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くれげの世界  作者: ぐろ
43/62

第42話 期待

朝の教室は、いつもより少しだけざわついていた。


「ねえ、これ見た?」

「トレ高じゃない?」

「クレーンゲーム部って……あれ?」


 すきは、机に座ったまま動けずにいた。


 スマートフォンの画面。

 開かれた記事。


――

月刊クレーンゲーム

高校クレーンゲーム大会 注目校インタビュー

“遊びでは終わらない五人”

――


 自分の名前が、そこにあった。


「……載ってる」


 声に出した瞬間、胸の奥がきゅっと縮む。



 昼休み。


 部室に集まった6人は、

 それぞれ違う距離感で記事を見ていた。


「やば」

 沙希が笑う。

「思ったよりちゃんとしてる」


「ちゃんとしすぎです」

 凛は画面を見つめたまま言う。



 舞子は、黙って記事を読んでいた。


 自分のコメントの部分だけを、

 何度も。


「……“終わっていない勝負”」


 小さく呟く。


「書かれましたわね」


「言ったからね」

 沙希が言う。


「……ええ」


 舞子はスマートフォンを閉じた。


「もう、引けませんわ」



「……あの」


 豚田が、遠慮がちに手を挙げる。


「俺のところ……」


 皆が見る。


「“逃げなかった五人目”って……」

「……ブヒ」


 顔が赤い。


「いや、良くない?」

 針千が言う。

「キャラ立ってる」


「立ち方が、恥ずかしいです……」


 晴谷が腕を組んだ。


「でも」

 軽い口調。

「嘘は書かれてない」


 その一言で、空気が変わる。



 その日の放課後。


 部室の扉が、珍しくノックされた。


「失礼します」


 知らない声。


 扉の向こうに立っていたのは、

 見慣れない制服の女子生徒だった。


「トレ高の……クレーンゲーム部、ですよね」


「そうだけど?」

 沙希が答える。


「記事、読みました」

 女子生徒は続ける。

「少し……見学、できますか?」


 針千が、思わず息を呑む。


「……来た」


「え?」

「いや、なんでもない」



 その後も。


 ・他校の生徒

 ・ゲーセンの常連

 ・知らない番号からの着信


 少しずつ、外側が動き始める。


「……見られてる」


 すきは、筐体の前で呟いた。


 前より、重く感じる。


 凛が言う。


「注目は、揺さぶりです」

「でも」


「それでも、結果は変わりません」


 沙希が笑う。


「逆でしょ」

「え?」


「見られてるなら」

 一歩前に出る。

「ちゃんと、見せよ」



 すきは、アームに手を伸ばす。


 いつもより、少しだけ指が震える。


(……見られてる)


 それでも。


 アームが降りる。


 一手。

 二手。


 景品が、落ちた。


 部室に、小さな歓声が上がる。


「……取れた」

 豚田が呟く。


 すきは、息を吐いた。


「大丈夫」


 誰に言ったのか、自分でも分からない。



 その日の夜。


 スマートフォンに、一通の通知が届く。


《高校クレーンゲーム大会

 対戦校一覧・近日公開》


 晴谷は、それを見て静かに言った。


「次は、見られるだけじゃ済まない」


 部室の空気が、ぴんと張る。


 名前が出た。

 知られた。

 期待された。


 もう――

 逃げる理由は、どこにもなかった。

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