第26話 これが私のセオリー
場面は詠の手番。
誰が見ても、悪い位置。
効率も、確率も、すべて無視した狙い。
マセガキ軍団の一人が、ついに声を荒げた。
「……おい。
あんな取り方、どの動画でも見たことないぞ」
別の子が、苛立ちを隠さず続ける。
「教科書にも載ってない。
それ、勝ち筋じゃないだろ」
詠は、ちらりと視線を向けた。
表情は変わらない。
いつも通りの、軽い笑顔。
「動画?」
首をかしげる。
「教科書?」
少し考えるような間。
「……ああ」
そして、はっきりと言った。
「そんなもの、私にはなかったよ」
会場の空気が、ぴたりと止まる。
詠はアームから目を離さず、続けた。
「誰も教えてくれなかったし、
真似する相手もいなかった」
指先が、静かにボタンを押す。
「だからぁぁぁ〜」
アームが、常識外の軌道を描く。
「これが、私のセオリー」
景品は、また“失敗したように”落ちた。
観客がざわつく。
マセガキ軍団は、言葉を失っていた。
⸻
詠の脳裏に、過去がよぎる。
流行りの服を着ていない自分。
みんなが持っているおもちゃを、持っていない自分。
でも。
それを、惨めだと思ったことはなかった。
(違うの、好きだった)
(同じじゃないって、楽しかった)
誰かの真似をするより、
誰もやらないことをする方が、ずっと。
負けてもいい。
失敗してもいい。
――その方が、胸が高鳴った。
(この感じ)
(これが……脳汁)
⸻
「……ふざけてるのか?」
マセガキ軍団の声が、震える。
「自分から負けに行ってるだけだろ」
詠は、肩をすくめた。
「そう見えるなら、それでいいよ」
また、破天荒な一手。
配置は、さらに悪くなる。
完全に“負け筋”。
沙希は、唇を噛んだ。
「詠……」
成宮も、声を出せない。
凛は、ただ見ていた。
理論では説明できない“意志”を。
すきだけが、目を逸らせなかった。
(怖い)
(でも……)
(この人、間違ってない)
⸻
協会長が、モニター越しに静かに呟く。
「……なるほど」
その目に、確かな興味が宿る。
「正解を積む者たちと、
正解そのものを壊す者」
椅子に深く座り直す。
「これは、才能の勝負じゃないな」
⸻
詠は、また失敗する。
観客は引く。
仲間も、息を詰める。
それでも、詠だけは楽しそうだった。
「うん」
小さく、頷く。
「やっぱり、こっちの方がいい」
準決勝は、まだ続く。
だが――
正しさは、もう揺らぎ始めていた。




