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くれげの世界  作者: ぐろ
最終章“ 神域編”
180/205

第178話 知ってるか

一条零 vs 神代統


アームが静かに待機音を響かせる。


難易度レベル5。


内部で重心が微かに動く気配。

橋幅は狭く、アームの出力は一定ではない。


通常の再現性は通用しない。



一手目


統が軽く肩を回す。


「いやぁ……」


台を覗き込みながら、


「楽しそうですねこれ」


その声に観客席から小さな笑い。


統のアームが降りる。


狙いは無理をしない中央付近。


軽く触れ、

箱の向きをわずかに整える。


「おぉ、慎重だ」


「様子見か」


箱は静かに止まる。


統は満足そうに頷いた。


「うん、クセ強いっすね」



零は無言。


ボタンに手を添えたまま、

盤面ではなく――


音を聞いている。


アームのモーター音。

金属フレームの微振動。

内部で転がる重心の微かな接触音。


零のアームが動く。


最小の移動。


触れる。


わずかな振動。


箱が、ほんの数ミリ滑る。


「……今の何だ?」


「触っただけだぞ?」


観客のざわめき。


箱の底面が橋の縁に対して

わずかに角度を変えた。


零は視線を上げない。



二手目


統が盤面を覗き込み、笑う。


「なるほどなるほど」


「やっぱり普通じゃないっすね」


アームを横へ流す。


角を軽く押す。


箱が小さく回転。


内部で“コトッ”と何かが転がる。


統の目が輝く。


「うわ、重心動くんだ」


「最高じゃないですか」


会場からどよめき。



零の番。


ボタンに触れる直前、


零が口を開いた。


「……おい」


統が顔を上げる。


「はい?」


「境地の中の門」


静寂。


「存在を知っているか」


観客席がざわつく。


統は少し考え、


「あぁ」


あっさり頷く。


「あの、ばかでかいやつですね」


「開かないんすよね、あれ」


「押しても引いてもびくともしない」


軽く首を傾げる。


「あの先、なにかあるんすか?」


零の目がわずかに細くなる。


(……やはり知っていたか)


「開け方はわからん」


短く答える。


「だが、あの先は――」


一拍。


「“ 神域”と呼ばれているらしい」


統の目が輝いた。


「へぇぇ……」


「楽しそうっすね」


そして、にやっと笑う。


「てか一条さん、今日よく喋りますね?」


「滾ってるんすか?笑」


観客席から小さな笑いが漏れる。


零の眉が、わずかに動いた。


次の瞬間、完全に無視。


ボタンを押す。



アームが降りる。


金属が触れる音。


振動。


内部の重心が――動く。


零の耳が、わずかに反応する。


(……今の音)


アームが持ち上がる。


箱が止まる。


だが――


橋の縁に対する接地角が、

先ほどよりも明確に変化している。


観客がざわつく。


「さっきと違うぞ…」


「角度作ってる?」


零の指が、ボタンから離れない。


耳は、台の内部へ向けられている。


モーター音。


振動音。


重心の転がる音。


微かな周期。


(……見つけた)


難易度レベル5。


その突破口へ。


零の聴覚が、静かに研ぎ澄まされた。

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