第42話 期待
朝の教室は、いつもより少しだけざわついていた。
「ねえ、これ見た?」
「トレ高じゃない?」
「クレーンゲーム部って……あれ?」
すきは、机に座ったまま動けずにいた。
スマートフォンの画面。
開かれた記事。
――
月刊クレーンゲーム
高校クレーンゲーム大会 注目校インタビュー
“遊びでは終わらない五人”
――
自分の名前が、そこにあった。
「……載ってる」
声に出した瞬間、胸の奥がきゅっと縮む。
⸻
昼休み。
部室に集まった6人は、
それぞれ違う距離感で記事を見ていた。
「やば」
沙希が笑う。
「思ったよりちゃんとしてる」
「ちゃんとしすぎです」
凛は画面を見つめたまま言う。
舞子は、黙って記事を読んでいた。
自分のコメントの部分だけを、
何度も。
「……“終わっていない勝負”」
小さく呟く。
「書かれましたわね」
「言ったからね」
沙希が言う。
「……ええ」
舞子はスマートフォンを閉じた。
「もう、引けませんわ」
⸻
「……あの」
豚田が、遠慮がちに手を挙げる。
「俺のところ……」
皆が見る。
「“逃げなかった五人目”って……」
「……ブヒ」
顔が赤い。
「いや、良くない?」
針千が言う。
「キャラ立ってる」
「立ち方が、恥ずかしいです……」
晴谷が腕を組んだ。
「でも」
軽い口調。
「嘘は書かれてない」
その一言で、空気が変わる。
⸻
その日の放課後。
部室の扉が、珍しくノックされた。
「失礼します」
知らない声。
扉の向こうに立っていたのは、
見慣れない制服の女子生徒だった。
「トレ高の……クレーンゲーム部、ですよね」
「そうだけど?」
沙希が答える。
「記事、読みました」
女子生徒は続ける。
「少し……見学、できますか?」
針千が、思わず息を呑む。
「……来た」
「え?」
「いや、なんでもない」
⸻
その後も。
・他校の生徒
・ゲーセンの常連
・知らない番号からの着信
少しずつ、外側が動き始める。
「……見られてる」
すきは、筐体の前で呟いた。
前より、重く感じる。
凛が言う。
「注目は、揺さぶりです」
「でも」
「それでも、結果は変わりません」
沙希が笑う。
「逆でしょ」
「え?」
「見られてるなら」
一歩前に出る。
「ちゃんと、見せよ」
⸻
すきは、アームに手を伸ばす。
いつもより、少しだけ指が震える。
(……見られてる)
それでも。
アームが降りる。
一手。
二手。
景品が、落ちた。
部室に、小さな歓声が上がる。
「……取れた」
豚田が呟く。
すきは、息を吐いた。
「大丈夫」
誰に言ったのか、自分でも分からない。
⸻
その日の夜。
スマートフォンに、一通の通知が届く。
《高校クレーンゲーム大会
対戦校一覧・近日公開》
晴谷は、それを見て静かに言った。
「次は、見られるだけじゃ済まない」
部室の空気が、ぴんと張る。
名前が出た。
知られた。
期待された。
もう――
逃げる理由は、どこにもなかった。




