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くれげの世界  作者: ぐろ
第二章 高校編
38/76

第37話 トレ高クレーンゲーム部



 旧校舎の仮部室は、今日も勝手に使われていた。


「今の角度、ちょっと甘い」


「いやいや、初手はバランスでしょ?」


「……この台、昨日より左が重い」


 筐体の前で、凛と沙希、すきが言葉を交わす。

 その少し離れた場所で、舞子は紅茶を口にしていた。


 小さなテーブル。

 白磁のカップ。

 落ち着いた所作。


 部室というより、場違いなサロン。


 その横に、黒いスーツの男が無言で立っている。


 秘書だった。


 ――この空間、どう見てもおかしい。


 だが、誰もそれを気にしていない。



「……うん、やっぱり騒がしいなあ」


 扉の外から、気の抜けた声がした。


 ノックもなく、扉が開く。


「お〜お〜

 ここは使用禁止だぞ〜?」


 立っていたのは、柔らかい笑顔の男性だった。


 ラフなジャケット。

 手には書類の束。


「誰?」


 沙希が遠慮なく聞く。


「はは、だよね」


 男は肩をすくめた。


「晴谷蓮二。

 今日から——君たちの顧問になるかもしれない人」


「……“かもしれない”?」


 すきが首を傾げる。


「うん。

 だって君たち、まだ正式な部活じゃないでしょ?」


 その一言で、空気が変わった。


「今までは、見て見ぬふりをしてた。

 非公認、仮部室、勝手に集まってるだけ」


 口調は軽い。

 けれど、視線は鋭かった。


「でもね」


 晴谷は、書類を机に置く。


「本気でやるなら、

 学校としても無視はできない」


 凛が一歩前に出る。


「大会には、出られますか」


「出られるよ」


「条件は?」


 晴谷は、笑顔を消した。


「条件?難しいこと考えるなよ、

楽しくやろう」


 沈黙。


 凛は、迷わず頷いた。


「わかりました」


「理解がはやいねぇ」


沙希が笑う。


「面白そう」


 すきは、少し遅れて口を開いた。


「……私も、

 やりたいです」


 晴谷は三人を見てから、舞子に視線を向けた。


「君は?」


 舞子はカップを置く。


「勝負が続く場所でしたら、

 どこでも構いませんわ」


「オッケー」


 晴谷は軽く頷いた。


「じゃあ——正式にやろうか」



「これ、活動届と部員名簿」


 机に並べられた書類。


「名前、書ける?」


 沙希は迷いなく。

 凛は即座に。

 すきは一瞬だけ手を止めてから、書いた。


 舞子は、最後だった。


「……よろしいのですわね」


 凛と、目が合う。


「ええ」


 舞子は、静かに名前を書いた。



「じゃあ、これ事務室に出してくるから」


 晴谷は書類をまとめる。


「誰か、手伝ってくれる?」


 扉を開けた瞬間。


「……あの」


 廊下の向こうから、声がした。


 腕に書類を抱えた男子生徒が、立ち止まっている。


「旧校舎って、

 立ち入り制限区域なんですけど」


 全員の視線が集まる。


「え?」


「いや、非公認の活動してるって

 噂、聞いてて……」


 男子生徒は困ったように言った。


「俺、針千(はりせん)です。

 生徒会の雑務で——」


「いいねぇ!」


 晴谷が即座に言った。


「じゃあ君、マネージャーね!」


「は?」


「事務、管理、常識枠!」


「最後ひどくないですか!?」


 針千は頭を抱えた。


「ちょっと待ってください、

 俺、入部とか——」


「正式な部活になる瞬間、

 立ち会っちゃったからね」


 晴谷は笑う。


「もう逃げられない」


「そんな理由!?」



 こうして。


 クレーンゲーム部は、

 ようやく学校に認められた。


 非公認の遊び場は終わり、

 引き返せない“部活”が始まる。


 針千突(はりせんとつ)は、その場で呟いた。


「……思ってた部活と、違う」


 晴谷は、満足そうに頷いた。


「うん。

 それでいい」


キャラ紹介


針千 はりせん・とつ

•髪:短めで整っている

•表情:冷静そうに見えるが、感情が顔に出やすい

•服装:動きやすさ最優先、

•立ち位置:クレーンゲーム部マネージャー兼サポート役

•元陸上部(リレー経験あり)

•クレーンゲーム技術なし

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