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くれげの世界  作者: ぐろ
57/65

第56話 モブ

 人生モブ吉は、昔から端っこにいた。


 整列するときは、後ろ。

 集合写真では、端。


 前に出る理由が、なかった。


 運動会。

 綱引き、玉入れ。


「まあ、無難でいいだろ」


 先生はそう言ったし、

 モブ吉自身も、特に不満はなかった。


 主役は、向いていない。


 そう思っていた。



 テストの順位表。


 名前は、真ん中あたり。


 悪くもない。

 良くもない。


「……まあ、こんなもんだよな」


 それで十分だった。


 誰かに負けても、

 誰かに勝っても、


 自分の価値が変わる気は、しなかった。



 修学旅行。


 班決め。


「モブ吉、どこ入る?」


「どこでもいいよ」


 本当に、どこでもよかった。


 どの班でも、

 同じように笑って、

 同じように写真を撮って、


 同じように終わる。


 それが、普通。



 家では、兄だった。


 年の離れた妹が、一人。


「お兄ちゃん」


 その呼び方だけで、十分だった。


 特別じゃなくていい。

 目立たなくていい。


 家に帰れば、

 ちゃんと居場所はあった。



 ある日。


 妹と、たまたま寄ったゲームセンター。


「ねえ、これ」


 指をさしたのは、

 ショーケースの中のフィギュアだった。


「欲しい」


「……取れないよ」

 モブ吉は、苦笑する。

「こういうの」


 妹は、唇を噛んだ。


「……一回だけ」


 目が、潤む。


「……百円だけな」


 そう言って、コインを入れた。


 本当に、取れるとは思っていなかった。



 箱は、斜めに引っかかっていた。


 前の人が、途中でやめた配置。


「……変な置き方」


 モブ吉は、画面を見る。


 そのとき。


 後ろから声がした。


「――そのまま、押してみなさい」


「……え?」


 名前も知らない店員さん。


 でも。


(……まあ、いいか)


 言われた通りに、動かした。


 アームが降りる。

 箱に触れる。


 ――落ちた。


「……え?」


 妹が、固まる。


 次の瞬間。


「お兄ちゃん!!」


 飛びついてきた。


「すごい!」

「ヒーローみたい!」


 胸の奥が、少しだけ熱くなった。


 それは、

 初めて“主役になった瞬間”だった。



 それ以来。


 モブ吉は、クレーンゲームをやるようになった。


 理由は、単純だ。


 勝ちたいわけじゃない。

 目立ちたいわけでもない。


 ただ。


(……あの感じ)


 もう一度、味わいたかった。



 練習しても、派手にはならなかった。


 動画も、研究しなかった。


 ただ、台に立って、

 置いてあるものを見る。


「……ここか」


 取れたら、嬉しい。

 取れなくても、納得できる。


 それで、よかった。



 高校。


 部活勧誘。


 どこも、眩しかった。


「全国目指そう!」

「主役になろう!」


 どれも、違った。


 そんなとき。


 見つけたのが、

 クレーンゲーム部だった。


 誰も、叫んでいない。

 誰も、煽っていない。


 ただ、台の前に立っている。


(……ここなら)


 そう思った。



 大会。


 控席。


 モブ吉は、ネクタイを直す。


「……普通でいい」


 それが、口癖だった。


 でも。


 モニターに映るスコア。


 2対2


 大将戦。


 相手の名前。


 ――銀泉舞子。


(……華があるな)


 見ただけで、分かった。


 自分とは、違う。


 けれど。


(……それでも)


 立ちたいと思った。


 主役じゃなくてもいい。


 勝たなくても、いい。


 それでも。


 ここに立つ理由は、ある。


 係員が、声をかける。


「大将戦、準備をお願いします」


 モブ吉は、軽く頷いた。


「はい」


 短い返事。


 けれど。


 その背中は、

 誰よりも真っ直ぐだった

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