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くれげの世界  作者: ぐろ
2/62

第2話 声が聞こえる


 放課後のゲームセンターは、昼間より少しだけ騒がしかった。

 クレーンゲームの電子音と、景品が落ちる乾いた音が、空気の奥で混ざっている。


 昏華すきは、昨日と同じ台の前に立っていた。

 フィギュアケースの中、透明な箱に入った小さな人形が、今日も微妙な角度で橋に引っかかっている。


「……この子、今日は左が重い気がする」


 独り言のつもりだった。


「え、なにそれ。フィギュアと会話してる系?」


 背後から、軽い声。


 振り向くと、昨日も見た顔があった。

 ポニーテールを揺らし、片手に百円玉を数枚持った少女。


「あ、昨日ずっと見てた子だ」

「あなたはワンパンで取ってた人、」


 


「私は天秤沙希。よろしくね」

「……昏華、すきです」


 名前を口にするだけで、少し緊張した。


「すき、ね。覚えた」


 沙希はそう言って、台に視線を戻す。


「今日はプレイするの?」

「……うん」


 沙希はクレーンの位置を確認し、迷いなくコインを入れた。

 移動ボタンを短く、正確に押す。


 カチ、カチ。


 位置調整が終わると、迷わず下降ボタン。


 ガコン。


 アームが降り、箱の重心を正確に捉え、アーム上昇と共に持ち上がる

 ガコンッ

音を立ててアームから箱が落ち斜めに傾いた形に変わる


「はい、初手バランスキャッチ」

「……え」


 すきが思わず声を漏らす。


「まあ、置いてある位置が優しかっただけ〜」


 沙希は軽く言うが、操作には一切の無駄がなかった。


 すきは、箱をじっと見る。


「……今、右じゃなくて、ちょっと奥だった」

「ん?」


 沙希が振り向く。


「掴んだ場所。真ん中より、少しだけ奥」

「……よく見てるね、すき」


 名前を呼ばれて、胸が少し跳ねた。


「じゃあ、次どうする?」

「……左から、押したほうがいい」


 理由は言葉にできない。

 ただ、そう感じた。


「ふーん。じゃ、やってみなよ」


 沙希はあっさり場所を譲った。


 すきはコインを入れる。

 移動ボタンを慎重に押し、位置を合わせる。


 下降ボタンを押す指が、少しだけ震えた。


 アームが降り、箱の側面に触れる。

 ――ずれる。

 だが、落ちない。


「あ……」


 箱は、あと一歩で橋を越えそうな場所で止まった。


 すきは肩を落とす。


「今の、全然悪くないよ」


 沙希の声は、軽いけれど真剣だった。


「角、ちゃんと浮いてた。あれ、できてない人多い」

「……ほんと?」

「ほんと。私より勘いいかもね」


 すきは驚いて沙希を見る。

 そんなふうに言われたのは、初めてだった。


「ね、もう一回。今度は一緒に考えよ」


 沙希はそう言って、すきの隣に立つ。

 同じ画面を、同じ距離で見る。


「次、右?」

「……ううん。今だけ、左」


「今だけ、ね」


 沙希は笑ってコインを入れ、下降ボタンを押した。


 アームが降りる。

 箱が押される。

 一瞬、重心が傾き――


 ゴトン。


 箱が橋を越え、景品口に落ちた。


「……取れた」

「でしょ」


 沙希は軽くガッツポーズをしてから、すぐに笑う。


「やっぱさ、すきっておもしろい」

「……そう、かな」

「うん。また一緒にやろ」


 すきは、箱から取り出したフィギュアを見る。

 心なしか、少し嬉しそうに見えた。


「……次は、ちゃんと自分で取れるようにしたい」

「いいね。じゃ、私が隣にいる」


 そう言って、沙希は肩をすくめた。


 その距離は、もう昨日とは違っていた。

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