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くれげの世界  作者: ぐろ
最終章“ 神域編”
196/205

194話 九條恒一①

山頂の空気は、澄んでいた。


風が雲を払い、世界の輪郭だけが残る。


美しい。


だが。


「……また、一人か」


振り返る。

誰もいない。


登り始めたときは十人いた。


笑い声が減り、足音が消え、

最後に残るのは、いつも自分だった。


周囲は言った。


「九條は特別だ」

「才能が違う」

「仕方ないさ」


違う。


止まらなかっただけだ。


だが――

止まらない者は、最後には一人になる。


山頂の景色は美しい。


だが共有する相手がいない景色は、

どこか空虚だった。



クレーンゲームと出会ったのは偶然だった。


だが恒一(こういち)は夢中になった。


このゲームは平等だ。


権力も腕力も知識も意味を持たない。


そして到達した。


“ 境地”


景品の重心が語りかける。


アームの癖が呼吸のようにわかる。


そして――


“ 扉”が見える。


“ 人の才能”の形が見える。


世界が、理解できる。

すべてが手の中に収まった。


その夜。


筐体の前で、恒一は立ち尽くした。


「……終わり、か」


達成したはずなのに。

胸が、空っぽだった。


山頂と同じだった。

景色は美しい。


だが共有する者がいない。

孤独は消えない。



だが、その男を見た瞬間、

心臓が鳴った。


晴谷蓮二(はれやれんじ)


アームの軌道。

指先の迷いのなさ。

感覚の精度。


まだ境地ではない。


だが――来る。


確信があった。


久しぶりに、胸が熱くなった。



声をかけた。


半年後。


晴谷は境地に至った。


その瞬間、


恒一の胸は歓喜で震えた。


やっとだ。


やっと同じ高さに立つ者が現れた。


語り合える。

共有できる。


この景色を。


孤独は終わる。

そう思った。


だが。


晴谷は振り返る。

山口を見る。

立ち止まる。


待つ。


「……なぜだ」


境地に至ったのなら、

上へ進めばいい。


なぜ待つ。

なぜ振り返る。

理解できなかった。


そして恒一は、

二人の距離を断った。


それが正しいと信じていた。



数年後。


境地の中で、必死に探していた。


何かが足りない。

何かがある。


背中に衝撃。

振り返る。


壁。


――違う。


意識を広げる。


下がる。

見上げる。


巨大な門。


空を覆うほどの門。

息が止まる。


「……あった」


震える。

涙が滲む。


終わりじゃなかった。

まだ、上がある。

まだ登れる。


希望が、胸を満たした。

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