第25話 正しさとは
準決勝。
会場の空気は、これまでと明らかに違っていた。
静かだ。
だが、熱がないわけじゃない。
むしろ――“計算された視線”が多すぎる。
マセガキ軍団。
それぞれがスマホを片手に、台の癖、アームの開閉幅、落下後の配置まで確認している。
「すごいね……」
沙希が小さく笑う。
「なんか、もう研究発表会みたい」
「勝つために最適化してる。
間違いなく“正しい手”だ」
凛が冷静に言った。
成宮は苦笑いする。
「俺がガキだったら、ああなってたかもな……金あったし」
その言葉に、沙希が吹き出した。
「やめなよ成宮、想像できすぎて」
和やかな空気。
だが――
すきは、詠を見ていた。
詠は、いつも通りだ。
腕を組み、余裕そうに、楽しそうに。
……なのに。
(なんか……ズレてる)
理由はわからない。
でも、胸の奥がざわつく。
⸻
マセガキ軍団のプレイが始まる。
無駄のない操作。
教科書通りのアプローチ。
景品は、確実に「次に取れる位置」へ動かされていく。
観客が感心したように頷く。
「うまいな……」
「理論派だ」
凛は、素直に認めた。
「効率は完璧。
このルールなら、かなり強い」
そのとき。
マセガキの一人が、笑いながら言った。
「この台さ、家にあるのと同じなんだよね」
別の子も続く。
「うちは三種類ある。
落ち方、全部検証したし」
悪気はない。
ただの事実共有。
でも――
詠の口角が、わずかに上がった。
「へえ」
軽い声。
「親に買ってもらったクレーンで、研究してきたんだ」
アームが動く。
詠の手番。
「それでさ」
詠は画面から目を離さず、続ける。
「その“正しいやり方”って――楽しい?」
一瞬、空気が止まった。
沙希が瞬きをする。
成宮が「おっ」と小さく声を漏らす。
マセガキ軍団の一人が、肩をすくめた。
「勝てば楽しいでしょ」
「そっか」
詠は笑った。
「じゃあ、正しいね」
その一言が、妙に引っかかった。
⸻
詠は、アームを動かす。
狙いは、悪い。
誰が見ても、効率が悪い位置。
凛が思わず呟く。
「……その角度、意味がない」
「詠?」
すきが声をかける。
だが詠は、楽しそうだった。
「うん。
こっちの方がいい」
アームが景品を掴む。
――持ち上がらない。
引っかからない。
教科書的には、失敗。
観客がざわつく。
「今の、無駄手じゃ……」
だが。
詠は、小さく頷いた。
「やっぱ、こっちの方がいい」
すきの違和感が、確信に変わる。
(この人……)
(勝ち方を、壊しに来てる)
協会長が、モニター越しに目を細めた。
「……始まったな」
準決勝。
――ここからだ。




