第37話 トレ高クレーンゲーム部
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旧校舎の仮部室は、今日も勝手に使われていた。
「今の角度、ちょっと甘い」
「いやいや、初手はバランスでしょ?」
「……この台、昨日より左が重い」
筐体の前で、凛と沙希、すきが言葉を交わす。
その少し離れた場所で、舞子は紅茶を口にしていた。
小さなテーブル。
白磁のカップ。
落ち着いた所作。
部室というより、場違いなサロン。
その横に、黒いスーツの男が無言で立っている。
秘書だった。
――この空間、どう見てもおかしい。
だが、誰もそれを気にしていない。
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「……うん、やっぱり騒がしいなあ」
扉の外から、気の抜けた声がした。
ノックもなく、扉が開く。
「お〜お〜
ここは使用禁止だぞ〜?」
立っていたのは、柔らかい笑顔の男性だった。
ラフなジャケット。
手には書類の束。
「誰?」
沙希が遠慮なく聞く。
「はは、だよね」
男は肩をすくめた。
「晴谷蓮二。
今日から——君たちの顧問になるかもしれない人」
「……“かもしれない”?」
すきが首を傾げる。
「うん。
だって君たち、まだ正式な部活じゃないでしょ?」
その一言で、空気が変わった。
「今までは、見て見ぬふりをしてた。
非公認、仮部室、勝手に集まってるだけ」
口調は軽い。
けれど、視線は鋭かった。
「でもね」
晴谷は、書類を机に置く。
「本気でやるなら、
学校としても無視はできない」
凛が一歩前に出る。
「大会には、出られますか」
「出られるよ」
「条件は?」
晴谷は、笑顔を消した。
「条件?難しいこと考えるなよ、
楽しくやろう」
沈黙。
凛は、迷わず頷いた。
「わかりました」
「理解がはやいねぇ」
沙希が笑う。
「面白そう」
すきは、少し遅れて口を開いた。
「……私も、
やりたいです」
晴谷は三人を見てから、舞子に視線を向けた。
「君は?」
舞子はカップを置く。
「勝負が続く場所でしたら、
どこでも構いませんわ」
「オッケー」
晴谷は軽く頷いた。
「じゃあ——正式にやろうか」
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「これ、活動届と部員名簿」
机に並べられた書類。
「名前、書ける?」
沙希は迷いなく。
凛は即座に。
すきは一瞬だけ手を止めてから、書いた。
舞子は、最後だった。
「……よろしいのですわね」
凛と、目が合う。
「ええ」
舞子は、静かに名前を書いた。
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「じゃあ、これ事務室に出してくるから」
晴谷は書類をまとめる。
「誰か、手伝ってくれる?」
扉を開けた瞬間。
「……あの」
廊下の向こうから、声がした。
腕に書類を抱えた男子生徒が、立ち止まっている。
「旧校舎って、
立ち入り制限区域なんですけど」
全員の視線が集まる。
「え?」
「いや、非公認の活動してるって
噂、聞いてて……」
男子生徒は困ったように言った。
「俺、針千です。
生徒会の雑務で——」
「いいねぇ!」
晴谷が即座に言った。
「じゃあ君、マネージャーね!」
「は?」
「事務、管理、常識枠!」
「最後ひどくないですか!?」
針千は頭を抱えた。
「ちょっと待ってください、
俺、入部とか——」
「正式な部活になる瞬間、
立ち会っちゃったからね」
晴谷は笑う。
「もう逃げられない」
「そんな理由!?」
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こうして。
クレーンゲーム部は、
ようやく学校に認められた。
非公認の遊び場は終わり、
引き返せない“部活”が始まる。
針千突は、その場で呟いた。
「……思ってた部活と、違う」
晴谷は、満足そうに頷いた。
「うん。
それでいい」
キャラ紹介
針千 突
•髪:短めで整っている
•表情:冷静そうに見えるが、感情が顔に出やすい
•服装:動きやすさ最優先、
•立ち位置:クレーンゲーム部マネージャー兼サポート役
•元陸上部(リレー経験あり)
•クレーンゲーム技術なし




