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くれげの世界  作者: ぐろ
20/62

第20話 笑顔の居場所


 三回戦の会場は、これまでとは少し空気が違っていた。


 騒がしいわけじゃない。

 でも、軽くもない。


 ママさんバレーチームは、揃いのジャージで台の前に立っていた。

 談笑しているのに、目線は自然と盤面に落ちている。


「なんかさ」


 沙希が、いつもの調子で言う。


「強そうっていうより……

 “慣れてる”って感じしない?」


「うん」


 すきは短く答えた。


 理由は言葉にできない。

 でも胸の奥に、小さな引っかかりがあった。


 試合が始まる。


 ママさんチームの動きは派手じゃない。

 無理をしない。

 一手一手、確実に景品を“取れる形”へ運んでいく。


「安定感、えぐいな……」


 成宮が呟く。


「積み重ねの動きね」


 凛が静かに言った。


 そして、沙希の番。


「よーし、じゃあ行こっか!」


 笑顔。

 軽い足取り。

 自然と視線が集まる。


 アームが下りる。


 角度は完璧。

 迷いもない。


 ——バランスキャッチ。


 会場が一瞬、沸いた。


 だが次の瞬間。


 景品が、

 想定外の方向へ弾かれた。


 奥。

 斜め。

 アームが最も届きにくい、最悪の位置。


 一瞬、空気が止まる。


「あ……」


 成宮が声を漏らす。


 沙希は、すぐに笑った。


「あはは、ごめんごめん!

 ちょっと派手にいきすぎたかも!」


 手を合わせる。

 場を和ませる、いつもの仕草。


 誰も責めない。

 誰も何も言わない。


 それが、今までの沙希だった。


 ママさんチームは、気にする様子もなく次の景品を取る。

 一つ。

 また一つ。


 差は、静かに広がっていく。


「……」


 すきは、盤面ではなく沙希を見ていた。


 笑っている顔。

 変わらないはずの、その表情。


「……沙希」


 すきが呼ぶ。


「ん?」


 沙希は振り返る。

 笑顔のまま。


「さっきの」


 少しだけ、間を置いて。


「取ろうとしたんじゃなくて……

 決めたかっただけじゃない?」


 沙希の笑顔が、止まった。


「え……?」


 すきはそれ以上、何も言わない。

 責めない。

 ただ、目を逸らさない。


 沙希は、少し視線を逸らした。


「……まあ、

 ちょっと欲張ったかも?」


 冗談めかして笑う。


 でもその声は、

 どこか薄かった。


(……あれ?)


 胸の奥で、何かが引っかかる。


 次の番。


 初期位置は悪くない。

 ワンパンも狙える。


 会場の空気が、また沙希に集まる。


(決めたら、盛り上がる)


 自然と、レバーに力が入る。


 その瞬間。


 ——決めたかっただけじゃない?


 すきの声が、頭に残っていた。


 沙希は、一度、手を止めた。


「……」


 結局、無難な一手を選ぶ。


 事故は起きない。

 でも、何も起きない。


「……らしくないな」


 成宮が小さく言った。


「そ?」


 沙希は笑う。


 けれどその笑顔は、

 どこか居場所を探しているみたいだった。


 ママさんチームが、また一つ積み上げる。


 スコアボードが、現実を突きつける。


 沙希は盤面を見つめながら思った。


(私……

 バランス取れてるつもりだったんだ)


 でもそれは、


 景品の。

 空気の。

 自分が気持ちよくなるためのバランス。


 チームの。

 勝利の。


 ——それじゃない。


 気づいてしまった。

 でも、まだ踏み出せない。


 だから沙希は、今日も笑う。


 その笑顔が、

 次の一手で壊れることを知らないまま。

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