第189話 音と色の共演
全の一手が終わり、
神代が形を整え、
すきの未来が霞む。
空気が変わっていく。
零は静かに目を閉じる。
景品内部の振動。
爪が擦れる微かな摩擦音。
橋幅の共鳴。
箱内部で揺れる重心。
音が、立体になる。
まるで――
色を聴くように。
「……次、左奥」
低く告げる。
神代が頷く。
境地が展開する。
白と黒の世界。
箱の内部構造。
摩擦の弱い面。
傾きの臨界点。
光の濃淡が形を浮かび上がらせる。
まるで――
音を見るように。
「了解っす」
アームが降りる。
押す。
滑らせる。
支点を作る。
箱がわずかに傾く。
観客席がざわめく。
「息合いすぎだろ…」
「初ペアだよな?」
「なんだこの連携…」
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全の表情が曇る。
(差が開いてる…)
焦りが胸に広がる。
⸻
すきの未来選択が走る。
幾多の未来。
だが――
零と統の動きが
未来の分岐そのものを削り取っていく。
(見えない……)
鼓動が響く。
ドクン。
ドクン。
闇の奥。
巨大な存在。
——門。
意識が引き寄せられる。
ドックン。
ドックン。
未来がぼやける。
(だめ……集中しなきゃ……)
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零の三手目。
統の四手目。
流れるような連携。
無駄がない。
まるで一つの意思。
まるで一つの生命。
観客席のプロたちが息を呑む。
「境地の共演……」
「これが……Sランク……」
⸻
会場の後方。
プロライセンス試験官
威信電子が、震える手で拍手していた。
二次試験――二人三脚。
あの試験の意味が、
今ここで完成している。
「……美しい」
涙が頬を伝う。
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五手目。
零が位置を固定する。
「そこだ」
短い指示。
統の六手目。
アームが降りる。
触れる。
角が乗る。
静かに持ち上がる。
落下。
ゴトン。
会場が一瞬、無音になる。
景品口に手を入れたのは――
神代統。
掲げられる景品。
実況が叫ぶ。
「獲得!!」
「6手目!!」
「第一ラウンド――」
一拍。
「一条・神代ペア勝利!!」
会場が爆発した。
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全は歯を食いしばる。
すきは静かに立ち尽くす。
未来が見えなかった。
初めての感覚。
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神代が軽く息を吐く。
「いやぁ、難易度高いっすね」
零は何も答えない。
ただ――
わずかに拳を握る。
境地の奥。
雪山。
吹き荒れる白。
巨大な門。
零は押す。
動かない。
「……まだか」
小さく呟く。
吹雪が視界を遮る。
門は沈黙したままだ。
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第一ラウンド。
勝者
一条零・神代統。




