第5話 それぞれの役割
三人で、同じ筐体を囲んでいた。
フィギュアは、まだそこにある。
誰も、すぐにはボタンを押さなかった。
「で」
沙希が、先に口を開く。
「今日はどうする?」
凛が、筐体を見る。
「理論上は、取れる」
「うん」
沙希は頷く。
「初手は、当たる」
理由は言わない。
でも、迷いはない。
すきは、フィギュアを見つめていた。
――声は、まだ小さい。
(……でも)
昨日とは違う。
「すき」
凛が、すきを呼ぶ。
「あなたは?」
「……分かりません」
正直に答える。
「でも」
少しだけ、言葉を選んで。
「今日は……
取りたい気がします」
沙希が、目を瞬かせた。
「お」
楽しそうに笑う。
「それ、いいね」
凛も、すきを見る。
「理由は?」
「……説明は、できません」
「それでいい」
即答だった。
凛は、操作パネルを見る。
「私が理論を出す」
次に、沙希を見る。
「あなたが初手」
最後に、すき。
「あなたは、
声がどう言ってるかを見る」
三人の役割が、
自然に決まった。
「失敗したら?」
すきが聞く。
「そのときは、そのとき」
沙希が肩をすくめる。
「でもさ」
ケースを見る。
「今日は、
ちゃんと取りにいく日でしょ」
すきは、頷いた。
沙希が、初手のボタンを押す。
アームが降りる。
――触れる。
フィギュアが、安定する。
「当たった」
凛が、短く言う。
「でしょ」
沙希は、得意げでもなく答える。
その瞬間。
『……いまじゃない』
声。
はっきり。
「……まだ、です」
すきが言う。
二人は、止めた。
誰も疑わない。
「理論的にも、
もう一手待てる」
凛が言う。
次のプレイ。
アームが降りる。
『……いま』
すきの背中が、ぞくっとした。
「……いまです」
凛が、即座に判断する。
「条件、揃った」
ボタン。
アームが掴む。
持ち上がる。
一瞬、止まって――
落ちる。
獲得口。
「……取れた」
凛が、静かに言った。
「ほら」
沙希が、笑う。
「三人いると、
変な安心感あるね」
すきは、フィギュアを見つめた。
声は、もう聞こえない。
でも、胸の奥は温かい。
「……取りたい、って」
すきが言う。
「一人だと、怖かったです」
「分かる」
沙希が言う。
「だから、三人なんだよ」
凛は、小さく頷いた。
「役割が違えば、
同じ結果に辿り着ける」
制服姿の店員――ミスター初期位置が、
遠くから三人を見ていた。
その目は、
確かに“合格”を示していた。
三人は、まだ知らない。
この「取りたい」が、
もっと危険で、
もっと楽しい世界に繋がっていくことを。
キャラ紹介
昏華 すき(くれげ・すき)
•髪:黒〜濃い茶のロング。手入れしてないのに妙に綺麗
•目:少し伏し目がち。フィギュアを見る時だけ異様に真剣
•服装:地味め(パーカー・スカート・スニーカー)。動きやすさ重視
•口癖:「……たぶん」「この子、嫌がってる」
•特徴:
•フィギュアの“声”が聞こえる
•本人は才能だと思っていない
・未来予想?




