの手が動く。


一切の躊躇もなく。


横。

奥。

最小限の動き。


1手目。



箱が、

“置かれた”。


誰もがそう感じた。


動かしたというより、

そこに最初からあったかのように。



「……え?」


観客席から、

思わず漏れた声。


派手さはない。

だが、

異常だった。



針千が、目を見開く。


「……1手で、

 あの位置?」


晴谷は、

何も言わない。


ただ、

小さく息を吐いた。


(……入ったな)



運命は、

その1手を見て、

初めてすきを“見た”。


盤面ではなく、

操作でもなく。


その立ち方を。


(……最初から、そこにいる)



未来潰しに、

触れない。


触れる必要が、

まだなかった。



1手目。


まだ、何も決まっていない。


それなのに。


この試合は、

もう今までの決勝とは違うと、

誰もが無意識に理解していた。



すきの宇宙で、

一つの星が、静かに瞬く。


(……行こう)



決勝戦・大将戦。


1手目にして、

すきはもう——

盤面の外側に立っていた。

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