第58話 かつての仲間
勝利の余韻は、思ったよりも長く残っていた。
舞子が台から離れたあとも、
すきはしばらく、その場に立ったままだった。
アームが上がりきる音。
景品が落ちたときの、あの乾いた衝撃。
――確かに、勝った。
「……舞子」
名前を呼ばれて、舞子は肩をすくめる。
「そんな顔で見られると困りますわね。
勝ったのは事実でしょう?」
「いや、そうだけどさ」
沙希が笑う。
「でもさ、ちゃんと“チームの勝ち”だったよ」
舞子は一瞬だけ目を伏せてから、そっぽを向いた。
「……ええ。
それは、否定しませんわ」
凛は何も言わなかった。
ただ、短く一度だけ頷いた。
それで十分だった。
通路を進む途中。
控室前のモニターに、人だかりができていた。
「次の対戦、出たぞ」
誰かの声。
すきは、何気なく視線を向けて――
そのまま、動けなくなった。
『第三回戦
トレトレ高校 vs かもめ高校』
「……かもめ?」
沙希の声が、少しだけ低くなる。
凛の足も、止まった。
すきの胸が、嫌な音を立てる。
覚えがある。
はっきりと。
中学の大会。
同じチームで、同じ台を囲んだ――
「……まさか」
人混みの向こう。
白と青のジャージの集団の中に、
見覚えのある色があった。
赤に近い、ワインレッドの髪。
無造作で、相変わらず目立つ。
その人物が、こちらを見て――笑った。
「久しぶりじゃん」
軽く、けれどはっきりした声。
「すき。
沙希。
……凛」
空気が、一段沈んだ。
「……詠?」
凛の声は、確認に近かった。
「なに、その顔」
賭良詠は、肩を竦める。
「そんなに驚く?
私だって驚いてるよ」
沙希が、いつもの調子で割り込む。
「ちょっと待って。
なんで詩が、かもめ高校?」
「いろいろあってね」
詠は、あっさりと言った。
それ以上、説明する気はなさそうだった。
「……まさか、当たるとは思わなかった」
凛が呟く。
詩は、少しだけ目を細めた。
「私は、そうでもないかな」
「え?」
「だってさ」
詠は、くるりと背中を向ける。
「クレーンゲームやめてない人たちが、
同じ大会に来ないわけないでしょ」
一拍。
「……今は、かもめ高校の賭良詠だから」
その言葉に、線が引かれた。
仲間でも、過去でもない。
次は、敵。
詠の視線が、舞子に向く。
「二回戦、取ってたよね」
「ええ」
舞子は、真正面から受け止めた。
「いいねぇ♡」
「……ありがとうございますわ」
短いやり取り。
でも、確かに“試されている”感触があった。
そのとき。
「詠、そろそろ戻ろう」
穏やかな声が、後ろからかかる。
振り返った先に立っていたのは、
三年生の女子。
落ち着いた表情。
柔らかいのに、芯がある。
「先輩?」
沙希が小声で言う。
「うん」
詠が答える。
「かもめ高校のリーダー。
雪平杏」
雪平は、軽く会釈した。
「どうも。
トレトレ高校のみなさん」
その視線が、すきに一瞬だけ留まる。
なぜか、胸がざわついた。
「三回戦、よろしくね」
それだけ言って、雪平は去っていく。
詠は、最後に一度だけ振り返った。
「――楽しもうとは、言わない」
口角が、少しだけ上がる。
「本気でやろ♡」
去っていく背中。
残された空気が、重く沈む。
「……来たね」
沙希が言う。
「うん」
凛は、静かに答えた。
すきは、雪平の背中を見つめたまま、
小さく息を吐いた。
――あの人強い。
そんな感情が浮かんだことに、
自分で少しだけ、戸惑いながら。
三回戦。
過去と現在が、同じ台に並ぶ。




