第183話 恨みっこなし
会場に残るざわめきは、
まだ静まりきっていなかった。
観客の興奮は収まらず、
誰もが今の試合の余韻に包まれている。
競技場の上空
会長室。
会長がゆっくりと口を開いた。
「一条零、神代統。」
一拍。
「勝利を分けたのは――
勝ちへの執念……だな。」
その傍らで、
晴谷蓮二は穏やかな表情で視線を送っていた。
敗れた統のもとへ駆け寄る仲間たち。
笑い声。
励まし。
肩を叩く音。
会長が小さく言う。
「……会ってやらないのか?」
晴谷は軽く笑った。
「いやぁ」
視線を統へ向けたまま答える。
「もう、統には仲間がたくさんいますから」
その声は、どこか誇らしげだった。
⸻
一方。
一条零は、静かに立っていた。
歓声も、ざわめきも、
遠くの音のように聞こえる。
胸の奥で――
ドクン。
ドクン。
鼓動が強く鳴っていた。
(……あと少し)
(あと少しで)
(届きそうだ)
境地の奥。
あの巨大な門。
その先へ。
「零様!素晴らしい勝利でげす!」
駆け寄る下衆田の声すら、
今の零には届いていなかった。
視線はただ、
見えない何かの先を見据えている。
⸻
アナウンスが響く。
「――準決勝第二試合を行います」
会場の空気が、再び張り詰めた。
「雪平杏 対 昏華すき」
観客席から歓声が上がる。
両者が台の前へ歩み出た。
⸻
観客席。
「どっち応援する?」
羽澄が振り返る。
全、売田、ジョーを見る。
ジョーは少し考えてから言った。
「……どちらも、仲間だから」
売田は腕を組む。
「相棒には色々助けられたしなぁ」
一拍。
「雪平のねぇちゃんにはバフで世話になってるし……」
全は小さく笑う。
「いい試合になるよう、両方応援しよう」
「恨みっこなしだ」
「……だな」
売田も頷く。
羽澄は微笑んだ。
「うん、そうだね」
「私も、どっちも好きだし♡」
そして、ちらりと振り返る。
前の試合で敗れた統。
仲間たちに囲まれている。
(……駆け寄れなかったな)
少しだけ寂しそうな表情。
けれど、
すぐに柔らかな笑みに戻った。
⸻
台の前。
雪平が微笑む。
「すき、初対戦だね」
「よろしくね」
すきは静かに頷いた。
「全力でお願いします」
互いに一礼。
静寂。
アームの待機音が小さく響く。
アナウンスが告げる。
「――試合開始」
空気が、張り詰めた。




