第202話 2本
会長の言葉が終わり、
会場のざわめきがゆっくり解けていく。
拍手はもうない。
代わりに――
人の声が戻っていた。
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薄暗い通路。
零は壁にもたれ、静かに息を吐いていた。
足音。
「零様」
振り向かずとも分かる声。
下衆田だった。
零は短く言う。
「……缶コーヒー、買ってきてくれ」
「はいでげす」
下衆田が踵を返そうとした、そのとき。
「にっ…2本……。」
その一言に、
下衆田の足が止まる。
振り向かない。
だが、
背中がわずかに震えた。
そして、
嬉しそうに、小さく頷く。
「はい、でげす」
足音が遠ざかっていく。
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「おい統!!」
「お前、羽澄さん狙いだったのかよ!」
「ちょっとそこ詳しく聞かせろ!」
仲間たちに囲まれ、
神代は苦笑いする。
「いやいや違うって!」
「会長の願い枠の有効活用というか…」
「言い訳が長ぇ!」
笑いが弾ける。
神代は頭をかきながら、
どこか安心した顔をしていた。
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すきと雪平が迫る。
「え?バズ子ちゃんと神代さんってそういう感じなんですか?」
雪平が腕を組む。
「ちょっと京子、詳しく聞かせなさいよ〜」
「えぇ〜!?」
バズ子が両手を振る。
「私にもわからないのにぃ!」
三人の笑い声が重なる。
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売田、ジョー、花形、
そして三期生たちが集まっている。
「先輩、かっこよかったです!」
「Sランク相手にあそこまで…!」
全は頭をかく。
「1体1では、負けたけどな」
花形が涙を拭きながら笑う。
「でも、託しましたから」
ジョーが静かに頷く。
売田が肩を叩く。
「お前はやっぱ主人公体質だな」
「うるせぇ」
だが全は、少し照れていた。
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その光景を、会長は静かに見つめていた。
目尻が柔らかい。
隣で晴谷が言う。
「まだ感傷にふける歳でもないでしょう」
会長は小さく笑う。
「もう歳だよ」
晴谷は肩をすくめる。
「また一から、いや、初期位置から登りましょう」
会長は眉を上げる。
「お前、登山できるか?」
晴谷が笑う。
「山口と、撮影係に聞見も誘いましょうか」
会長は目を細める。
「……うむ」
二人の視線の先には、
新しい世代の背中があった。
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足音。
零が顔を上げる。
元相棒の椎名剛志だった。
「おつかれ」
零は視線を逸らす。
「……」
椎名が笑う。
「お前が負けるとこ、久しぶりに見たな」
「笑いに来たのか?」
零が低く言う。
椎名は首を振った。
零を見つめる。
少しの間。
そして――
「慰めに来た」
零の喉が震える。
視界が滲む。
涙がこぼれた。
「……悪かった」
椎名は柔らかく笑う。
「うん
また昔みたいにさ」
仲良くやろうぜ」
一拍。
「他のやつともな」
零は頷く。
「あぁ……そうだな」
堰を切ったように、
涙が溢れた。
号泣だった。
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そのとき。
ギリ……
歯ぎしりの音。
振り向くと、
椎名を睨みつける下衆田が立っていた。
鬼気迫る形相。
零が気づく。
「あっ……」
下衆田の手には、
缶コーヒーが二本。
零はそれを見て、
ふっと息を漏らす。
そして小さく笑った。
「……3本だったな」




