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くれげの世界  作者: ぐろ
25/62

第25話 正しさとは

準決勝。

会場の空気は、これまでと明らかに違っていた。


静かだ。

だが、熱がないわけじゃない。

むしろ――“計算された視線”が多すぎる。


マセガキ軍団。

それぞれがスマホを片手に、台の癖、アームの開閉幅、落下後の配置まで確認している。


「すごいね……」


沙希が小さく笑う。


「なんか、もう研究発表会みたい」


「勝つために最適化してる。

間違いなく“正しい手”だ」


凛が冷静に言った。


成宮は苦笑いする。


「俺がガキだったら、ああなってたかもな……金あったし」


その言葉に、沙希が吹き出した。


「やめなよ成宮、想像できすぎて」


和やかな空気。

だが――


すきは、詠を見ていた。


詠は、いつも通りだ。

腕を組み、余裕そうに、楽しそうに。


……なのに。


(なんか……ズレてる)


理由はわからない。

でも、胸の奥がざわつく。



マセガキ軍団のプレイが始まる。


無駄のない操作。

教科書通りのアプローチ。

景品は、確実に「次に取れる位置」へ動かされていく。


観客が感心したように頷く。


「うまいな……」

「理論派だ」


凛は、素直に認めた。


「効率は完璧。

このルールなら、かなり強い」


そのとき。


マセガキの一人が、笑いながら言った。


「この台さ、家にあるのと同じなんだよね」


別の子も続く。


「うちは三種類ある。

落ち方、全部検証したし」


悪気はない。

ただの事実共有。

でも――


詠の口角が、わずかに上がった。


「へえ」


軽い声。


「親に買ってもらったクレーンで、研究してきたんだ」


アームが動く。

詠の手番。


「それでさ」


詠は画面から目を離さず、続ける。


「その“正しいやり方”って――楽しい?」


一瞬、空気が止まった。


沙希が瞬きをする。

成宮が「おっ」と小さく声を漏らす。


マセガキ軍団の一人が、肩をすくめた。


「勝てば楽しいでしょ」


「そっか」


詠は笑った。


「じゃあ、正しいね」


その一言が、妙に引っかかった。



詠は、アームを動かす。


狙いは、悪い。

誰が見ても、効率が悪い位置。


凛が思わず呟く。


「……その角度、意味がない」


「詠?」


すきが声をかける。


だが詠は、楽しそうだった。


「うん。

こっちの方がいい」


アームが景品を掴む。


――持ち上がらない。


引っかからない。


教科書的には、失敗。


観客がざわつく。


「今の、無駄手じゃ……」


だが。


詠は、小さく頷いた。


「やっぱ、こっちの方がいい」


すきの違和感が、確信に変わる。


(この人……)


(勝ち方を、壊しに来てる)


協会長が、モニター越しに目を細めた。


「……始まったな」


準決勝。


――ここからだ。

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