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くれげの世界  作者: ぐろ
最終章“ 神域編”
204/205

第202話 2本

会長の言葉が終わり、

会場のざわめきがゆっくり解けていく。


拍手はもうない。


代わりに――

人の声が戻っていた。



薄暗い通路。


零は壁にもたれ、静かに息を吐いていた。


足音。


「零様」


振り向かずとも分かる声。

下衆田だった。


零は短く言う。


「……缶コーヒー、買ってきてくれ」


「はいでげす」


下衆田が踵を返そうとした、そのとき。


「にっ…2本……。」


その一言に、


下衆田の足が止まる。

振り向かない。


だが、

背中がわずかに震えた。


そして、

嬉しそうに、小さく頷く。


「はい、でげす」


足音が遠ざかっていく。



「おい統!!」


「お前、羽澄さん狙いだったのかよ!」


「ちょっとそこ詳しく聞かせろ!」


仲間たちに囲まれ、

神代は苦笑いする。


「いやいや違うって!」


「会長の願い枠の有効活用というか…」


「言い訳が長ぇ!」


笑いが弾ける。


神代は頭をかきながら、


どこか安心した顔をしていた。




すきと雪平が迫る。


「え?バズ子ちゃんと神代さんってそういう感じなんですか?」


雪平が腕を組む。


「ちょっと京子、詳しく聞かせなさいよ〜」


「えぇ〜!?」


バズ子が両手を振る。


「私にもわからないのにぃ!」


三人の笑い声が重なる。




売田、ジョー、花形、

そして三期生たちが集まっている。


「先輩、かっこよかったです!」


「Sランク相手にあそこまで…!」


全は頭をかく。


「1体1では、負けたけどな」


花形が涙を拭きながら笑う。


「でも、託しましたから」


ジョーが静かに頷く。

売田が肩を叩く。


「お前はやっぱ主人公体質だな」


「うるせぇ」


だが全は、少し照れていた。




その光景を、会長は静かに見つめていた。


目尻が柔らかい。

隣で晴谷が言う。


「まだ感傷にふける歳でもないでしょう」


会長は小さく笑う。


「もう歳だよ」


晴谷は肩をすくめる。


「また一から、いや、初期位置から登りましょう」


会長は眉を上げる。


「お前、登山できるか?」


晴谷が笑う。


「山口と、撮影係に聞見も誘いましょうか」


会長は目を細める。


「……うむ」


二人の視線の先には、

新しい世代の背中があった。




足音。


零が顔を上げる。


元相棒の椎名剛志(しいなつよし)だった。


「おつかれ」


零は視線を逸らす。


「……」


椎名が笑う。


「お前が負けるとこ、久しぶりに見たな」


「笑いに来たのか?」


零が低く言う。


椎名は首を振った。

零を見つめる。


少しの間。


そして――


「慰めに来た」


零の喉が震える。


視界が滲む。

涙がこぼれた。


「……悪かった」


椎名は柔らかく笑う。


「うん

また昔みたいにさ」

仲良くやろうぜ」


一拍。


「他のやつともな」


零は頷く。


「あぁ……そうだな」


堰を切ったように、

涙が溢れた。


号泣だった。



そのとき。


ギリ……


歯ぎしりの音。


振り向くと、

椎名を睨みつける下衆田が立っていた。


鬼気迫る形相。


零が気づく。


「あっ……」


下衆田の手には、

缶コーヒーが二本。


零はそれを見て、

ふっと息を漏らす。


そして小さく笑った。


「……3本だったな」

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