第41話 初取材
部室に、いつもと違う緊張があった。
筐体の前に立っているのに、
誰も操作しない。
視線が、部室の入り口に集まっていた。
「こんにちは」
柔らかい声だった。
ノートと小型カメラを抱えた女性が、
軽く会釈する。
「月刊クレーンゲームの、聞見描です」
「……若い女性だ」
針千が、思わず声に出した。
「男の子ですね〜?笑」
聞見は笑った。
「こう見えて、取材歴は長いんですよ」
沙希がすぐに食いつく。
「月クレ!?」
「本物?」
「本物です、こちら取材許可証!」
ビシッと見せる聞見
晴谷が、一歩前に出た。
「久しぶりだね、聞見」
聞見は一瞬だけ目を丸くしてから、にやっと笑った。
「……ああ」
「やっぱり、あなたが顧問なんだ」
「偶然だよ」
「どうでしょうね。」
二人の会話は短かった。
でも、それだけで“ただの取材じゃない”と分かる。
⸻
「じゃあ、始めますね」
聞見はノートを開く。
視線が、部員一人ひとりを映す。
「まずは——」
「どうして、クレーンゲームなのか」
⸻
「はい!」
沙希が、即座に手を挙げた。
「楽しいから!」
「ふむ」
聞見がペンを走らせる。
「もう少し、詳しく」
「一手で空気が変わるところ」
沙希は言う。
「成功も失敗も、全部その場で見える」
少し笑う。
「誤魔化せないから、好き」
「なるほど」
聞見は頷く。
「かなりの感覚派ですね」
「それ、褒めてます?」
⸻
「雨瑠さん」
凛は、一瞬だけ間を置いた。
「再現性があるからです」
「……それから?」
「はい」
「運に頼らず、勝敗を決められる」
「勝つため?」
「成長する為です」
聞見のペンが、わずかに止まった。
「珍しい答え」
「でも、長く続く人の言葉ですね」
凛は何も返さなかった。
⸻
「昏華さんは?」
すきは、少し困ったように首を傾げた。
「……よく、分からないです」
「分からない?」
「触ると」
言葉を探す。
「分かる気がするだけで」
「説明は?」
「できません」
聞見は、静かに笑った。
「危ないですね」
「一番、伸びる人の答えです」
すきは、驚いたように聞見を見た。
⸻
「銀泉さん」
舞子は背筋を伸ばす。
「勝ちたい相手が、いらっしゃいます」
「クレーンゲームで?」
「関係ありませんわ」
視線が、凛に向く。
「終わっていない勝負を」
「終わらせたいだけです」
部室が、静まる。
「……素直ですね」
聞見は言った。
「負けを抱えたまま立つ人は、強い」
舞子は何も答えなかったが、拳は強く握られていた。
⸻
「最後に」
聞見は、豚田を見る。
「豚田くん」
「は、はい……ブヒ」
「どうして、ここに?」
少し、沈黙。
「……逃げなかったからです」
「それだけ?」
「それだけです」
針千が息を呑む。
「でも」
豚田は続けた。
「ここなら、逃げなくていい気がして」
聞見は、深く頷いた。
「いいですね」
「今は、それで十分です」
⸻
取材が終わり、聞見はノートを閉じた。
「面白いチームです」
「強いだけじゃない」
晴谷を見る。
「……昔を思い出します」
「やめてくれ」
晴谷は苦笑した。
「今は教師だ」
「分かってます」
聞見は笑う。
「でも、記事に“匂い”くらいは残す」
「好きにしろ」
⸻
聞見が去ったあと。
部室に、静けさが戻る。
「……なんか」
針千が言った。
「言葉にしたら、戻れなくなった気がする」
「そう?」
沙希は笑う。
「私は楽になったけど」
すきは、月刊クレーンゲームのロゴを見つめる。
誰かに見られる。
書かれる。
知られる。
それはもう——
遊びじゃないという証だった。
晴谷は、窓の外を見て呟く。
「始まったな」
その意味を、
まだ誰も正確には分かっていなかった。




