第38話 みんなの実力
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正式に部活になった翌日。
クレーンゲーム部の部室は、昨日と何一つ変わっていなかった。
変わったのは——そこに「練習」という言葉が置かれたことだけだ。
ホワイトボードの前に、凛が立っている。
「今日の目的は確認です」
淡々とした声。
「個々の取得率と、
再現性の有無を測ります」
「……最初から数字なんだ」
針千突が小さく呟いた。
「普通さ、
“今日は慣れよう”とかじゃない?」
「大会に慣れはありません」
「言い切った!」
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最初に筐体の前に立ったのは、沙希だった。
「じゃ、いくねー」
軽い。
けれど、迷いがない。
一手目。
――カタン。
二手目。
――落下。
「取得」
「……え?」
針千が固まる。
「ちょっと待って。
今、説明とかあった?」
「バランス取っただけだよ?」
「それが分からない!」
凛が冷静に補足する。
「初手バランスキャッチ成功率、100%です」
「え?
それチート枠?」
「技術です」
「便利な言葉だな!」
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次は凛。
彼女は筐体を前に、数秒間、動かない。
「……重心、左寄り」
操作。
一手。
二手。
三手。
狙い通りに景品が落ちた。
「……ごめん全然わかんない」
針千が思わず言う。
「箱の重心が……長々……
長々……だから再現性が出せるの」
「初心者は幼稚園児だと思って設定して!」
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すきは、少し離れて筐体を見ていた。
「……この子、
今日は機嫌悪いかも」
「機嫌?」
操作。
一手で傾き、
二手目で落下。
「ちなみに今の説明は?」
針千が真顔になる。
すきは首を傾げた。
「……できない」
「できないのに取った!?」
「うん」
「一番怖いタイプだ!」
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その様子を、舞子は少し離れた場所から見ていた。
紅茶はない。
今日は、ただ立っている。
「……皆さま、
簡単そうにお取りになりますのね」
そう言って、舞子は筐体の前に立った。
操作。
アームが降りる。
――何も起きない。
「あれ?」
二手目。
景品は、びくともしなかった。
三手目。
空振り。
沈黙。
「……あの」
針千が気を遣う。
「初心者、ですよね?」
「ええ」
舞子は、悔しそうに唇を噛んだ。
「ですが」
視線は、筐体から離れない。
「ここが、
“勝負の場”なのですわね」
「なんかスイッチ入ってます?」
「氷の上と、
同じ匂いがいたします」
誰も、すぐには理解できなかった。
ただ、凛だけが一瞬、舞子を見る。
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晴谷が腕を組んで言った。
「いいね」
いつもの軽い声。
「差が、ちゃんと見えた」
「差って、
だいぶエグくないですか」
針千が言う。
「うん」
晴谷は笑う。
「だから練習になる」
一瞬、声が落ちた。
「才能がある。
理論がある。
直感がある」
そして、舞子を見る。
「でも——
執着も、立派な素質だ」
舞子は、拳を握った。
まだ、何もできない。
だからこそ、目を逸らさない。
その日。
クレーンゲーム部には、
追いつこうとする者が一人、はっきりと生まれた。




