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くれげの世界  作者: ぐろ
最終章“ 神域編”
181/205

第179話 勝ちたくなってきた


零の指が、静かにボタンを押す。


アームが降りる。


触れる。


持ち上がる。


箱がわずかに揺れる。


内部で重心が転がる音。


そして――


箱が、橋の縁に沿って

滑るように前進した。


「おおっ!」


「今の押してないぞ!?」


「流れで動いた!?」


観客席がざわつく。


零は盤面を見ていない。


耳を澄ませている。


モーターの回転音。

金属フレームの振動。

内部の重心が移動する微かな接触音。


それらすべてを聞き分け、

最適な角度と接触点を導き出している。


実況が声を張る。


「一条選手、音から内部構造を読んでいるのか!?」


「これが……Sランクの領域……!」


箱は確実に前進していた。



観客席から声が上がる。


「同じSランクでも……」


「一条が有利か?」


「神代、押されてるぞ……」



統は盤面を見つめ、


小さく息を吐いた。


「……いやぁ」


苦笑する。


「やっぱ一条さん上手いなぁ」


視線を落としながら呟く。


「こりゃあ厳しいか?」



観客席。


羽澄が身を乗り出す。


「統くん……」


小さく祈るような声。



そのとき。


客席後方から声が飛んだ。


「神代さん!!」


別の声。


「まだまだこれからっす!!」


「いつもみたいに見せてください!」


「あなたの笑顔に救われたんだ!!」


「諦めんな!!」


さらに声が重なる。


「あんたがナンバー1だ!!」


「神代さん!!」


「楽しませてくれ!!」


会場のあちこちから声が上がる。


ランクは関係ない。


統に声をかけられ、

励まされ、

笑顔に救われ、

この厳しい世界で踏ん張ってきたプロたち。


その全員の声だった。



統はゆっくり顔を上げる。


驚いたように周囲を見る。


そして――


少し照れたように笑った。


「あぁ……」


小さく頷く。


視線を零へ戻す。


「一条さん」


零は無言。


統は肩の力を抜いた。


「楽しけりゃいいかなって思ってましたけど」


一拍。


目が、まっすぐになる。


「ちょっと勝ちたくなってきちゃいました」


静寂。


会場の空気が変わる。


零の指が、わずかに動いた。


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