第39話 大会出よう
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部室のテレビは、珍しくちゃんと電源が入っていた。
「始まるよー」
沙希がリモコンを押す。
画面に映ったのは、
スーツ姿の男性と、隣に立つ女性記者だった。
『月刊クレーンゲームです。本日は、協会長への単独インタビューをお届けします』
「月クレだ」
針千が反射的に言う。
「これ、ガチのやつだ……」
凛も、腕を組んで画面を見る。
『今年度から始まる高校生クレーンゲーム大会ですが』
協会長の声は落ち着いていた。
『参加校は全国三十二校。
各校一チーム、トーナメント形式で行われます』
部室の空気が、少しだけ張り詰める。
『試合は五人制』
「……五人?」
すきが、小さく呟いた。
画面に図が表示される。
『先鋒、次鋒、中堅、副将、大将。
それぞれ一対一で対決します』
『勝敗は、景品を獲得するまでの“手数”で決定』
数字が切り替わる。
『例えば——
Aチーム先鋒、五手。
Bチーム先鋒、七手』
『この場合、Aチームの勝利です』
「分かりやすいけど……」
針千が言葉を濁す。
「一手の重さ、
エグくないですか?」
「ミスは許されませんね」
凛が淡々と言う。
沙希は笑っていたが、
目は真剣だった。
『各校、最低五名のプレイヤーが必須となります』
その一言で、
部室の時間が止まった。
凛が、人数を数える。
「……四人」
沈黙。
「一人、足りないですね」
針千が言う。
「しかも、プレイヤー」
「マネージャーじゃダメかー」
「ダメです」
凛は即答した。
「即答しないでください!」
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しばらく、誰も口を開かなかった。
その沈黙を、沙希が破る。
「あー、いるじゃん」
「……誰?」
全員が沙希を見る。
「同じクラスにさ」
沙希は軽い調子で言う。
「ちょっと浮いてて、
あんま喋らなくて、
でも放っとけないやつ」
「それ、
褒めてます?」
針千が即ツッコむ。
「褒めてる褒めてる」
沙希は立ち上がった。
「面白そうだから、連れてくるね」
「“面白そう”でメンバー決めないで!?」
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数分後。
部室の扉が、控えめにノックされた。
「ぶひ……」
小さな声。
沙希が扉を開ける。
そこに立っていたのは、
少し丸い体型の男子生徒だった。
「豚田、武です……ブヒ」
最後の一音が、妙に小さい。
「え、今なんて?」
「い、いえ……ブヒ」
「口癖?」
針千が首を傾げる。
「……すみません」
豚田は視線を落とした。
「天秤さんに、
いきなり引っ張ってこられて……ぶひ」
「ね、面白そうでしょ?」
「理由それだけ!?」
部室を見回し、
豚田は一瞬、固まった。
筐体。
ホワイトボード。
舞子のティータイムセット。
異様に真剣な空気。
「……ここ、
本当にクレーンゲーム部ですか」
「うん」
すきが頷く。
「大会、出る」
「……たい、かい?」
豚田の顔が、わずかに引きつる。
凛が説明する。
「高校の部同士でのトーナメントです。
五人制。
手数で勝敗が決まります」
「スポーツみたいですね……ブヒ」
豚田は、乾いた笑いを浮かべた。
「俺、
クレーンゲーム、
ほとんどやったことないですブヒ」
「大丈夫」
沙希が即答する。
「今いる人、
全員どっかおかしいから」
「フォローになってない!」
針千が叫ぶ。
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「……ブヒ」
豚田は、無意識に声を漏らした。
「俺、
人前に出るの、
あんまり得意じゃなくてブヒ」
それ以上、言葉が続かない。
舞子が、静かに口を開いた。
「わたくしも、
初心者ですわ」
豚田が、驚いて舞子を見る。
「え……?」
「ですが」
舞子は、真っ直ぐに言う。
「勝ちたい理由は、
ございますの」
豚田は、少し困ったように笑った。
「……俺は、
まだ、ないですブヒ」
その言葉は、
どこか必死に押し込めたようだった。
晴谷が、腕を組んで言う。
「才能があるかなんて関係ないさ!」
いつもの、軽い声。
「大会に出るって決めたなら、
必要なのは五人」
少しだけ、真面目になる。
「立つか、
逃げるか」
豚田は、しばらく黙っていた。
教室の黒板が、
一瞬だけ脳裏をよぎる。
笑い声。
視線。
張り付いた紙。
「……ブヒ」
小さく息を吸う。
「足、
引っ張ったら……
すみませんブヒ」
「前提が重い!」
針千が即座に言った。
「まだ何も始まってないから!」
すきが、一歩近づく。
「一緒に、
やろ」
豚田は、その言葉を見つめてから、
小さく頷いた。
「……ブヒ。
よろしく、お願いします」
こうして。
クレーンゲーム部は、
大会に必要な“五人目”を迎えた。
強者でもない。
才能もない。
ただ——
声を出すのが、少し怖いだけのプレイヤーだった。
キャラ紹介
豚田 武
•髪:短め、寝ぐせがつきやすい
•表情:自信なさげ
•服装:オタク系ファッション(Tシャツ・パーカー率高め)
•体格:ややぽっちゃり
•趣味:美少女アニメ・アイドル推し
•口癖:「〜ブヒ」
•クレーンゲーム経験はほぼゼロからスタート




