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くれげの世界  作者: ぐろ
42/62

第41話 初取材

部室に、いつもと違う緊張があった。


 筐体の前に立っているのに、

 誰も操作しない。


 視線が、部室の入り口に集まっていた。


「こんにちは」


 柔らかい声だった。


 ノートと小型カメラを抱えた女性が、

 軽く会釈する。


「月刊クレーンゲームの、聞見描(ききみえがく)です」


「……若い女性だ」

 針千が、思わず声に出した。


「男の子ですね〜?笑」

 聞見は笑った。

「こう見えて、取材歴は長いんですよ」


 沙希がすぐに食いつく。


「月クレ!?」

「本物?」

「本物です、こちら取材許可証!」


ビシッと見せる聞見


 晴谷が、一歩前に出た。


「久しぶりだね、聞見」


 聞見は一瞬だけ目を丸くしてから、にやっと笑った。


「……ああ」

「やっぱり、あなたが顧問なんだ」


「偶然だよ」

「どうでしょうね。」


 二人の会話は短かった。

 でも、それだけで“ただの取材じゃない”と分かる。



「じゃあ、始めますね」


 聞見はノートを開く。



 視線が、部員一人ひとりを映す。


「まずは——」

「どうして、クレーンゲームなのか」



「はい!」


 沙希が、即座に手を挙げた。


「楽しいから!」


「ふむ」

 聞見がペンを走らせる。


「もう少し、詳しく」


「一手で空気が変わるところ」

 沙希は言う。

「成功も失敗も、全部その場で見える」


 少し笑う。


「誤魔化せないから、好き」


「なるほど」

 聞見は頷く。

「かなりの感覚派ですね」


「それ、褒めてます?」



「雨瑠さん」


 凛は、一瞬だけ間を置いた。


「再現性があるからです」


「……それから?」


「はい」

「運に頼らず、勝敗を決められる」


「勝つため?」


「成長する為です」


 聞見のペンが、わずかに止まった。


「珍しい答え」

「でも、長く続く人の言葉ですね」


 凛は何も返さなかった。



「昏華さんは?」


 すきは、少し困ったように首を傾げた。


「……よく、分からないです」


「分からない?」


「触ると」

 言葉を探す。

「分かる気がするだけで」


「説明は?」


「できません」


 聞見は、静かに笑った。


「危ないですね」

「一番、伸びる人の答えです」


 すきは、驚いたように聞見を見た。



「銀泉さん」


 舞子は背筋を伸ばす。


「勝ちたい相手が、いらっしゃいます」


「クレーンゲームで?」


「関係ありませんわ」


 視線が、凛に向く。


「終わっていない勝負を」

「終わらせたいだけです」


 部室が、静まる。


「……素直ですね」

 聞見は言った。

「負けを抱えたまま立つ人は、強い」


 舞子は何も答えなかったが、拳は強く握られていた。



「最後に」


 聞見は、豚田を見る。


「豚田くん」


「は、はい……ブヒ」


「どうして、ここに?」


 少し、沈黙。


「……逃げなかったからです」


「それだけ?」


「それだけです」


 針千が息を呑む。


「でも」

 豚田は続けた。

「ここなら、逃げなくていい気がして」


 聞見は、深く頷いた。


「いいですね」

「今は、それで十分です」



 取材が終わり、聞見はノートを閉じた。


「面白いチームです」

「強いだけじゃない」


 晴谷を見る。


「……昔を思い出します」


「やめてくれ」

 晴谷は苦笑した。

「今は教師だ」


「分かってます」

 聞見は笑う。

「でも、記事に“匂い”くらいは残す」


「好きにしろ」



 聞見が去ったあと。


 部室に、静けさが戻る。


「……なんか」

 針千が言った。

「言葉にしたら、戻れなくなった気がする」


「そう?」

 沙希は笑う。

「私は楽になったけど」


 すきは、月刊クレーンゲームのロゴを見つめる。


 誰かに見られる。

 書かれる。

 知られる。


 それはもう——

 遊びじゃないという証だった。


 晴谷は、窓の外を見て呟く。


「始まったな」


 その意味を、

 まだ誰も正確には分かっていなかった。

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