第62話 負けた理由
副将戦の台は、もう止まっていた。
沈黙したアーム。
さっきまでの異変が、嘘みたいに静かだ。
「……勝者、雨瑠凛。
トレトレ高校、準決勝進出」
アナウンスが、淡々と告げる。
歓声が遅れて広がる中、
凛はその場から動けずにいた。
胸が、苦しい。
勝った。
確かに。
でも――
視線の先に、詠がいた。
肩で息をしながら、
それでも立っている。
破壊の扉は、開いたままだ。
禍々しい気配が、まだ残っている。
詠は、凛を見て笑った。
「……取ったね」
「ええ」
凛は、短く答える。
一瞬、言葉に迷ってから――
一歩、前に出た。
「詠」
名前を呼ぶ。
詠は、目を逸らさなかった。
「私とあなた」
凛は、静かに言う。
「中学のときから、合わなかった」
詠が、鼻で笑う。
「知ってる」
「性格も、プレイも」
凛は続ける。
「あなたは賭ける。壊す。
全部、自分で背負う」
「……」
「私は、積み上げる。
正しさを、疑いながら」
少し、間。
「でもね」
凛の声が、わずかに柔らぐ。
「今のあなたは、違う」
詠の喉が、鳴る。
「雪平に、繋ごうとしてた」
その一言で、
詠の表情が、崩れた。
「それが、負けに繋がったとしても」
凛は、はっきりと言う。
「それは、弱さじゃない」
少しだけ、笑う。
「私は――
今のあなたの方が、好きよ」
詠は、唇を噛んだ。
「……ムカつく」
声が、震える。
「負けたのに、
そんなこと言われるの」
「負けた“やり方”の話をしてるの」
凛は、譲らない。
「あなたは、初めて
負けるのが怖かった」
詠は、はっとする。
凛は続けた。
「それはね」
一呼吸。
「誰かのために、勝ちたかった証拠」
詩の目から、涙が落ちた。
「……繋げなかった……」
「繋いだわよ」
凛は即答した。
「私に、ここまで来させた」
詠は、声を上げて泣いた。
壊せなかったからじゃない。
賭けきれなかったからでもない。
恐怖の正体を、初めて知ったから。
少し離れた場所。
雪平が、静かに歩み寄る。
何も言わない。
ただ、詠の肩に手を置いた。
それだけで、
詠は顔を上げた。
「……ごめん」
小さな声。
「謝ることじゃないわ」
雪平は、穏やかに言う。
「あなたは、ちゃんと成長した」
詠は、何も返せなかった。
でも、目を逸らさなかった。
控えエリア。
「……終わったな」
針千が、息を吐く。
「いや」
晴谷は、首を振った。
「始まったんだよ」
その言葉に、誰も反論できない。
すきは、遠くから雪平を見る。
視線が、一瞬だけ合った。
胸が、ひやりとした。
そして――
ほっとした。
三回戦、終了。
勝った者。
負けた者。
でも確かに、
前に進んだ者たちがいた。




