第188話 ぼやける未来
アナウンスが響く。
「入れ替え戦・最終戦は――」
一拍。
「タッグ戦形式で行われます!」
会場がざわめく。
「プレイは交代制!」
「すきチーム:全 → すき → 全 → すき」
「零チーム:零 → 神代 → 零 → 神代」
モニターにルールが映し出される。
■3ラウンド制
■先に景品を獲得したチームがラウンド取得
■2ラウンド先取で勝利
そして。
台の設定が表示された。
難易度:レベル10
橋幅:極狭
アーム爪角度:20°
重量級・長箱景品
観客席がざわつく。
「これ無理だろ…」
「店舗じゃ絶対置けない設定だぞ」
「落ちねぇぞこんなの…」
会長が静かに言う。
「準決勝を勝ち抜いた者に相応しい舞台だ」
⸻
第一ラウンド
操作順。
九条全。
一条零。
全が台の前に立つ。
橋幅ギチギチ。
重たい長箱。
ほぼ掴めない角度。
「……マジかこれ」
思わず漏れる本音。
観客席から笑いが起こるが、
誰もこの難易度を笑えない。
全は深く息を吸う。
アームが降りる。
触れる。
滑る。
箱は、ほとんど動かない。
「……っ」
わずかに位置が変わっただけ。
決定打には遠い。
全は唇を噛む。
「悪い……」
振り返る。
「2手目頼む」
⸻
一条零が前へ出る。
箱を一瞥。
橋幅。
摩擦。
角度。
重量。
そして。
アームを降ろす。
触れた瞬間。
微かな振動音。
擦過音。
内部の重心移動。
零の耳が捉える。
(……裏下重心)
アームが戻る。
箱はわずかに揺れただけ。
だが零は確信していた。
静かに言う。
「裏下重心だ」
⸻
神代統が頷く。
「了解っす」
境地が展開する。
箱の内部。
密度の差。
重心の偏り。
摩擦の弱い面。
「あぁなるほど、たしかに」
にっと笑う。
「さっすが一条さん!」
アームが斜めに降りる。
滑らせる。
押す。
支点を作る。
箱の姿勢が整い始める。
観客席がざわめく。
「形が出来てきた…」
「もう落とす準備に入ってるぞ…」
⸻
すきが台の前に立つ。
静かに目を閉じる。
境地の恩恵。
“ 未来選択”
幾多の未来が展開する。
最短ルート。
安全策。
逆転の一手。
だが――
ぼやけている。
霧がかかったように。
未来が定まらない。
(……見えない)
胸がざわめく。
それでもボタンを押す。
二手目。
箱は前進する。
だが、
一条・神代ペアが作った形が優位。
観客席も理解する。
「零チーム有利だ…」
⸻
すきの鼓動が速くなる。
ドクン。
ドクン。
視界の奥。
闇の彼方。
巨大な存在。
——門。
雪平との試合で見つけたもの。
ドックン。
ドックン。
鼓動が重く響く。
すきはその存在を見つめる。
ラウンドは、まだ終わっていない。
だが――
何かが近づいている。
⸻
第一ラウンドの空気が、
静かに張り詰めていく。
ドックン。
ドックン。
(……来る)




