第200話 ゴツン
次の瞬間――
会場が爆発した。
「うおおおおおおお!!」
歓声が天井を震わせる。
立ち上がる観客。
鳴り止まない拍手。
名前を叫ぶ声。
⸻
その中で。
ゴツン!!
鈍い音。
すきの拳が、
全の頭頂部に直撃した。
「いっっっってぇ!!」
全が頭を押さえてしゃがみ込む。
見る見るうちに、
大きなたんこぶが膨れ上がる。
⸻
駆け寄ってくる仲間たち。
売田が腹を抱えて笑う。
「ぎゃははは!優勝の一撃きたぁ!」
ジョーは肩を震わせながら笑いを堪える。
雪平は口元を押さえ、
バズ子はスマホを構える。
「ちょっと全くん♡その顔映える〜♡」
「撮んな!!」
笑いに包まれる空気。
すきも、つい吹き出した。
勝者の顔ではなく、
いつもの笑顔だった。
⸻
少し離れた場所。
神代統は静かに息を吐く。
「……あぁ」
空を見上げる。
「負けたかぁ」
悔しさはある。
だが、
口元は穏やかだった。
「届かなかったなぁ」
それでも、
どこか満たされた表情。
⸻
その隣で。
一条零は、
膝をついていた。
肩が落ちる。
視線は床へ。
手は動かない。
⸻
最初は、誰も近づかなかった。
そして――
カンッ。
床に何かが当たる音。
転がってきたのは、
空のペットボトル。
次に、
メガホン。
紙コップ。
誰かが叫ぶ。
「ざまぁみろ!!」
「でかい口叩いてこのざまかよ!」
「Dランク馬鹿にしてたよなぁ!」
「調子乗んなよ!!」
声は一つではなかった。
観客席。
通路。
関係者席。
――現役プロの中にも。
憎悪。
鬱憤。
劣等感。
溜まり続けた感情が、
一斉に噴き出していた。
⸻
零は動けない。
ただ、
音を聞いていた。
罵声。
物が落ちる音。
床を転がる音。
遠ざかる拍手。
その音の中で
記憶が蘇る。
体育館。
硬い床。
鈍い衝撃音。
バスケットボールをぶつけられる。
笑い声。
誰も止めない。
誰も助けない。
あの日の音。
零の呼吸が浅くなる。
視界が揺れる。
体が動かない。
そして呪いの音が蘇る。
ぱすっ。ぱすっ。
ぱすっ。ぱすっ。
⸻
そのとき。
空気を切り裂く声が響いた。
「やめるでげす!!!」




