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くれげの世界  作者: ぐろ
第二章 高校編
52/84

第51話 お前が決めろ


 控室の空気は、静かだった。


 外のホールから、観客のざわめきがかすかに届く。

 名前を呼ばれれば、すぐに始まる。


 晴谷は、腕を組んだまま言った。


「――オーダーを言う」


 一同が、顔を上げる。


「先鋒、銀泉舞子」

「次鋒、雨瑠凛」

「中堅、豚田武」

「副将、天秤沙希」

「大将、昏華すき」


 一瞬の沈黙。


「……え?」

 針千が、素直に声を上げた。

「豚田、中堅ですか?」


「そうだ」

 晴谷は、即答した。


 豚田が、びくっと肩を揺らす。


「ブ、ブヒ!?」

「ぼ、僕が……中堅?」


「問題あるか?」

 晴谷は、視線を向ける。


「い、いえ……」

 豚田は、慌てて首を振った。

「ブヒ……」


 針千は、まだ納得していない。


「普通、因縁あるなら先に出すか、最後に回すでしょ」

「財前ロリ子、完全に豚田狙ってきてますよ」


 晴谷は、少しだけ笑った。


「だからだ」


 全員が、息をのむ。


「銀泉と雨瑠で、空気を壊す」

「成美高校が“想定してきた勝ち筋”を、先に全部潰す」


「……その上で」

 一拍。

「豚田を出す」


 沙希が、ゆっくり口を開く。


「中堅で決めるってこと?」


「そうだ」

 晴谷は頷いた。

「誰のために取るか」

「何のために勝つか」


「それを」

「一番はっきりさせられるのが、中堅だ」


 豚田は、膝の上で拳を握った。


「……ブヒ」

 小さく、息を吐く。


 すきは、何も言わず、豚田の背中を見ていた。



『――第一試合、先鋒戦を開始します』


 舞子が、静かに立ち上がった。


「行ってきますわ」


 その背中は、迷いがなかった。



 舞子の対戦相手は、成美高校の一年生。


 財前ロリ子の後ろで、

 やたらと張り切っている男子だった。


「俺が取って、ロリ子を――」


 言い終わる前に。


 舞子の一手目が、入る。


 ――刺し回し。


 角を押し、反対側を回転させる。




 会場が、ざわつく。


「え?」

「今の、何?」


 二手目。


 同じ動き。


刺し回し


 完璧な角度。


ゴトンッ


「……勝者トレトレ高校、銀泉!」


 アナウンスが、淡々と告げる。


 舞子は、振り返らない。

 ただ、席に戻る。


「……以上ですわ」


「圧勝だな」

 針千が、呆然と呟く。


 財前ロリ子は、まだ余裕の笑みを浮かべていた。


「次は、いけるでしょ?」


 だが、その声は少しだけ硬い。



『――次鋒戦を開始します』


 凛が、立ち上がる。


「行く」


 対戦相手は、成美高校の二年生。

 立ち方が揃っている。


「再現型だ」

 凛は、ひと目で見抜いた。


 一手目。


 重心を見ながら箱を橋に、はめる。


 二手目。


 凛は、わずかにズラす。


 重心の揺れ。



 三手目。


 斜めになった箱の上角を触る。


ゴトンッ


 凛は、淡々と決める。


「勝者トレトレ高校、雨瑠!」


 観客席が、ざわめいた。


「もう、2–0?」

「成美、何もできてないぞ」


 財前ロリ子の表情が、初めて歪む。


「……ちょっと」

 男子たちを睨む。

「次、絶対勝ちなさいよ」


 その視線の先。


 ――中堅。


 豚田武。



『――中堅戦、準備してください』


 名前を呼ばれた瞬間。


 豚田は、ゆっくり立ち上がった。


「……ブヒ」


 短く、息を吐く。


 足は、震えていない。


 観客席から、ひそひそ声。


「次、あの子?」

「地味じゃない?」


 成美高校の中堅が、にやっと笑う。


「よろしく」

「ロリ子のために、勝つからさ」


 財前ロリ子は、ハンカチを指に巻きながら言った。


「ちゃんと、取ってよ」

「私、負けるの嫌いなの」


 豚田は、一度だけ、彼女を見た。


 それから。


 視線を、筐体に落とす。


(……大丈夫)


 合宿所。

 基礎練。

 トン、トン。


 体が、覚えている。


「……行ってきます、ブヒ」


 晴谷は、何も言わなかった。


 ただ。


 この試合を、

 ここで決めるつもりの目をしていた。


 開始の合図が、鳴る。

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