第184話 本気見せてよ
「では――試合開始!」
アナウンスが響く。
準決勝第二試合。
Sランク 雪平杏。
Aランク 昏華すき。
会場の空気が張り詰める。
すきは静かにボタンに手を添える。
未来が幾重にも分岐する。
勝利の道筋。
敗北の可能性。
最短手。
最適解。
(このままいけば――)
見える。
勝てる未来。
一手目。
アームが降りる。
軽く触れ、角度をわずかに変える。
完璧な布石。
観客席がどよめく。
「うまい…」
「無駄がない」
雪平はその一手を見て、理解した。
(……このままじゃ勝てない)
静かに目を閉じる。
――回想
「杏ってさ、なんで仲間にバフ分けるの?」
詠の声。
「自分で全部使えばいいじゃん」
雪平は笑った。
「チーム戦だからね。それに――」
一拍。
「仲間が勝つのも、自分の勝ちと同じくらい嬉しいの」
詠は首を傾げた。
「ふーん。じゃあさ」
悪戯っぽく笑う。
「個人戦だったら見せてよ」
「杏の本気。最高に脳汁出る賭け」
ボタンに触れた瞬間――
世界が揺らいだ。
⸻
雪平が初めて
扉の内側に入った時
湿った空気。
濃い緑の匂い。
重たい熱気。
気がつくと、
雪平は密林の中に立っていた。
巨大な葉が空を覆い、
見たこともない花が咲き、
遠くで獣の唸り声が響く。
ガサッ。
茂みが揺れる。
鹿が走り去る。
その奥から現れる影。
牙。
低い唸り。
雪平は後ずさる。
背後で枝が折れた。
振り向く。
別の獣。
右。
左。
逃げ場がない。
呼吸が浅くなる。
走る。
枝が腕を切り、
根に躓きながら走る。
背後から迫る重たい足音。
(捕まる――)
転んだ。
振り返る。
巨大な影が覆いかぶさる。
熊。
終わった――
そう思った瞬間。
熊は、
雪平の頬を
ぺろりと舐めた。
温かい舌。
荒い息。
「……え?」
熊は静かに座り込み、
小さく鼻を鳴らした。
周囲の気配が変わる。
牙を剥いていた獣たちは、
静かに距離を取る。
ここは狩られる場所ではない。
――生きる場所。
⸻
半年後
境地に至り
夜。
密林は急激に冷え込む。
震えながら膝を抱える雪平。
背後から重たい感触。
振り向く。
巨大なアナコンダ。
とぐろを巻き、
雪平の体を包み込む。
締め付ける力ではない。
守るような温もり。
震えが止まる。
⸻
朝。
猿の声。
鳥の羽音。
川のせせらぎ。
熊が川辺に立ち、魚を狙う。
鹿が静かに草を食む。
アナコンダが木陰で眠る。
敵はいない。
支配もない。
ただ、
共に生きている。
その中心に、
自分がいる。
――
現在
雪平は静かに目を閉じた。
(これが……)
初めて
潜在能力100%を自分に使う。
その瞬間――
重心。
動きの予兆。
力の流れ。
瞬間の最適解。
理屈ではない。
本能。
生命の動き。
(これが――)
(私の才能)
“ 野生”
世界が現実へ戻る。




