表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
くれげの世界  作者: ぐろ
第二章 高校編
39/74

第38話 みんなの実力



 正式に部活になった翌日。


 クレーンゲーム部の部室は、昨日と何一つ変わっていなかった。

 変わったのは——そこに「練習」という言葉が置かれたことだけだ。


 ホワイトボードの前に、凛が立っている。


「今日の目的は確認です」


 淡々とした声。


「個々の取得率と、

 再現性の有無を測ります」


「……最初から数字なんだ」


 針千突が小さく呟いた。


「普通さ、

 “今日は慣れよう”とかじゃない?」


「大会に慣れはありません」


「言い切った!」



 最初に筐体の前に立ったのは、沙希だった。


「じゃ、いくねー」


 軽い。

 けれど、迷いがない。


 一手目。


 ――カタン。


 二手目。


 ――落下。


「取得」


「……え?」


 針千が固まる。


「ちょっと待って。

 今、説明とかあった?」


「バランス取っただけだよ?」


「それが分からない!」


 凛が冷静に補足する。


「初手バランスキャッチ成功率、100%です」


「え?

 それチート枠?」


「技術です」


「便利な言葉だな!」



 次は凛。


 彼女は筐体を前に、数秒間、動かない。


「……重心、左寄り」


 操作。


 一手。

 二手。

 三手。


 狙い通りに景品が落ちた。


「……ごめん全然わかんない」


 針千が思わず言う。


「箱の重心が……長々……

長々……だから再現性が出せるの」


「初心者は幼稚園児だと思って設定して!」



 すきは、少し離れて筐体を見ていた。


「……この子、

 今日は機嫌悪いかも」


「機嫌?」


 操作。


 一手で傾き、

 二手目で落下。


「ちなみに今の説明は?」


 針千が真顔になる。


 すきは首を傾げた。


「……できない」


「できないのに取った!?」


「うん」


「一番怖いタイプだ!」



 その様子を、舞子は少し離れた場所から見ていた。


 紅茶はない。

 今日は、ただ立っている。


「……皆さま、

 簡単そうにお取りになりますのね」


 そう言って、舞子は筐体の前に立った。


 操作。


 アームが降りる。


 ――何も起きない。


「あれ?」


 二手目。


 景品は、びくともしなかった。


 三手目。


 空振り。


 沈黙。


「……あの」


 針千が気を遣う。


「初心者、ですよね?」


「ええ」


 舞子は、悔しそうに唇を噛んだ。


「ですが」


 視線は、筐体から離れない。


「ここが、

 “勝負の場”なのですわね」


「なんかスイッチ入ってます?」


「氷の上と、

 同じ匂いがいたします」


 誰も、すぐには理解できなかった。


 ただ、凛だけが一瞬、舞子を見る。



 晴谷が腕を組んで言った。


「いいね」


 いつもの軽い声。


「差が、ちゃんと見えた」


「差って、

 だいぶエグくないですか」


 針千が言う。


「うん」


 晴谷は笑う。


「だから練習になる」


 一瞬、声が落ちた。


「才能がある。

 理論がある。

 直感がある」


 そして、舞子を見る。


「でも——

 執着も、立派な素質だ」


 舞子は、拳を握った。


 まだ、何もできない。

 だからこそ、目を逸らさない。


 その日。


 クレーンゲーム部には、

 追いつこうとする者が一人、はっきりと生まれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ