第67話 再会
控室を出た通路は、
もう騒がしくなかった。
準決勝の熱は、
少し前に置いてきたみたいに、
空気は静かだった。
沙希は、壁にもたれたまま、
ゆっくりと息を整えている。
すきは、少し離れたところで、
自分の手を見ていた。
(……まだ、途中)
その感覚だけが、
胸の奥に残っている。
「お疲れさま」
不意に、声がした。
振り返ると、
スーツ姿の男が立っていた。
派手さはない。
だが、場違いでもない。
「決勝進出、おめでとう」
凛が、小さく目を見開く。
「……ミスター初期位置」
男は、軽く会釈した。
「山口です。
今日の勝ち方、よかった」
褒め言葉にしては、
ずいぶん静かな声だった。
山口の視線は、
沙希ではなく、
少し後ろに立つ針千に向いていた。
「いい応援だった」
針千は、一瞬言葉に詰まる。
「……ありがとうございます」
山口は、それ以上何も言わなかった。
次に、
通路の向こうから、
軽い足音が近づいてくる。
「いやあ、
いい準決勝だったね」
月刊クレーンゲームの聞見だった。
メモ帳を片手に、
視線はすでに全員を一度ずつ捉えている。
「みんないい顔で写したよ〜!」
それを聞いて
髪を整える舞子
勇ましくなる豚田
「……久しぶりだな」
低い声。
晴谷が、
通路の角から現れた。
ジャケットを肩にかけ、
監督でも教師でもない、
ただの男の顔をしている。
山口が、わずかに目を細めた。
「……ああ」
それだけ。
握手も、再会の言葉もない。
聞見が、ペンを止める。
三人の間に、
言葉にされない時間が流れていた。
「では明日の決勝戦楽しみにしてるよ」
山口が言う。
山口は、
視線を通路の先――
試合台のある方向へ向けた。
整備スタッフが、
台を初期位置に戻している。
箱は、
何事もなかったように、
橋の中央に置かれていた。
「……初期位置か」
山口が、ぽつりと呟く。
「では、失礼する。」
控え室をでる山口。
すきは、その背中を見ながら、
どこか寂しさを感じた。
物語は、
初期位置へと移る。




