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くれげの世界  作者: ぐろ
19/62

第19話 それぞれの価値

 結果表示が、切り替わる。


 二回戦、決着。

 勝者——昏華チーム。


 一瞬の静寂。


 そして。


「……っ!」


 誰からともなく、

 五人が、ぶつかるように抱き合った。


「やった……!」

「凛、今の最高!」

「うわ、鳥肌立ったんだけど!」


 声が重なり、笑いが弾ける。


 凛は、少し遅れて腕を伸ばした。


 包まれる。


 近い。

 熱がある。

 うるさい。


 ——でも。


 嫌じゃなかった。


(……ああ)


 この輪の中に、

 自分がいる。


 そう実感した瞬間、

 胸の奥が、じんわりと温かくなった。


 その光景を、

 売田は、少し離れた場所から見ていた。


 転売ズのメンバーたちは、言葉を失っている。

 悔しさよりも先に、理解できなさが顔に出ていた。


「……負け、か」


 売田は、小さく息を吐いた。


 計算は合っていた。

 リスクは最小。

 効率は最良。


 それでも、勝てなかった。


(……なぜだ)


 視線が、もう一度、昏華チームへ向く。


 抱き合い、笑い合う彼女たち。


 そこにあるのは、

 利益でも、効率でもない。


 失敗するかもしれない選択を、同じ覚悟で選んだ痕跡。


 売田は、拳を握った。


 悔しい。


 だが——。


(……悪く、ないな)


 自分が否定された気は、しなかった。


 転売で得た金で、

 親は喜んでくれた。

 仲間も笑ってくれた。


 それは、紛れもない事実だ。


 自分のやり方は、

 自分たちなりの肯定だった。


「……帰ろう」


 売田は、仲間たちに背を向けた。


「次は、もっと稼げるやり方考える」


 誰も、責めなかった。


 それでいい。

 それが、転売ズの形なのだから。


 ◆


 大会運営室。


 協会長は、静かにモニターを切り替えた。


「正しさには、種類がある」


 転売ズのプレイログ。

 昏華チームの決断履歴。


 どちらも、間違ってはいない。


「だが——」


 雨瑠のデータで、視線が止まる。


「“正しい手を選ぶ”だけでは、届かない領域がある」


 人は、必ず間違える。

 だからこそ。


「間違いを、誰と分け合うか」


 それが、勝敗を分けた。


 協会長は、新しい対戦表を表示する。


 三回戦、対戦相手。


「……ほう」


 画面に映るのは、

 揃いのジャージを着た女性たち。


 年季の入ったシューズ。

 手慣れた視線。

 バッグには、子どもの写真のキーホルダー。


「ママさんバレーチーム、か」


 経験。

 生活。

 そして——。


「負けられない理由を、最初から持っている者たち」


 協会長は、静かに笑った。


「さて……

 次は、覚悟の“量”ではなく、“質”が問われるな」


 モニターの向こうで、

 昏華たちは、まだ勝利の余韻に浸っていた。


 ——知らずに。


 次の相手が、

 最も手強い“現実”であることを。

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