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くれげの世界  作者: ぐろ
第二章 高校編
75/205

第74話 未来潰し

先鋒戦のざわめきは、

まだ会場に重く残っていた。


勝敗が決まったはずなのに、

どこか腑に落ちない空気。


——あれは、はたして試合だったのか?事故だったのか?


トレ高ベンチ。


豚田は、俯いたまま動かなかった。

声をかける者はいない。


その前で、次鋒戦の準備が静かに進んでいく。


「……行ってきますわ」


短くそう言って、舞子が立ち上がった。

背中に視線が集まる。


凛は何も言わない。

けれど、その目は離れなかった。



舞台が整うまでの、わずかな時間。


「……なあ」


低い声が漏れた。


「さっきの先鋒戦、出来すぎじゃなかったか?」


視線の先には、巨大モニター。

数分前まで映っていた“ニュース”の残像。


「豚田、どう見ても勝ちに入ってたよな」

「流れも、操作も、完全に来てた」


一拍。


「なのに、あのタイミングでニュースだ」


答えはすぐに返らなかった。


代わりに、夢幻高校のベンチが視界に入る。

誰一人、驚いていない。


「……偶然にしては、正確すぎる」


落ち着いた声がそう言った。


「外部要因が、勝ち筋の瞬間にだけ刺さる。

 意図的な介入を疑うほうが自然だ」


その言葉に、小さく息を吸う音がした。


「……私も、そう思う」


視線が集まる。


「豚田くんの未来、あの時……分かれてた」


静かな声。

だが、その言葉は重かった。


「勝つ未来が、ちゃんと見える流れだった」


「……未来予測か」


「うん」


少し間を置いて、続ける。


「私と……たぶん、同じ」


誰かが言葉を失う。


「勝つ未来を見て……それを」


一瞬、言葉を探すように視線が揺れた。


「……潰したんだと思う」


空気が、冷えた。


「そんなこと……できるのかよ」


「境地に至った者ならありえるか……」


静かな声が続ける。


「ただし、無制限じゃない」


「……は?」


「もし無制限なら、先鋒戦以前に全部終わってる」


「だから制限がある」


「……もしあと2回同じように潰されたら……」


小さな声が重なる。


「必ず突破口がある、まずは次鋒戦集中だ」



その言葉に、誰も反論しなかった。



アナウンスが響く。


「次鋒戦——

 トレ高・銀泉舞子!!

 夢幻高校・寸胴姫歌!!」


舞子は、ゆっくりと台へ向かう。



対戦台の向こう。


寸胴姫歌は、一瞬だけ視線を横に向けた。


運命は、淡々と告げる。


「今日は、あと二回」


わずかな沈黙。


「無駄遣いはしない。」


そして、命令。


「……私の言う通りに動いて」


寸胴は、何も言わず頷いた。


隣で、享楽伝だけが視線を伏せる。


(舞子は……潰さない)


(違う。潰せない、か)



試合開始。


姫歌は一手目から正確だった。


無駄がない。

冒険がない。


正解だけをなぞる動き。


「寸胴選手、安定しています!」

実況の声が会場に響く。


舞子は、一瞬だけ手を止めた。


——速い。


そして、嫌な感覚。


フィギュアスケート時代。

負けるときの流れ。


二手目、三手目。


姫歌は失敗しない。


舞子の刺し回しは、わずかに届かない。


観客席がざわつく。


「……押されてないか?」

「相手、崩れないぞ」



トレ高ベンチ。


「……今回は、来ねぇな」


低い声。


「……ああ」


「舞子さんの未来、分かれてない」


「凛に勝つか、負けるか。

 それだけ」


「だから……潰しても意味がない」


誰も否定しなかった。



舞子は、深く息を吸った。


——凛しか、見てこなかった。


フィギュアも。

人生も。


だから、この相手を、ちゃんと見ていなかった。


寸胴姫歌。

”永遠の三番手”


それでも、この正確さは本物だ。


「……負けていられませんわ」


未来は、潰されていない。


この試合は、

自分の努力だけで決まる。


アームが、再び動き出す。


——次鋒戦は、まだ終わらない。

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