第64話 真心高校
会場の空気が、わずかに変わっていた。
準決勝。
それだけなら、いつもと同じはずだった。
けれど――
トレ高チームの前に立つ相手は、どこか違った。
「真心高校、入場です」
アナウンスとともに現れたのは、
揃った足並みでも、威圧的な態度でもない。
ただ、確信だけを纏った集団だった。
先頭を歩く少年が、ふと顔を上げる。
真心 進。
その視線が、一直線に向いた先。
「……沙希」
名前を呼ばれた瞬間、
沙希の指先が、ほんのわずかに強張った。
「久しぶりだね」
進は、穏やかに笑っていた。
けれどその笑みは、どこか作られている。
沙希は、一拍置いて答える。
「……久しぶり」
それだけだった。
それ以上、言葉は続かない。
進は沙希から視線を外し、
トレ高チーム全体を見渡した。
「いいチームだね」
どこか値踏みするような目。
「安定してる。再現性も高い。
でも――」
進は、軽く肩をすくめる。
「それじゃ、進化はできない」
その言葉に、
針千がわずかに眉をひそめ、
凛が無言で進を見据える。
協会長が、モニター越しに呟いた。
「……革命を語る者ほど、
己の正しさを疑わん」
晴谷は、腕を組んだまま、静かに言う。
「厄介だな」
試合開始前、晴谷の視線は、すきに向いている。
「先鋒。
合宿の成果を、出してこい」
すきは、小さく頷いた。
「……はい」
先鋒、昏華すき。
会場がざわめく中、
すきは台の前に立った。
深呼吸。
世界が、静かになる。
(大丈夫)
扉は、見えている。
一つじゃない。
二つ。
すきは、両手を伸ばした。
同時に。
開く。
視界が、反転する。
右と左。
二つの扉の向こうに広がっていたのは――
果てのない”宇宙”。
星があり、
軌道があり、
無数の可能性が漂っている。
(……入れる)
そう、思った。
でも――
すきは、一歩も踏み出さなかった。
まだ、行く時じゃない。
すきは、扉の縁に留まったまま、
現実の台を見る。
アームが降りる。
狙いは、正確だった。
大きな動きはない。
無理も、奇策もない。
それでも。
箱は、静かに傾き――
橋を越えた。
落下音。
会場が、遅れてざわめく。
「先鋒戦、トレトレ高校、昏華の勝利!」
すきは、振り返らなかった。
扉は、閉じる。
まだ、途中だ。
真心高校のベンチは、動じない。
進は、むしろ楽しそうに笑った。
「へえ……」
視線が、再び沙希に向く。
「やっぱり、面白いチームだ」
沙希は、何も答えなかった。
ただ、胸の奥に残る、
小さな違和感を無視できずにいた。
(変わってない……)
あの頃と同じ。
否定されることを、
どこかで求めている目。
試合は、まだ始まったばかりだ。
革命か。
天秤か。
その答えは――
この先で、はっきりと示される。




