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くれげの世界  作者: ぐろ
最終章“ 神域編”
182/205

第180話 神代統

神代統(かみしろすべる)にとって


生まれたときから、


世界は二色だった。


白と黒。


両親が異変に気づいたのは、

統が五歳のとき。


クレヨンで描いた絵。


空は灰色。

木は黒。

人の顔は、白と黒の濃淡だけ。


「……統、この色は?」


母が優しく聞いた。


統は首をかしげた。


「え?みんなこうでしょ?」


その日から、

家の空気が少し変わった。



幼稚園。


塗り絵の時間。


周りの子の絵はカラフルなのに、

統の紙だけがモノクロだった。


「なんか変」


「気持ち悪い」


「なんでその色なの?」


避けられるようになった。



両親は必死だった。


なにか、統が自信を持てるものを。


ピアノ。

空手。

サッカー。

水泳。


どれも長く続かなかった。


そんな中、統が静かに惹かれたのは――


書道だった。


白い紙。

黒い墨。


統の世界と同じだった。


筆を走らせるたび、

周りと同じ視点に立てる気がした。


みるみる上達し、

書道コンクールで金賞を取った。


そのとき、初めて


「すごいね」


と言われた。



だが、小学校の絵画コンクール。


統は大好きな冒険アニメの主人公を描いた。


肌は紫。

背景は緑。

目は水色。


彼に見えている通りに描いた。


廊下に飾られた作品の前で、


「うわ、気持ち悪っ」


「悪魔みたい」


その言葉を、

統は聞いてしまった。



学校へ行かなくなった。


部屋の中。


テレビのアニメを見ながら思う。


(みんなには色があるんだ)


(僕にはない)


(同じ世界を見てないんだ)


小学四年の冬。


統は、ふらりとゲームセンターに入った。


ガラスの中にあった、

大好きなアニメの主人公のフィギュア。


財布には1000円。


クレーンゲームなんてやったことがない。


お金の入れ方もわからず、

筐体の前で立ち尽くしていた。



「ぼうず、その台やるのか?」


振り返ると、

青年が立っていた。


晴谷蓮二(はれやれんじ)。23歳。


統は小さく頷いた。


100円。

200円。

300円。


無言で見守る晴谷。


1000円。


取れなかった。



「……もうやめるのか?」


「お金、ない」


「そうか」


晴谷はコインを入れた。


「よく見てろ」


アームが降りる。


触れる。


滑る。


傾く。


落ちる。


ゴトン。


統の目が大きく開いた。


「今のどうやって!?」


景品口からフィギュアを取り出し、

統に手渡す。


「くれるの?」


「ああ」


統の顔に、久しぶりの笑顔が浮かんだ。


晴谷が笑う。


「ちゃんと笑えるじゃねぇか」



帰り道。


「そのキャラ好きなのか?」


統は夢中で語った。


仲間を大切にする。

前向き。

みんなを明るくする。

ヒーローみたいなんだ。


晴谷は笑顔で聞いていた。


「そうか。そんな風になれるといいな」


統の表情が曇る。


色が見えないこと。

学校のこと。

不登校のこと。


全部、話した。


晴谷は黙って聞いた。


そして言った。


「いいじゃねぇか」


統は顔を上げた。


「色が見えても、つまんなそうに生きてるやつなんて腐るほどいる」


一拍。


「お前が見えてる世界でさ、楽しもうぜ」


統の目が揺れる。


晴谷は笑った。


「楽しんだもん勝ちだ」



それから二人はよく会うようになった。


晴谷は教えない。


「見て覚えろ」


統は見て、真似て、失敗して、また挑戦した。


やがて一人で取れるようになった。



高校から学校にも通い始めた。


世界は相変わらず白黒だった。


でも、

統の中の世界は、明るかった。


晴谷の言葉が残っていた。


楽しんだもん勝ち。


そして、

自分が好きだったヒーローのように。


明るく。

仲間を大切に。

誰かを元気にできる人間に。


神代統は、そうして成長した。



準決勝の舞台。


観客席からの声が響く。


「神代さん!!」


統は小さく笑う。


(ああ、楽しい)


(でも、今日は)


視線が零を捉える。


(ちょっと)


(勝ちたい)

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