表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
くれげの世界  作者: ぐろ
56/65

第55話 失くした目標

翌日、大会2日目


二回戦トレ高VS脇高は


既に4試合が終わっていた。


 会場のモニターに、現在のスコアが表示されている。


 トレトレ高校 2

 脇役高校   2


「……並びましたね」

 針千が、静かに言う。


 先鋒、次鋒、副将――

 どの試合も、大きなドラマはなかった。


 派手な逆転も。

 一方的な圧勝も。


 ただ、淡々と勝ち、淡々と負けた。


「静かな試合ばっかだったね」

 沙希が、腕を組む。


「うん」

 凛が頷く。

「どっちも、崩れなかった」


 だからこそ。


 この形に、落ち着いた。


『――大将戦を行います』


 アナウンスが、会場に響く。


『トレトレ高校、大将――

 銀泉 舞子』


 舞子が、静かに立ち上がる。


 派手な動きはない。

 けれど、背筋は真っ直ぐだった。


『脇役高校、大将――

 人生 モブ吉』


 反対側から、一人の男子が前に出る。


 特別なオーラはない。

 緊張も、気負いも、見えない。


「……本当に」

 豚田が、小さく呟く。

「普通の人ですね、ブヒ」


「それが」

 晴谷が答える。

「一番、強い」


 舞子は、二人分の距離を見つめながら、

 ふっと息を吐いた。


(……まさか)


(こんな形で)


(わたくしが、大将になるなんて)



 ――中学時代。


 氷の上は、いつも冷たかった。


 リンクに立つたび、

 舞子は同じ背中を見ていた。


 雨瑠凛。


 正確で、無駄がなく、

 感情の揺れない滑り。


(……きれい)


 憧れた。

 本気で。


 同時に――

 勝ちたいと思った。


 どれだけ練習しても、結果は変わらない。


一位雨瑠凛

 二位銀泉舞子

 三位


 凛の名前の下に、いつも自分がいる。


 それが、当たり前だった。



 ある大会前。


 舞子は、はっきりと感じていた。


(……今回は)


(届くかもしれませんわ)


 体のキレ。

 ジャンプの高さ。

 回転。


 すべてが、噛み合っていた。


 初めて、

 「勝つ」という言葉を、現実として思い描けた。


 だが。


 大会当日。


 凛の姿は、なかった。


 怪我。

 引退。


 理由は聞いた。

 理解もした。


 それでも。


(……わたくしは)


(どこへ、行けばよろしいの?)


 越えたかった壁は、

 壊れたのではなく――

 消えた。



 高校。


 入学式のあと。


 見覚えのある立ち姿


「……?」


 振り向いた、その人は、

 確かに雨瑠凛だった。


 かつて憧れ超えたいと願った壁


 追いかけ覗いた部室で見た

 


(……クレーンゲーム?)


 怪我で引退した凛は、まだ何かを掴もうとしていた。


 舞子の胸が、わずかに鳴った。


(……まだ)


(勝てる場所が、あるかもしれない)





 部室。


 舞子は、紅茶を飲みながら、

 皆のプレイを眺めていた。


針千が「ここいつから喫茶店になったの!?」

とかなんとか言っていたが舞子には聞こえない


 沙希の安定。

 凛の理論。

 すきの直感。


 ――真似をする。


 けれど、届かない。


 同じ動きをしても、

 同じ結果にはならない。


(……才能、ですのね)


 一度、そう思った。


 それでも。


 諦める理由には、ならなかった。



「晴谷先生」


 合宿初日、舞子は自分から声をかけた。


「合宿のメニューを」

 少しだけ、間を置く。

「さらに倍にしてくださいませ」


 驚いた顔。

 止める言葉。


 それらを、すべて断った。


 ネイルの下に、血豆ができた。

 潰れた。



「構いませんわ」

 舞子は、自分に言い聞かせるように言った

「むしろ」


 指先を見る。


「……努力できる場所を、

 やっと見つけられましたの」



 そして。


 何度目かの夜。


 箱の角に、指が触れた。


 押す。

 回る。


 ――落ちる。


(……あ)


 偶然じゃない。

 再現でもない。


 積み重ねた時間が、形になった。


 刺し回し。


 舞子は、初めて笑った。


(……これが)


(わたくしの、技)



 現在。


 舞子は、筐体の前に立つ。


 向かいには、人生モブ吉。


 彼は、軽く会釈した。


「よろしくお願いします」


 舞子も、応える。


「……ええ」

 小さく。

「全力で」


 勝ちたい。


 理由は、もうはっきりしている。


 誰かを越えるためじゃない。


 努力してきた自分を、

 置き去りにしないために。


 大将戦。


 静かな決着が、

 今から始まる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ