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くれげの世界  作者: ぐろ
第一章 中学編
33/76

第33話 少しづつ未来は進んでる


決勝は、続いている。


だが――

会場の空気は、明らかに変わっていた。


すきの“何もしない一手”。


失敗。

それ自体は珍しくない。


けれど。


理由のない失敗。

選ばなかったという選択。


それは、理論の世界にとって

最初から想定されていないノイズだった。



物理学者チームの手番。


「……再計算を」


声は冷静だ。

だが、どこか急いでいる。


「直前の行動は、偶発的要因と仮定」


アームが動く。

箱が、いつも通りに――


動かない。


「……?」


ほんの数ミリ。

だが、確実にズレた。


観客は気づかない。

だが、凛は即座に目を細めた。


「……ズレた」


「理論通りなら、今の動きは存在しない」


詠が、愉しそうに息を吐く。


「あー……いいね」

「壊れた♡」



沙希が、前に出る。


迷いはない。

笑顔もない。


「……バランスキャッチ、やめよ」


会場がざわつく。


「え?」

「しないの?」


沙希は配置すら整えない。

“取らない”一手。


ただ、繋ぐだけ。


物理学者チームが即座に反応する。


「非合理」

「成功率が下がる」


沙希は肩をすくめた。


「うん」

「でもさ」


台から目を離さず、続ける。


「もう“正しい流れ”じゃないでしょ、これ」



凛が続く。


計算する。

だが――止める。


「……答えが、ひとつじゃない」


物理学者チームの一人が眉をひそめる。


「最適解を放棄するのか?」


凛は静かに首を振った。


「違う」

「最適解を、増やしただけ」


箱は、理論から外れた動きを見せる。


小さい。

だが、確実な違和感。



成宮の番。


「……俺、どうする?」


誰も答えない。


それが、答えだった。


成宮は深く考えず、

ただ“邪魔にならない場所”へ動かす。


派手さはない。

成果も小さい。


だが。


「……配置が、固定されていない?」


物理学者チームが、初めて言葉を失う。



詠が前に出る。


「はは……」

「普通なら、ここ壊すんだけどさ」


一瞬、すきを見る。


「今回は――やめとく」


中途半端な一手。

壊さない。

整えない。


理論にも、破壊にも属さない動き。


「今壊したらさ」

「すき、選べなくなるでしょ」


会場の空気が、はっきりと変わった。



そして、すき。


台の前に立つ。


(……まだ)


声は、かすかだ。

でも、確かにそこにある。


未来は、一本じゃない。

ぼやけた枝が、いくつも見える。


(正しいのは……どれ?)


違う。


(……選ばないと、いけないのは)


仲間の背中が、見える。


沙希。

凛。

成宮。

詠。


みんな、もう“正解”を見ていない。


すきは、ボタンに手を置く。


―少しだけ。


最小限、ほんのわずかだけ動かす。


結果は、取れない。


だが。


箱の位置が、明らかにおかしい。


「……想定外だ」


「前提条件が崩れている」


物理学者チームに、初めて動揺が走る。


会長は、モニター越しに静かに呟いた。


「選ばなかった」

「だから、未来が固定されなかった」



すきは、息を整える。


怖くない。


(……これでいい)


扉は、まだ閉じている。


でも――

鍵は、確かに回り始めていた。


決勝は、終盤へ。


世界はもう、

元の“正しい形”には戻らない。

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