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くれげの世界  作者: ぐろ
第二章 高校編
64/74

第63話 それぞれの朝



① 新聞配達の朝(詠と雪平)

 朝は、昨日と同じ匂いがした。


 新聞のインク。

 まだ冷たい空気。

 眠りきらない街。


 詠は、自転車を押しながら歩いていた。


 隣に――雪平がいる。


「……変な感じ」


 詠が、ぽつりと言う。


「あらどうして?」


「なんで私を誘ったんだよ」


 雪平は、微笑んだ。


「だってあなた、そのチラシ見たとき……寂しそうだったから」


月刊クレーンゲーム折り込みチラシを指刺す



 それだけ。


 しばらく、無言で新聞を配る。


 角を曲がったところで、

 詠が急に足を止めた。


「ねえ」


「なに?」


「昨日さ……怖かった」


 言葉にした瞬間、

 胸の奥が少しだけ軽くなる。


「負けるのが」


 雪平は、すぐには答えなかった。


 代わりに、詠の手元を見る。


「それ、前はなかったわね」


「……前はさ」


 詠は、苦笑する。


「勝っても負けても、楽しかったから」


「今は?」


「……誰かに、繋ぎたかった」


 雪平は、頷いた。


「それでいい」


 肯定は、それだけ。


 でも、詠はそれで十分だった。



② 朝のゲーセン(豚田と針千)

 朝のゲームセンターは、静かだった。


 大会用の台じゃない。

 古くて、癖のある橋渡し。


 クレーンゲームをやる針千


「……はぁやっぱみんなみたいにはいかないな」


「基礎が大事ブヒ」


 豚田は、画面から目を離さずに言う。


「豚田はすげーよな」


「え?」


「”萌えたんモード”とかいって覚醒できるし」


 針千は、淡々と続ける。


「おれは応援しかできないからさ」


 豚田は、一瞬だけ黙る。


「……でもみんな助かってるブヒ」


 

表情を変えずに針千が言った


「ありがとな豚田。」




「準決勝も頑張ってくれよな。」


「ぶひ!」


 針千は、少しだけ笑った。



③ 自販機の前(すきと沙希)

 

 


 すきは、缶を握ったまま言った。


「……雪平と当たらなくて」


 一瞬、言葉に詰まる。


「正直、ほっとした」


 沙希は、驚かなかった。


「うん」


「……いいのかな」


「いいよ」


 即答だった。


「今は」


 沙希は、すきを見る。


「逃げたんじゃない。

 まだ、行く時じゃないだけ」


 すきは、缶を開ける。


 小さな音。


「……準決勝、勝たなきゃね」


「当たり前」


 沙希は笑う。


「そのために、ここまで来たんでしょ」


 すきは、空を見上げた。


 まだ、自分は途中だ。


 でも――

 途中であることを、ようやく受け入れられた

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