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くれげの世界  作者: ぐろ
最終章“ 神域編”
194/205

第192話 神域

足が地面に触れた瞬間、

音が消えた。


重力が、やわらぐ。


空気は静止しているのに、

呼吸はできる。


静寂。


だが、不思議と怖くない。



目の前に広がる景色。


真っ白な空。


雲は流れず、

時間の概念すら存在しない。


中央には、

澄んだ水を湛えた噴水。


水音は聞こえない。

ただ水は絶えず湧き続けている。


その向こう。


古びた城。


石壁は崩れかけ、

幾千年もの風雨に晒されてきた痕跡。


周囲を囲むのは、

巨大な樹々。


一本一本が、

千年、万年という時を生きているかのように、


静かに世界を支えている。


すきはゆっくり歩き出す。


足音は響かない。


ただ存在だけが進んでいく。



城門は開いていた。


導かれるように中へ入る。


長い回廊。

崩れた柱。

差し込む白い光。


時間が止まった王国の残骸。


やがて、

広い扉の前に辿り着く。


ゆっくり押す。



そこは、

王の間。


天井は高く、

玉座は崩れかけている。


だが、


空間の中心に

“それ”は立っていた。



人の形。


だが輪郭は揺らぎ、


光でも闇でもない。


まるで影のようで、

まるで光の残像のよう。


存在しているのに、

存在が定まらない。


“ シルエット”



ドクン。


ドクン。


ドクン。


鼓動が響く。


すきは息を止めた。


(この音……)


胸の奥が理解する。


(この音の持ち主だ)



シルエットが口を開く。


「……やっと来たのか」


低く、


静かで、


どこか懐かしい声。



すきはゆっくり近づく。


「あなたは……だれ?」


シルエットはわずかに揺らぐ。


「だれでもないさ」


一拍。


「ただ、ずっと待っていた」



ドクン。


鼓動が静かに響く。



「何を……待っていたの?」


シルエットは答える


「門を開ける者だ」


静かな声。


「辿り着く者はいた。だが――」


間。


「開ける者は、いなかった」



すきは目を見開く。


「私は……どうして開けられたの?」


「押しても開かなかったのに……」


シルエットが微かに揺れる。


「真の理解者を得たからだ」



「真の理解者……?」


「そうだ」


一拍。


「鍵は、“扉を持たぬ者”にしか開けられない」


静寂。


言葉がゆっくり沈む。



すきの胸に理解が広がる。


「……全くんが」


「鍵を開けてくれたから……門が開いたんだ」


「そうだ」


わずかな肯定。


「境地に到達した者には分かるようにしておいた」


「だが皆、扉を持つ者ばかりを見ていた」


かすかな寂しさが滲む。



すきは小さく息を吸う。


「門が開いたあと……」


「全くんと意識が繋がってるみたいで」


「同じ感覚を共有できたの」


シルエットが静かに頷く。


「特典のようなものだ」


「ここまで辿り着いた者への」



静寂。


世界は止まっている。



「ここまで来た者には、

望むものを与えよう」


声は穏やかだった。


「何か、願いはあるか?」



すきは黙る。


迷い。

戸惑い。

思い出。


仲間。

扉。

戦い。

未来。


全。



やがて、


小さく口を開く。


その言葉は――


聞こえない。


音が途切れる。


世界がモザイクのように歪む。



シルエットが揺らいだ。


初めて、

驚いたように。


「……それは」


わずかな沈黙。


「もちろん可能だ」


一拍。


「だが、いいのか?」


静かに告げる。


「扉そのものが、

消えることになる」



すきは迷わない。


小さく、しかし確かに頷く。


「うん」


柔らかな笑顔。


「ありがとう」


「ここに来られて……よかった」



シルエットは、


ほんの少しだけ寂しそうに揺れた。


「……そうか」


長い静寂。



「叶えよう」



その瞬間。


鼓動が止まる。


光が消える。


音が消える。


存在が途切れる。



プツン。



世界がブラックアウトした

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