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くれげの世界  作者: ぐろ
最終章“ 神域編”
183/205

第181話 楽しんだもん勝ち


「ちょっと、勝ちたい」


その言葉と同時に、

世界の音が、遠のいた。



統は、

雲の上に寝転んでいた。


空は、白。

雲も、白。

境界のない世界。

ただ濃淡だけが存在する。


静寂。


音はない。


風もない。


時間すら、流れていない。


それが、

統の扉の中だった。


白と黒だけの世界。


だがそこは、

孤独ではなかった。


静かで。

やさしくて。


どこまでも落ち着く場所だった。


「……やっぱ落ち着くなぁ」


雲に身体を預けながら、

統は隣を見る。


そこに、

それはあった。


空に突き刺さるような巨大な存在。


白黒の世界の中でさえ、

圧倒的な異物。


巨大な門。


輪郭は曖昧なのに、

確かにそこにあると分かる。


触れられない距離。


だが、

確実に呼ばれている。


「神域の門、ねぇ……」


統は寝転んだまま、ぼんやり見上げる。


「でかすぎるだろ、これ」


近づこうとはしない。


焦りもない。


ただそこにある。


まだ、その時ではない。


それが分かるから。

統は目を閉じる。


静寂の中で、

世界がほどけていく。



次の瞬間。


現実の盤面が、

重なった。


橋の表面。

滑り止めの摩耗。

摩擦の違い。

箱内部の重心の偏り。


すべてが、


白黒の濃淡として浮かび上がる。


まるでレントゲンや、

サーモグラフィーのように。


構造が、見える。

仕組みが、分かる。


力ではない。


流れ。


統の口元がゆるむ。


「……すご」


アームの軌道。


接触角。


落下時の回転。


すべてが、


一つの答えに収束していく。



観客席から声が飛ぶ。


「神代さん!!」


「まだいける!!」


「いつもの笑顔見せてくれ!!」


統は小さく笑った。


白黒の世界の中で、

確かに見えていた温度。


支えてくれた人たち。


晴谷の背中。


自分を笑顔にしてくれた時間。


「あーあ」


楽しそうに息を吐く。


「やっぱ勝ちたくなるよね、こういうの」



横移動。


最短距離。

奥行。

迷いなし。


アームが降りる。


触れる。


持ち上がる。


箱がわずかに回転し、

橋の弱点へ滑る。


会場がざわめいた。


「動いた!!」


「さっきまでビクともしなかったのに!」


統の目は、


子供のように輝いている。


「なるほど……そういう構造か」



零の眉が、わずかに動く。


統は静かに構える。


「一条さん」


柔らかく言う。


「この台、最高っすね」


返事はない。


だが、

零の指先に宿る緊張は、

確かだった。


統は雲の上の静寂を背に、

ボタンを握る。


楽しんだもん勝ち。


でも今日は――


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