195話 九條恒一②
門に手をかける。
押す。
開かない。
叩く。
開かない。
集中する。
開かない。
何度も。
何度も。
何度も。
動かない。
「……なぜだ」
才能が足りないのか。
努力が足りないのか。
何が足りない。
静寂。
答えはない。
⸻
九條全
孫の肩を見る。
何度見ても――
扉が、ない。
胸の奥で何かが崩れた。
希望。
未来。
可能性。
焦燥が怒りに変わる。
「扉がない」
沈黙。
母親が頭を下げる。
「申し訳ありません」
止まらなかった。
「才能がない」
全が母の服を掴む。
「ママ、泣かないで」
その声が、深く刺さった。
恒一の手が震えていた。
怒りの震えではない。
恐怖だった。
自分の言葉で、大切なものを壊した恐怖。
だが、止まれなかった。
──
才能を集めればいい。
磨き合えばいい。
協会設立。
大会開催。
扉持ちの収集。
境地到達者の育成。
だが――
門は開かない。
年月だけが過ぎる。
胸の奥が焼ける。
焦燥が溜まる。
⸻
その夜。
境地へ入る。
門はそこにある。
開かない。
押しても。
叩いても。
動かない。
なぜだ。
なぜ届かない。
膝が床についた。
初めてだった。
山頂に立ち続けた男が、
初めて膝をついた。
⸻
脳裏に浮かぶ。
晴谷の笑顔。
山口の穏やかな声。
三人で筐体の前に立っていた夜。
笑い声。
静かな時間。
共有していた景色。
胸が締め付けられる。
「……私は」
初めて理解した。
一人で登ることに執着し、
仲間の歩幅を切り捨ててきた。
一番、平等ではなかったのは
自分だった。
⸻
門の前で、恒一は額を押し当てる。
声は出ない。
だが心の奥で、
初めて言葉が生まれた。
(……助けてくれ)
静寂。
門は動かない。
それでも。
手を離すことができなかった




